第28話 手紙
目覚めてすぐさまシャワーを浴び出勤すると二人が事務所で待っていた。
「遅れては…ないよね。二人早いね。なつみさんはいつもだけど」
田崎はいつも通りにこちらに頭を下げた。
「勝手にナイフ磨いちゃいました!」なつみはもう先輩面をしている。
「えっと、ナイフの鍵渡してないよね?」
「そこにかけてあるから。相変わらず不用心ですね!」ニヤリと笑い鍵をかけてあるフックを指さした。
「そっか、ごめんね。警報鳴るまでゆっくりしてて」三上が身支度を始めると「あ、今日はガスマスク持ってきました」とゆっくりと田崎は鞄からマスクを取り出す。新しい。外出はあまりしないのだろうか。肌の白さから紫外線を浴びていない事は少しは理解ができる。
パソコンを起動し確認すると、統計すると三上が経営しだして七百八十体のガボ人間を殺している。ほとんどはなつみが殺してはいるのだが。
「二人とも大丈夫だと思うけど、感染とか気をつけてね」念を押すとなつみも田崎もこちらを振り向いて口元だけ緩ませた。
すっかりと忘れていたが、契約書を差し出しサインを促す。
「三上さんはもう戦わなくていいです!田崎君も!」時間をかけ読んだなつみが真剣に言った。
「そんなわけにはいかないよ。田崎君も慣れてくれるから大丈夫だよね」三上は作り笑顔で田崎の肩に優しく触れる。田崎は顔を赤くして下を向いた。
田崎は口数も少ないし、性格も大人しい。普段人との関わりがあまりないのだろうか。
同性が好きなのかと疑ったが、先日はなつみと手を繋いでいた。
半信半疑になる。もしかしたら話題のそういうセクシュアリティなのかもしれない。
それはそれで構わないし、そこまで深入りする気もない。ただガボ人間を殺してくれればいいだけの話だ。
二人に印をもらった契約書を順の机の上に置く。
「今日も先輩がしーっかり教えてあげるから!」となつみはまた田崎の手を引いて事務所を後にした。なつみは問答無用に、積極的に行動しているのかもしれない。二人がもし付き合ったら、と考えると表情が緩む。
一人になった事務所で順の机に座り引き出しを開けて見てみた。今までは覗き見るのは引け目に感じ開けれなかった。
「順さん、失礼します。この机、僕が使っていいですか?」小さな言葉は事務所に響き舞い上がる。窓からようやく温くなりつつある風が入ってきて三上の身体に心地良く通り抜けた。
一段目の引き出しを開けるとガボ人間に関する資料や契約書が詰まっており、順はやはり勉強家なのだなと感心する。
二段目の引き出しを開けると、手紙が一枚と玲子との写真が入っていた。
玲子と順は中学生くらいだろうか。幼馴染のようだ。
手紙の中身を覗くのは性癖を持っているようで心苦しいが、片付けなければ使えない。それに気になって何も手につかない。
糊付けなどされておらず、容易に中の手紙が取り出せる。
真っ白の紙を開くと「君ならやれる」と一文字だけ書いていた。
頭が回らない。いつこれを書いたのだろうか。順は自分が死ぬをわかっていたのだろうか。いつこうなってもおかしくなかった。という言葉はこのためなのか。
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