第25話 田崎

「すみません。あの、求人募集を見てかけたのですが…」かなり気の弱そうで若い声をしている。

「ありがとうございます。いつ頃面接に来れそうですか?」三上も丁寧にゆっくりと話した。

「申し遅れました。私田崎と申します。面接はそちらの都合の良い日で構いません」

このような男にこの仕事が務まるのだろうか。

「では明日はいかがでしょうか?」

「かしこまりました。ありがとうございます。朝八時に伺います」

男は音を立てないように静かに電話を切った。

「あのさ、明日面接。男の人」なつみに告げると「えっやった!」やっとこちらを向いて興味を示した。

「イケメンがいいな~」とまた外を向く。

「楽しみだね、大人しそうだったけど」三上はナイフを磨きだした。

「んーだいじょぶかなー?」なつみは如何程か不安そうな顔をしている。

「どうだろうね。会ってみないとわからないね」

「今日は少ないから一人で行きまーす」スキップのような仕草を見せ、磨き終えた六刃を持ったなつみは事務所を後にした。


もうナイフはいらないのではないかと思索し、家に持ち帰り順の使っていたナイフ二本を仏壇の骨壺の前に備える。

「順さんすみません。二回使わせちゃいました」当然だが返事も返ってこないし、鳥肌も立たない。気がつけば四十九日を過ぎていた。

「順さん、もう行っちゃったんですか?」独り言は宙を舞った。


翌朝事務所に七時に着くと、身体の細い色白の少年が立っている。前髪は目の隠れる長さだ。三上に気付いた少年は頭を下げた。

「すみません。先日お電話した田崎です」なつみはまだ出勤していないようだ。

「どうぞおはいりください」事務所の中に導く。

田崎はドアの前でまた一礼をし中に入った。

すぐになつみが出社してくる。「わぁ!イケメンじゃないですか!やった!」

なつみは田崎の手を引っ張りソファーに乗せた。

おずおずと履歴書を出し、それを眺めると住まいは大崎で年齢は十八だ。

「大崎にはバスターがないので…」と目を合わせないまま発した。

「そっか。大崎は出張行くしね、ガボ殺した事はある?」

「はい、。」

間違えて、とはなんだろう。またなつみの父親と似たり寄ったりなのだろうか。

「いつから来れるかな?」三上は追及せずに聞いた。

「今日からでも大丈夫です」黒い前髪から目が見え、なつみの目のように輝いている。

この少年もサイコパスかソシオパスなのかと疑ってしまう。

「じゃあ、今日からで。慣れてないと思うから見てるだけでも大丈夫だから。あそこにいるなつみさんが凄いからさ」

なつみは窓からこちらを振り向き白い歯を見せて笑った。

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