第22話 順への想い
「三上さん!危ない!」と何度も自分の前のガボ人間を放置し、三上の前のガボ人間を殺してゆく。正直危なくはないし、なつみに何が起きているのかがわからない。
いつも通り素早く的確で体調には問題なさそうだ。
「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」と三上の手が空いた時に聞く。
「な、な、なんですか?」明らかに動揺している。
「いや新しい論文に、空気感染するって書いてたから何か知ってるかなって」
三上の質問は期待外れだったようで、なつみは明け透けな顔をした。
「知りませんよそんなの。都市伝説じゃないですか?」返事が冷たい。
この情緒不安定さはもしかしてあの日なのかもしれないと思い、何も言えなくなった。
三上はなつみに過保護に守られ十九体のうち二体しか殺せなかった。
なつみからシャワーに入る前「覗いてもいいですからね」と言われ返事を待たずにドアが閉まる。
「女の人ってわかんねぇ…」三上はソファーに座り込んだ。
シャワーから上がったなつみは上機嫌で「今日はお疲れ様の乾杯しません?」と問いかける。「うん、呑み過ぎなければ…」
あの悪夢は繰り返したくない。
なつみは購入していたビールを二本取り出した。
なつみが酒の力を使って三上に接近しようと企んでいる事も鈍感な三上は気付かない。
二本目のビールを飲み干したなつみは酔っぱらったふりをした。
「あのぉ、三上さんって彼女さんとかいるんですかぁ?」
「居ないよ。忙しいし、ってのは言い訳だけど」ふふふと笑う。三上は笑うと前が見えていないのではないかというくらい目が細い。それにもなつみはときめいた。
「えーもったいないー!ちょっと酔っちゃったんでそっち行ってもいいですかぁー?」そっちとは三上が座っているソファーの方だ。
「なんでかはわからないけど…いいけどもう吞まない方がいいんじゃない?」
「えーやらぁ、呑むー!じゃ、お邪魔しまーす!」ドスンと音を立て、倒れるように三上の隣に座る。べったりと身体を張り付けて来た。流石に鈍感な三上も心臓が激しく鳴った。
据え膳食わぬは男の恥と言うが、三上にとってその思考は嫌悪に値する。逆も然りだ。もしやこれは演技ではないのかと疑う。
「三上さーんちゅー」なつみは顔を近付けてきた。
「ちょっと待って。俺好きな人いるから」と告げなつみの隣から三十センチほど離れる。
「もしかしてあの人?」急に真顔になり順の机を指さした。
「そうだよ。ずっと好きだからさ。ごめんね」更に離れ、ソファーのギリギリの縁に座り直した。
「あの、もう死んだんでしょ?そんなの無意味だって」と不機嫌そうに言い放す。
「無意味でもなんでもいいから。今日はもう帰って」
酔っぱらっていたはずのなつみはスッと立ち上がり、無言で出て行った。
不愉快だ。それに明日はどんな顔をして会えばいいのだろうか。
もう一缶ビールを呑み、考えないようにして帰路に着いた。
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