武蔵国 其の一
第1話 多摩郡・金髪の男
本当は
ただ、平地よりも山のほうが依頼が多い気がして、多摩へと入った。
相模と隣接している山には、そこそこ高いヤツが多いのは、旅の初めに認識している。
ただ、このあたりだと大きな獣ばかりだ。
高額になるような妖獣や妖は、もっと大きな
それでもいないよりはマシで、深玖里は熊や猪に当たりをつけて数頭倒し、近くの村で請負所を尋ねた。
壁に貼られた中に、さっき倒した獣がいるのを確認して依頼書を取った。
倒したのは五体、依頼は六枚出ていた。
「一匹、
依頼書を剥がして受付をしていると、金髪の男と気の弱そうな挙動不審の男の二人組が入ってきた。
先に倒しても懸賞金は出るようで、ホッとしながら受け取ると、二人の横を通り抜けて扉を押し開けた。
不意に耳に『妖獣』と聞こえた気がして振り返ると、金髪の男と目が合う。
すぐに逸らしたものの、深玖里は思わず二度見してしまった。
(白髪と黒髪の男に似てる――)
「ん? どうかした?」
ジッとみつめたせいか、金髪の男がそういった。
慌てて顔の前で手を振って「なんでもないです」と答えた。
「ただ……つい最近、似た人をみたから……」
「なに色?」
「へっ……? あ……白と黒……」
なに色、なんて聞きかたをされるとは思わなかったけれど、咄嗟に髪の色で返したのは、妙に印象に残っているから。
それが正解だったようだ。
金髪の男は「ユウとケンか」といって、ハハッと笑った。
「オレは
「へぇ……兄弟だったんだ? どうりで似ていると思った」
「ヤツら、二人だった?」
「ううん。内村翔太と三人でいたけど」
駿人は軽く舌打ちをして、なにかつぶやいた。
ケンのヤツ……と聞こえた気がした。
「ところでキミ、依頼五件もこなしたの?」
「……まあね」
「ふうん……なかなかやるんだね」
駿人がなにかを言いかけたとき、挙動不審の男が駿人の袖を引っ張った。
「あ、あまり引き留めていたら迷惑だよ……はっ駿人がごめんなさい」
「別に構わないけど……アンタ、どうしたの? なんか大丈夫? 具合でも悪いの?」
「あー、気にしないでいいよ。コイツ、ビビりなの」
駿人は挙動不審の男を、『
「びっ……ビビりなんじゃないよ!」
「ビビりじゃん。あのね、コイツ、オレの髪が金髪なもんだから、チンピラに絡まれるに違いないって、いつもビビってんの」
駿人が笑い、縁は苦虫を噛みつぶしたような顔で「だって……だって」とつぶやいている。
こんな仕事をしていながら、チンピラごときにビビるとは。
「でも、なんかわかるかも。だって黒いほう……賢人だっけ? チンピラにボコされてたもん」
深玖里がそういうと、縁は「ひえ~っ! ほら、やっぱり!」などといって、駿人の袖を揺すっている。
その姿に思わず深玖里は両手で口を覆って笑いをこらえた。
「~~~っ! ボクは平穏に過ごしていたかったのに、なんで駿人と
「……オレは絡まれないよ。平穏に過ごしてるだろ?」
「きっ……キミ、キミも
縁は深玖里に震える声で訴えてくる。
櫻龍会は、妖獣や獣に懸賞金を出している機関の名前だ。
「アタシ違うよ。ただの登録員だから」
「ううっ……賞金稼ぎか……」
縁は駿人の腕に顔を埋めて嘆いている。
どんだけビビりなんだか……。
「なんかごめんね、変でしょ、コイツ」
困り顔の駿人に、深玖里は首を振ってみせた。
「二人は櫻龍会なんだ? ってことは内村翔太たちも櫻龍会なの?」
「そう。オレたちみんなずっとお世話になってるんだよ。ところでキミ、登録員っていうけど名前はなんていうの?」
「若山深玖里だよ」
「ふうん……歳は聞いてもいいのかな? 登録員になって長いの?」
「二十一だよ……十六で旅に出てすぐ登録して、もう五年になるの」
「ずっと一人旅? なんで賞金稼ぎなんかしてるの?」
「ん……どうしてもお金が必要なのと、人を探しているんだ」
駿人は深玖里を品定めするようにして眺めみて、櫻龍会に入ればいいのに、といった。
そのほうが旅をしやすいし、請負所で出ている以外の案件も受けられるようになるという。
「妖獣ばかりになるけど……単価が上がるよ」
稼げるようになるのはありがたいけれど、所属することで自由がなくなりそうな気がする。
それに、縁のようなビビりと組まされることになったら、それはまた厄介だ。
どうあっても、助けたい人たちと、探したい人もいる。
「いつか、入りたいと思ったら入るかもしれないけど……今は人探しもあるし、アタシは遠慮しておく」
「そうか……それは残念……っと、いけね。引き留めてごめんね。じゃあ、また」
駿人はグズる縁を引っ張って受付カウンターに向かっていく。
さっき言っていた、請負所に出ている以外の案件とやらを受けるのだろうか。
懸賞金の額が気になったけれど、深玖里は請負所をあとにした。
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