第5話 カリフォルニアの圧倒的空とコンビニ

 私、どうしてもATMに行かねばならぬ用事ができました。


完全なる私用なんで、近場の銀行でササッと事を済ませたいと考えまして、場所をググると……ナイ。おい……

そんなことってアル?


後から考えると、ホテルのどっかにあったん違うんかなと思ったんですけど、頭の隅にもよぎりませんでした。


よくありますね。後から思いつくって。人類共通のバグ機能ではないでしょうか?


とにかく近場のATMはJAか、漁業組合か、コンビニか……

JAとか漁業組合とか、むっちゃ余所者感がありません?

漁業とか、こうムキムキ日焼けした海のおにぃちゃんたちが、「へぃ!らっしゃい」

あ、それはお寿司屋さんか……


「ATMどこや?」と、モタモタ、マゴマゴしてると、いなせなマッチョな方々から「どきな!邪魔だ!邪魔だ!」「ボヤボヤしてんじゃねぇ!」と巻き舌で怒鳴られ、魚を入れた箱がぶつかってくる予感しか……いや、妄想しか。


ということで、コンビニにGO!


テクテクテク

湿気の多い、暑い道を歩いていきます。

道端には草原のように、背高のっぽのブタクサが風に揺れ……


地下鉄もありませんし、私鉄もありませんし、路線バスもありません。たぶん。

頼れるのは、2本の足のみ!

これって一種の限界集落?


平たい道をテクテクテク

テクテクテク

横を車が時折、ブーンブーン、そばを勢いよく走り抜け。

点在するブタクサ野原のブタクサが、ユラユラ、風にゆれています。

ここんとこ、ブタクサ率ほんま高い。


ふっと何か動くモノが視界に入り、足元を見ると、蟹。

蟹!!蟹だよ!蟹!

カニ!!!

ズワイガニとかよりも、そらググっと小さいけど、爪ほどの大きさの蟹からすると大変大きなサイズ。

甲羅だけなら、10センチありそうな、足元を走られるには、ギョッとする大きさです。

それが長い足を忙しなく動かして、カッカ、カッカと鋭い爪を立てながら走っていきます。


キ、キ、キョワイ……

あの鋭い爪で刺されたら、そこからゾンビになりそう。


ゾンビにならないために、蟹縦断地帯を足早に通り過ぎ、ちょっと疲れて、立ち止まって来た道の方を振り返ると


なんて言うの?

圧倒的空感

むっちゃ空多い。


何、この空!


天の原 ふりさけ見れば 春日なるって


まるで蓋のように、まぁるい空が上にある。


そう、山ない。春日ならん!

山ないもん。視界の縁に、山がない。

春日よ、ここには三笠の山ない。

いや、これだと春日が、オードリー春日。トゥース!!


それはそれとして、千葉(のこのあたり)って、すっごい広い平野なんやなぁとしみじみ致します。


この風景は、中世尾張の風景に近いのかもなんてね、しみじみしみじみ致します。

そう、あの電柱が、村木砦合戦のおり、留守居役として斎藤軍が押し立ててくるのぼり……

ああ!

感無量にございますなぁ!

あ、興味ない?

そう。


 今まで私が住んでいたとこいうんは、どこいくんも、わりに交通網が発達してて、都会のパートと民家的なパートと山とか川とか自然のパートが、ギュッと凝縮されて、良く言えば、メリハリがあるところでした。

ですから、そこまでおんなじ風景が続くというのが無いんです。


だもんで、このどこまで行っても似た風景が繋がっていくという感じには、何とも言えない違和感があります。

いやその違和感は、ここだけではなくて、今住んでる街にもあって、どこか曲がり損ねると、終わりのない風景からパラレルワールドに繋がっている、みたいな底知れぬ怖さが、無意識の淵あたりに定住してる。


そう、フッと気が緩んだ瞬間に、じわっと滲んでくる怖さ。


あ……怖いといえば、この辺りは日本三大怨霊として、死後も名を馳せている平将門氏のトコじゃあなかったけ?


ひゅぅ〜

無常の風が、晴れたカリフォルニアに吹き付ける。


そういえば、さっきから車とーらへん。



将門氏の怨霊か、その手下の皆様が、やたら生えてるブタクサの影から、隙を窺っておるやもしれません。

あのカニは、もしかして怨霊の手下では?!


あ、そういえば

将門によるこの辺りの守護職の任命ですが、これが「上総守」じゃないんで、この時点ではそこまで謀反の気持ちじゃなかったんじゃないかとかとも言われていますね。

上総国は天領なので長官は「守」ではなくて、「介」なんですってね。ですから、「上総介」ってことは、朝廷を敬っているので、ということだそうで、はい。はい。

ほんとねー、社会の無理解、辛いですよねぇー!

尾崎豊氏も、声高に歌っておられました、はい。聴いたことないんですけど。

しかし「上総介」と言えば、やはり信長氏ですよね?ええ、ええ。


あっ!コンビニ、見えてきた!


と、気持ちを個人的嗜好で必死で引き立てつつ、見えてきたコンビニめがけて小走りに転げ込みます。


ダラダラ背中丸めて歩いてるかと思えば、足早になり、立ち止まったかと思えば、小走りにコンビニに駆け込む。

ご近所の皆様から見れば、見事な不審者かもしれません。


息を整えつつ、ドアを開けると海から出ていたサーファー!じゃなくて、サーファー姿のマネキンが!!

何故かウェットスーツを着て、首にはハワイアンなレイ。レイ……

横の棚には、サンオイルとか、よくわかんないですけども、髪の毛につけるワックスみたいなものとか、かごとか、ウェットスーツ。


うっわ、さっきまでの怨霊の道(失礼)から、メリハリあるな。


店内のお客さん、バスローブとか、Tシャツに水着のようなお姿。


あれ、まって?

もしかして、ここ、サーフィンの店?


3歩下がってドアを確認しましたら、某コンビニのマークが。

良かった、コンビニやった。


あっ!外に水道ついてて、そこで砂かなんか流してはる人たち、おった。

もちろん駐車場とコンビニは、9対1


しっかし、ここのコンビニ、すごいな。


これが世に言うホスピタリティ?と感動したコンビニです。



日本語不自由か。

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