第3話 謎の少女魔法剣士ミツキ
翌日の朝の教室。机の回りに椅子を三つ並べて、シャル、ユーヴェとお喋りをしていた俺の耳に、「おはよう、ハルト」という新鮮な響きが飛び込んできた。
見ると、俺の隣にミツキが立っていた。
昨日の今日とは言え、聞き間違えようのない美麗な旋律。白いフォーマルウェアの制服に対して黒髪に漆黒の瞳なので、その色合いの対比が美しい。知らない内にミツキは登校していたようで、既に教室内にいる二十人程の生徒たちの注目を集めている。
「おはよう。ハルト」
「おはよう……。ミツキさん」
「昨日言った通りに、貴方の専属教師になってあげにきたわ」
「専属教師?」
「そう。ハルト専門の家庭教師。私は魔法剣士だから、剣も魔法を受け持てるわ」
「俺を鍛えてあげる……って、そういう意味だったんですか!?」
「そうよ。本気も本気よ」
「………」
なんと答えようかと俺が迷っていると、横に座っているシャルが割って入ってきた。
「ミツキさん」
「なにかしら?」
「ハルトくんはこう見えても勇者です。幼い頃から鍛錬を受けていて、まだ成長途中とは言え並みの腕ではないんです」
「そうなの?」
「そうなんです」
「でも私はハルトの教師をやるためにここに来て、それをやらないという選択肢はないのだけど」
自己を主張したミツキに、今度はユーヴェが付け加える。
「確かにシャルの言う通りで……。ハルトは見かけは柔和ですが、騎士団員の俺をも凌駕する腕があります。だから……」
「だから?」
「ミツキさんが、その、教えることは何もなくて……」
ユーヴェは言葉の最後を濁した。ミツキのレベルでは俺に教えることはできないと、はっきり言葉にすることをためらったのだろう。女性に優しいユーヴェらしいとは思う。
ミツキは、そのシャルとユーヴェを計る仕草。目線と面持ちに余裕を感じる。「どう返答しようかしら?」と慮っているような表情だ。
「なら……」
「「なら?」」
シャルとユーヴェが同時に反応する。
「試してみる? 私がハルトの教師が出来ないかどうか?」
「「試してみるって?」」
「実際に少し打ち合ってみましょう。ハルトと」
「「実際に打ち合う!!」」
シャルとユーヴェは驚いて目を剥く。
二人は止めに入った。
「そんなことしたら、ミツキさん、怪我しちゃいます」
「シャルの言う通りです。危険です」
「でも、貴方たちの言う通り二人の間に圧倒的な差があったら手加減できるから、怪我には結びつかないと思うけど」
「それは……そうなんですけど……」
「確かに……ミツキさんの言う通りですが……」
「どうかしら、ハルトは? 私と少し手合わせしてみるのは?」
ミツキを見る。その目は少し悪戯っぽく笑ってはいるが、顔つきは絶対の自信を感じさせる。しかし、俺とて幼い頃から訓練を受けている勇者だ。ミツキを怪我させないで引き下がらせることは出来ると踏む。
正直に言うと、この見目麗しい可憐な美少女であるミツキとは親しくしたいという気持ちがある。しかし「専属教師」というのはやり過ぎだ。手合わせを受ければ、ミツキは俺の教師になることを諦めるだろう、引き下がるだろうと考えたのも理由の一つ。
「わかった。手合わせしよう」
その言葉を受けて、教室内が風を受けた様にざわわとなびく。
「ミツキさんが勇者ハルトと手合わせ……。正直、ミツキさんが倒される所は見たくないな……」
「俺。俺は、ミツキさんと仲良くなりたいって思ってて!」
「でも、昨日告白した奴ら全滅だってよ。そりゃあもうあっさりとフラれたらしい」
「対決で負けたミツキさんを慰めるってのは、有りじゃないのか?」
「なるほど! その手があった!」
勝手な会話が方々から聞こえてくるがミツキは涼しい顔。俺の承諾の余韻が冷めやらぬうちに、「じゃあ今日の放課後。校舎裏で」とミツキが言い放ち、黙って自分の席に座る。
室内の興奮は膨れ上がったが、教師が入ってきて朝の礼会に突入する。噂はあっという間に学園中に広まって、その勢いのままに放課後の時間を迎えた。
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