第6話 学園の日々① 一緒に登校
翌朝になった。俺は部屋でシャワーを浴びてから寮の食堂で朝食。のち、制服に身を包み親友の騎士ユーヴェインと待ち合わせて寮を出た。
校舎と同じ丘上に併設されている、男子寮、女子寮。男子寮から徒歩で進むと、反対側にある女子寮からの女子たちと合流する仕様になっている。そしてそれから少しだけ歩いて校舎正門にまで達する。
「お。向こうから、シャル……たちだ。シャルと……それからミツキさんも一緒にいる。仲良くなったようだな」
ユーヴェの言葉に促されて、前方を見る。女子用の制服に身を包んだシャルとミツキが、並んでこちらに歩いてくる。俺たちは二人と合流し、さっそくユーヴェが聞きを入れる。
「シャルはミツキさんと……その、仲良くなったんだ?」
「そうなのです。昨日寮に帰ってから一緒に私の部屋でお茶会をして、意気投合しました!」
「ええ。昨日の夜は話し込んだわね。自室に帰る時は寮監に見つからないように結構注意したわ」
「ごめんなさい、ミツキさん。さすがに夜の十二時を回ってると、危ないかも……でしたね。見つかったらトイレ掃除一週間とかの噂だから、アブナイアブナイ、ですね」
シャルとミツキが、二人して顔を合わせて笑った。
「でも昨日は話に花が咲きましたね。なんというか……」
シャルが、ユーヴェとそれから俺を見て、自分の頬に両手を当てる。
「あんな話の翌日に男性陣を前にすると、顔に出てないかなって、ちょっとドキドキします」
「そうね。シャルは少し顔と……それから言葉に出ているかしら?」
ふふっと、ミツキが大人っぽく笑う。
俺は少し興味が出てきてシャルに聞いてみる。
「あんな話って?」
「あんな話はあんな話……です! 本人たちを前にして口に出せるわけはありません!」
「出てるけど?」
「ダメですっ。それ以上言うと、街まで罰としてお使いに行ってもらいます!」
「シャルは昨日の夜、俺とユーヴェの事を何か話してたわけだ。ミツキさんと」
このタイミングで、俺とシャルの間にミツキが割って入ってきた。
「そうね。私たち、年頃の女子だから」
「年頃の……女子!」
「そう。成長期の女子が女子寮で女二人で話す事だもの。こういう言い方は少し品がないけど……男子の事に決まってると思わない?」
「むー。どんな話か……気になる……」
俺は、腕組みをしながら呟いてから、同じくうなっている隣のユーヴェを見ると、なにやらムズカシイ顔をしていた。
シャルが、そのユーヴェの顔を覗き込んだ。ニマニマとした表情。くりくりした目が悪戯っぽく輝いている。
「ユーヴェは、気になる?」
「いや……。女性の秘密の話に口を突っ込むのは男子として……」
「気になるんだー?」
「いや、男子として気になるという事はなくて……」
「気になるんだー?」
「気になるというより婚約者として知っておかないとならないことなら……」
「むー!」
今度はシャルがはっきり不満だという様子で頬を膨らませた。そのシャルが、パアンッと張り手の様な叱責を跳ばす。
「ユーヴェ! しゃんとしなさい! 男でしょう! 気になるのですか!? 気にならないのですか!?」
「はいっ! 実は……気になります!」
「よろしい。それでこそ私の婚約者。将来は一緒になるんだからお互いの事はよく知っておかないと、ですね」
「はいっ! シャルロット王女!」
ユーヴェが背筋を伸ばす。シャルはそのユーヴェの反応に満足した様子でにっこりとした笑みを浮かべた。
ユーヴェはあくまで下手にしか出られない様子。それは身分的な事ではなくて、男女間の関係の話だ。これは……将来は尻に敷かれるなぁと思っていると、ミツキが最後を締めてくれる。
「シャルがユーヴェを。そして私がハルトを。お互いにいい相手に出逢えて女冥利に尽きるわね、という話。二人とも別々の相手だから、利害が絡む部分もないし」
「利害が……絡む……?」
「これが、導線が絡まると大変な話。男は男の決着のつけ方があるんだけど、女には女の勝負の仕方があるから、下手をすると泥沼よ」
「そう……なんだ……」
「そう。でも幸か不幸か、私たちはそうはならない関係だから一安心。シャルはユーヴェの首根っ子を捕まえていて、私はハルトに執着しているから」
ミツキは口にしたあと、自然な動きで俺の脇に並ぶ。シャルもそれと呼応するようにユーヴェに腕を絡める。
ちょっと……女の子って怖い生き物なのかもと、ユーヴェと目と目で会話してから四人並んで校舎を目指す。
豪華な尖塔がいくつも並ぶ校舎を前方にしながら、少し背筋が寒い登校の時間帯なのであった。
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