第5話 相模国・討伐完了
轟音とともに大猪に雷が落ち、勢いで吹き飛ばされた
倒れた大猪はピクリとも動かない。
「
聞き覚えのある声に振り返ると、思った通りの知った顔だ。
「
「安養寺『さん』、だろ? 本部に泣きついて
平塚で狐の案件で呼ばれた中にコイツもいたのか。
安養寺は
なにかにつけて、翔太に突っかかってくるのもコイツだ。
「俺たちは別に泣きついてなんかいねーし! 大猪だって安養寺が一撃で倒せたのは、俺と縁が弱らせていたからだろ」
「
翔太を侮蔑するような目つきでひと睨みしてから、今度は縁に嫌味をいう。
安養寺は本当は、
翔太自身のことはともかく、縁にまで悪態をつかれるのは我慢ならない。
「こんなところまで、そんなことを言うためにわざわざ来るなんて、ご苦労なことだな!」
「なんだよ? 本当のことだろ? 女好きとビビりは優人と駿人に置いてきぼりか?」
「いちいち嫌味なヤツだな? 嫌味をいい続けないと死ぬのか? 二人は今、熊を追ってる最中なんだよ!」
クッと含み笑いを漏らした安養寺は「やっぱり置いていかれてるんじゃねぇか」とつぶやいた。
頭にくる野郎だ。
「熊案件で来てるんだろ? 俺たちは
いつの間に戻っていたのか、安養寺の後ろに優人が立っている。
たぶん、今のやり取りを全部聞いていたんだろう。
優人の表情は厳しい。
安養寺は特になにを答えるでもなく、振り返りもせずに優人に向かって手を振ると、鷹巣山のほうへ歩きだした。
翔太の同期の中で安養寺は一番の年上だったこともあり、子どものころは
抜かれたくないと思っているだろう安養寺の気持ちはよくわかる。
翔太自身も同じで、櫻龍会の中ではトップクラスにいたい。
「安養寺! とりあえず……まあ、ありがとうな」
「安養寺『さん』だろ」
安養寺は翔太を振り返り、嫌味な笑顔を向けて山をおりていった。
「妖獣が出たのか?」
「ああ。優人たちのほうは?」
「こっちはただの熊だったけど、三頭いたよ」
「そうか。援護、行けなくてごめんな」
翔太と優人で縁に肩を貸してやり、
縁に怪我はないけれど、疲れているからか、腰砕けになっていて歩きにくい。
「ハヤがいたから、援護がなくてもなんとかなったよ。結界が急に破れたから、あとをハヤに任せて、こっちにきてみたんだ」
「来てくれて助かったよ。安養寺が出てくるしさ。まあ、助けられたってことにはなるけどな」
「ボ、ボクも、安養寺さんがきてくれて、よ、良かった……なかなかた、倒れないし……どうなるかと思って、こ、怖かった」
縁の震えが伝わってきて、翔太と優人は苦笑した。
「縁が頑張ったから、安養寺も一撃で倒せたんだよ。ありがとうな」
「ううん……も、もっと強い
こうして先のことを考えられる縁は、やっぱり強いと思う。
ビビっている割に、積極的で前向きだ。
「俺も武器、持ち替えようかなぁ。短剣じゃあ大物相手だと辛いわ」
「普段は翔太も縁も、俺とハヤがいるんだから困らないだろ?」
「そりゃあ、普段はな。けど、今日みたいなことが、またあるかもしれないじゃんか」
下二子と上二子の境の辺りで駿人の姿を見つけた。
翔太と優人に支えられた縁をみて、顔色を変えている。
「どうした? なにがあった?」
「猪が四頭出たってさ。ほかに大猪の妖獣も出ていたって」
慌てて駆け寄ってきた駿人に、優人が答えると、駿人は両手で縁の頬を包み、怪我はないか、具合はどうだ、と心配している。
――過保護め。
でも、ちょっとだけ羨ましい。
肩に回した手をほどいて「もう大丈夫だから」と山を登り始める縁と、隣に並んだ駿人をみながら優人の肩に手を置いた。
「優人もあのくらい、俺のコト心配してくれてもいいんだよ?」
「いいんだよ。翔太と俺は、このままで。ハヤは縁の兄貴にでもなったつもりでいるんだよ」
優人も女の子たちも、翔太がこんなにも『好き』を表に出しているというのに、サラッとかわしてくれる。
まったく、みんなつれないんだから。
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