第21話 恋

なつみはその頃殺人ゲームを楽しんでいた。

人を殺したくて仕方がない。父親を刺し殺した悦とした感覚が忘れられない。「あーやっぱり本物がいいなー。三上さん、何してるんだろ。彼女とかいるのかなー」と独り言を口走っていた。

なつみの母親はなつみが産まれてすぐに父親からの暴力に耐えきれず、なつみを残して出て行き、初潮を迎える前に父親からの性的虐待が始まった。

三上は今は頼りにはならないが、守りたい存在である。

「これって好きなんだよなー。告ろうかなー」ベッドに寝ころびコントローラーを投げだして笑った。


三上はまたも眠っていた。もう夜の九時だ。今から寝なければならないのに、昼間寝すぎて眠れそうにない。

仕方なく起き上がり朝食の準備をする。朝食といっても、いつも目玉焼きにウインナーとサラダだけだ。朝にレンジで温めて食べるだけの簡易なものだった。


結局眠らずに朝を迎えた。流石に少しでも眠らなかったせいか呆ける。無理やりに朝食を腹に詰込み、武装し家を出た。

事務所に幾分早く着くと、いつも通りになつみが待っている。

「三上さん!おはようございます!」今日も元気が良い。

「あのさ、いつも何時に来てるの?」腕時計に目をやるとまだ六時だった。

「うーん、五時過ぎには!待ち遠しくて…」と頬を赤らめ下を向く。

「ん?何が?」それ以上は聞けない。ガボ人間を殺すのが待ち遠しいのかと疑う。それは三上の中では疑心から確信に変わりつつある。

「だって楽しいじゃないですか、ね!」と再び笑顔を向けた。

「そうかな。なつみさんが来てからすごく助かってるけど、一人の時はきつかったよ」事務所のドアを開け、鍵をなつみに渡す。

「え、良いんですか?私、泥棒かもしれませんよ?」目を輝かせている。

「うん、いつも俺より早いし、泥棒じゃないのわかってるから」バッグを机に置き、下の引き出しからナイフを取り出した。

「あのー…今日は私ナイフ使っちゃおうかなって…出来れば、その、一緒のやつを…」と順のナイフ二本を指さす。順のナイフと三上のナイフは型が一緒だ。

今日のなつみはコロコロと表情が変わる。

三上は少し考えたが理解できずに順のナイフを二本取り出し磨いた後、手渡した。

何かが引っかかる。今日のなつみは妙におかしい。

「大丈夫?体調とか悪かったら帰ってもいいからね」声をかけたが、なつみは顔を隠し、急いで外を見た。

「三上さん、今日は多いですよー!一緒に行きませんか?」

三上も外を確認すると十九体しかいない。いつもならばなつみ一人で殺れる数だ。

「本当に体調大丈夫?無理しちゃだめだよ?」

「はい!えへへ、体調はめっちゃいいですから!」またもや顔を両手で隠す。

まるで恋する乙女だ。その通りなのだが、三上は鈍感で気付かない。

「お、警報。行きましょ!」となつみが手を差し伸べてきた。

女性の手を握る等、気恥ずかしくてできないが、なつみの押しに負けそっと手を重ね、すぐに離し出発をした。


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