第16話 忠告
早々と事務所に戻り、なつみはシャワー室に入り洗顔だけをした。
「あれ?三上さんは入らないんですか?あっそうか」なつみは大きく瞬きを何度かした。三上は戦っていない。
三上は「順さんすみません」と考え、冷蔵庫から順のビールを取り出し一口呑んだ。
身体にアルコールが染み渡ってゆく。順と一つになったような感覚に陥る。
しばし瞳を閉じていると「三上さん?大丈夫ですか?もしかしてお酒めっちゃ弱いとか?」なつみは三上の顔を覗き込んだ。
「あぁ、いや、ちょっとね。考え事」と順の机に目をやる。
「あーなるほどですね…」なつみは何か勘付いたように同じく順の机を眺めた。
「今日はもう帰っていいよ。ありがとうね」
「…お疲れ様っす」とだけ告げなつみは静かに事務所を後にした。
一人になり天井を仰ぐ。「今日は一緒に居てもいいですか?」
当然だが返事は返ってこない。五百の缶ビールをゆっくりと飲み干し、事務所のソファーに横たわる。不思議と安心感に包まれ深く眠りについた。
「三上さん!昨日帰ってないんですか?!」なつみに身体を揺すられ目が覚めた。掛け時計を見ると七時半だ。何時間寝たのだろうか。関節は痛むが頭は軽い。
「あーごめんね。すぐ準備するから」起き上がると少し足元がぐらついた。
机の端に手をかけナイフを一本取り出す。「なつみさんは六刃使うよね?」
「はい!こっちの方が好きですし!二日酔いは大丈夫です?」またも顔を覗き込む。三上は少し目線を逸らした。
「うん。二日酔いではないよ。じゃあちょっと待ってね」と机に座り、事務作業を終わらせてから、ナイフを磨き出発する。
外に出るだけで汗が滴り落ち、蝉が煩いくらいに鳴いている。
今日は四十体ほど居るだろうか。今までで一番多い。少しおののく三上に対して、なつみは大変嬉しそうだ。
「安心してくださいよ!目と口に血が飛ぶのだけは避けてくださいね!」
「うん。今日は頑張るから」ガボ人間はこちらに気付きよろりと寄ってくる。「行きましょう!」となつみは三上の背中をひと叩きした。
順が脳裏に浮かぶ。駄目だ、しっかりしなければ。今は集中してガボ人間を全て殺さなければ。と心構えをし、二人でガボ人間に向かい走っていった。
結果、三上は十五体。なつみは二十五体を殺した。
なつみの戦い方は相変わらず、いや、いつもよりも上機嫌で殺していた。
目と口に血が飛ぶのだけは避けてくださいね。それは玲子からも順からも教わってはいない。粘膜に感染するのだから当然だ。だが気が付かなかった。
なつみは最後の一体を殺し笑顔で「三上さん、楽しかったですね!」とこれまでで一番輝いて見える。
「少なくてごめんね、帰ろうか」三上はなつみに背中を向けて事務所に向かった。
時刻は昼の三時になっている。流石に頬、服は黒い血液でまみれており、
なつみは「今日もシャワー借りますね!」と浮足立ち、興奮がおさまらないようだ。
「俺も後で入るから、自分の良い時に帰っていいよ」なつみがシャワーを浴びている間、三上はパソコンで事務作業に没頭した。
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