第15話 六刃

五時に目覚ましをセットし眠りに着こうかと思うが、まだなかなか眠れないようだ。

それに季節は夏で、このままでは体力が持たない。

「順さん、僕の眠気、持って行ったんですか?」暗闇の中で囁くと、寒くもないのに鳥肌が立った。(存在があればだが)霊か魂の様なものが居て、名を呼べば来てくれるのかもしれない。それは三上にとって幸せを感じる。霊でも何物でもいいから順に会いたい。

結局大体深夜三時に眠りについた。

眠った、という感覚はない。自然と瞳を開けると朝の五時だった。今日は遅刻はしない、大丈夫そうだ。給料を上げるのは問題ないのだが、何分失態だ。もう繰り返すわけにはいかない。

六時四十分に事務所に着くと、またもなつみが三角座りをして待っていた。なつみは一体何時に事務所に来るのだろうか。

「三上さんおはようございまーす!待ちましたよー!」三上に気付き、笑顔を向ける。「えっと、出勤は八時からでいいんだよ?俺は作業とか準備があるから少し早いけど…」壁に目をやる。三上は順の笑顔と比べてしまいそうで、まだ上手くなつみの顔を直視することができない。しかしなつみはしっかりと三上を見つめる。

ナイフを取り出そうとすると「あ、そうだ。これ知ってます?」となつみはバッグから、丸い持ち手に鋭い刃が六本並んだ刃物を取り出した。

「なにこれ?なんか凄そうだけど」腕を組みしばし観察する。

「えへ、前の職場に返し忘れちゃってそのまま持ってきちゃいました。これはまぁ所謂手裏剣ですねー!飛ばしはしないけど。二本あるんで一本使います?」なぜか照れ笑う。

「へぇ、いや、俺まだナイフ一本しか使えないから使ってるところ見てみるよ」この刃物がどのようにして使われるのか想像が全くつかない。

「かっこいい所見せますよ!ナイフよりもこっちが慣れてるんで!これはそのまま六刃と言います!」と、まるでゲームを楽しんでいるようだ。


外に出るとガボ人間は五体しかいない。幾分なつみは残念そうだ。

「あー…来るとき二体いたのになー。あ、そうだ、三上さんそこで見ててくださいよ!私全部殺るんで!」嬉々として話す。玲子も順もガボ人間を殺す時は嬉々として見えた。いつか三上もそうなっていくのか。それともその前にガボ人間を駆逐しているのかはわからない。少なくとも今はまだ倒れる瞬間のガボ人間の顔や、飛び散る黒い血液に慣れていないことだけは自覚がある。

なつみは丸い持ち手に両指を入れ六刃をくるくると回した。

ガボ人間が襲いかかる前に頭を伏せ、右腕に回りこみ六刃を回しながら右胸を引き裂く。なつみに気付いたもう一体のガボ人間の右胸を、今六刃で刺したままの状態で回し裂いた。血が顔にかからないように身体を瞬間的に避ける。屈伸するかのようにガボ人間の脹脛を切り、確実にとどめをさしてゆく。

凄まじい。演劇のラストを見ているようだ。

これこそ不意に感動し涙が零れそうになる。

瞬く間に五体のガボ人間は倒れて行き、約二十分ほどで全ての駆逐が終わった。

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