相模国・其の三
第1話 足柄下郡・二子山の熊
明らかに
「
「
「け、気取られているのは……い、嫌だね」
下二子では
「
先に山頂付近を探る
縁がいっていたように、一枚だけ妖獣を探るための
いないからなのか、それとも符術がダメだったのか、妖獣のほうはなにもつかめない。
「熊は下二子と同じで三頭で群れているなぁ……家族、って感じじゃないから、単体で一緒にいるってところか」
「さっきのヤツらも同じだったな。三頭とも単体が群れているようだった」
しばらく探索を続けても、三頭の熊以外は見当たらない。
とはいえ、さっきの
用心はしておいて損はない。
「悪いんだけどさ、一応、縁も式を飛ばしてみてくんない? 俺だけじゃ、ちょっと不安」
「わ、わかった」
縁の放った式が木々のあいだを縫って離れていくのを見届けてから、四人で山の中へと入った。
向かう先は、まずは翔太の確認した熊三頭だ。
日が落ちる前に決着をつけたいけれど、山の夜は早い。
この山には翔太の探った熊だけだったようで、縁の式はすべて戻ってきた。
だんだんと薄暗くなっていく山の中を、急ぎ足で進んだ。
「――いた!」
三頭とも木陰に隠れるようにして、こっちを見ている。
きっと、この上二子山に翔太たちが入り込んだときから、気づいていたんだろう。
嫌な気配のもとは、この熊たちに違いない。
「あいつら……まだただの獣……だよな?」
「そうだな。でも雰囲気は異様だ。翔太、縁、二人ともあまり近寄るなよ」
その動きは素早い。
優人と
「縁もアイツに金縛り頼む!」
さっき大猪に金縛りの符術を破られたばかりで不安を覚え、縁に追加を頼んだ。
縁も結界を破られた不安が残ったままだったのか、すぐに金縛りの符術を放ってくれた。
優人も駿人も一頭ずつ相手にしている。
残りのこの一頭は、翔太と縁で倒したいけれど、さっきの大猪のせいで倒しきる自信がない。
「し……翔太、やろう。ボクたち、さ、さっきは駄目だったけど、ふ、二人ならや、やれる」
ついさっき、あれだけ符術と剣術で消耗しているはずなのに、縁はまだ戦う気でいる。
その熱意に翔太も嫌でも奮い立たされてしまう。
「わかった。やろう」
今のところ、二人分の金縛りは効いている。
カバンから呪符を出すときに、一瞬、
触れた瞬間、これを使うのは今ではない、そう感じていつもの呪符を手にした。
「
熊に向けて符術を放ち、続けて二枚の呪符を手に取ると、今度は優人と駿人に向けて放つ。
「
これは優人たち四人のために編み出した攻撃力を上げる符術だ。
二人の背中に呪符が貼りついたのを見届けてから、改めて熊に向かう。
「
縁も呪符を放ち、翔太の符術であちこちに切り傷のできた熊に、大きな雷が落ちた。
直後、縁は帯刀した刀を抜き、素早く熊の横をすり抜けた。
「
大猪のときとは違い、殺気をまとった縁の刀は、一撃で熊の首を落とした。
翔太だけでなく、
さっき
家を継ぐことができず、ろくに符術を教わることもできなかった翔太や縁にとっては、家柄云々といわれるのが一番
安養寺自身も同じはずなのに、よくもあんなことが言えたものだ。
「縁、凄いじゃん」
「ありがと……う……で、でもボク……も、もう無理……」
へなへなと腰を落とした縁は、刀を
柄を握りしめた縁の指を、ゆっくりと外してから、翔太が鞘に収めてやった。
低い熊の唸り声が響いたあと、少し離れた場所の木々が一斉に倒れた。
優人と駿人の技だろう。
台風がきたときのような強風が吹き抜けていく。
「二人も倒したみたいだな。もう日も落ちるし、このまま山をおりて
「う、うん。今日はもう、す、すぐにでも寝たいよ」
縁の腕を肩に回して立たせてやると、すぐに駿人が駆け寄ってきて、縁をおぶってくれた。
本当に駿人は過保護だ。
でも、これぐらいでないと、縁と旅を続けるのは難しいのかもしれない。
なにしろ縁は、筋金入りのビビりなんだから。
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