第3話 ミステリアス・カリフォルニア
皆様は、スッと眠れるタイプですか?
私は残念ながら、寝付きが良くなくて、その上、起床時間が来ると、バッチリ目が覚めてしまいます。たいがいね。
だもんで、ともすれば睡眠不足になりがちです。
また枕が変わると更に寝つきが悪くなるもんですから、旅行とか、出張とかあまり得意じゃありません。
上司から今回、むっちゃ久しぶりに出張を命じられた時には、ついつい苦々しい面持ちになったのは、まことに至仕方ないことです。
去年の4月の異動前に行かせてもろた整体で、自分なりの入眠儀式をすると良いと教えてもらいました。それで、お風呂から上がると、イヤホンでYouTubeのヨガチャンネルを拝聴しつつ、及ばずながらヨロヨロとヨガのようなものを致しまして、その後ベットに横たわりゆっくりと深呼吸をして、人智を尽くして、眠りの到来をお待ちします。
その夜もヨロヨロした後、ベッドでゆったりと眠りの神の御降臨をお待ち致しておりました。
するとエアコンの稼働音の向こうから、なんぞ聞こえてくる?
うむ、聞こえてくる!
ズー、ズ、ズ、ズォン、ズー、ズィン、ズー、ザォン
え、もしかして、スタッフ、掃除してる?外からだから、外壁?外壁の掃除?
えー?まぢかよ。
こんな夜中に、さすがキャルルルホルニアよね。ルのとこは、巻き舌ね?
しばらく掃除が終わるのを待っていたんですが、いつまで待っても終わらないんで、スリッパを履いて、恐る恐る窓に近寄って、外をすかして見ました。
目の前に広がるのは、ただ暗闇だけ。
なんて、よく文字ではみますけど、実際、目の前に暗闇が広がった光景は、まるで、高くて高くて、高ぁぁぁい……どんだけ高い、ゆーてんねんいうて、後頭部どづかれても仕方ないほど高い。そして横にも大きな黒い壁が窓の外にあるみたいな、視界ゼロの閉塞感。
灯、ひとっつもない暗闇。
虚無。
誰か、窓に黒い布貼り付けた?って感じ。
何とも言えない心許ない感じは、普段いかに人工の世界に生きていたかを感じさせられます。
そして、外には誰もいそうにない。
いくら光熱費高騰の時代といっても、電気一つは点けるでしょう?
怪奇現象?
足元がすくわれるような不安感
這い上がる恐怖。
うひゃひゃひゃひゃ!
その上
コンコン
突如、暗い部屋に響くノック音
ひぃぃぃぃー
飲みましたね、息、むっちゃ飲んだ。真空地帯つくったくらい、吸い込んだ。
あたかもルンバの妖怪か、ダイソンの新製品かってくらい吸い込んだ。
「麒麟さん、もう寝てはります?」
「お、お、お、おう」
なんやAちゃんか。
驚きと安堵のあまり、どもりつつ、返事をしつつ、転げつ、まろびつ、ドアを開けますと、Aちゃんが枕を抱えて、立っておられます。
枕って、あんた……
思わず、私の可愛いベッド、振り返って見ましたね。例え、推しの織田信長公でも、今夜、このベッドで一緒に寝るのはお断りだ!
ま、向こうもお断りでしょうけどね?
ま、中に入りや。
まずは話から聞こか?
するとスルスル部屋に入ったAちゃんは、少し前屈みになって、小声で囁きました。
「波の音、高ないですか?」
あーね?
アレね?
波の音ね?
ふうん
さすが太平洋、琵琶湖とは音のスケール違いますなぁ。
そこで私、さらにハッと気がつきました。
ほんま、ほんまにね、これ、申し訳なさで胸がつまるんですけども。
ここ着いた時にね、なんや、おかしな匂いすんなぁ?って思ったんです。
潮の匂いでした!!
いや、ほんまね。
琵琶湖とか、風吹いても潮の匂いしませんし。
潮風って、スーパーの魚コーナーの匂いやねんな。
あ、待って。
私、沖縄が好きで。
いや、夏やのうて、冬のね。
夏の沖縄とかね、ちょっと、パリピではない私には荷が重いんで。
コロナ前には、ごくごくたまぁになのですが、年末年始を沖縄で過ごしたりしたこともあったんですけども。
そういう時には、目の前、海のとこに泊まって、海の中入って遊んだりしてたのですが、海の音とか、匂いとか、なんや思うた記憶が……ないんです。
なんでや工藤
さすがオリンピック種目の会場に選ばれる海は、国際的スケールの波ですな!何言ってるかわからへんけど。
で、まぁ、Aちゃんとは、イヤホンして寝たらどない?という話して、解散しました。
あっけなくてすんません。
ちなみに外灯はありました。
たまたま私の宿泊したところからは、目に入らなかっただけと、メガネもコンタクトもしてない裸眼というののせいでした。
未開の地みたいにゆーて、こっちもすんません。
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