第13話 夢

なつみは上機嫌のまま帰宅していった。

事務処理をしていると、どうやらガボ人間一体につき政府から三十万円が入るようだ。そのうち従業員の給料は一体につき十万円。残りの金は事務所の維持費、経営者の給料で後はほとんど動いていない。

経営者の給料と言っても従業員とほぼ変わらない。貯蓄している金を順は何に使うつもりだったのだろう。

退職金にしては高すぎるし、ガボ人間がいなくなった時のための金だろうか。

いつかガボ人間も尽きる。今や警報が鳴り外出する人間などいない。

しかし警報が鳴らずとも、徘徊しているガボ人間は存在する。

明日、恥を捨てなつみに聞いてもいいだろう。

目が疲れてきたので冷蔵庫から、冷やしておいたアイマスクを使おうと冷蔵庫を開ける。冷蔵庫には順が用意していたビールが入ったままだ。

順の面影が、匂いが消えていくようで手が出せずにいた。

アイマスクを使うとあのはにかんだ笑顔が瞼の裏に焼き付いていた。

「順さん、会いたいですよ」不意に出た言葉は煙草の煙のように宙を舞い消えていく。アイマスクを冷蔵庫に仕舞い、順の骨壺を抱きしめた後帰り支度をした。


帰りの電車はとても混んでおり、皆私服やスーツだ。ガボ人間がいようが働かなければ生活はできない。三上は軽服には慣れているが、その他の人間はさぞや恐ろしいだろうな、営業、外仕事、接客業の人間はガボ人間が出没している間どうするのだろうと想像する。目を閉じるとなつみが華麗にガボ人間を殺していく様が浮かぶ。つい華麗に殺す様には見惚れてしまう。サイコパスは俺じゃないのか、と疑った。

そして「次の社長は三上君だ」という順の言葉が頭の中をぐるぐると巡る。

そうだ、しっかりせねばならない。目を開けると降車駅間近だった。


その日は久しぶりに眠りにつくことが出来た。

三上は子供に戻っており、右手に母、左手に順と手を繋ぎ空に浮かぶ。皆微笑んでいる。それは温かく幸福を感じた。

浮かんでいる途中で二人同時に手を離され、ふわりと三上一人が地面につく。母と順は微笑んだまま天に上がり消えて行くという夢を見た。

目が覚めても夢か現実かが理解出来ずに「母さん、順さん。待って。ずっと一緒にいたいよ」と涙が零れる。

我に返り、時計に目をやると六時半だ。なつみを雇い、いきなり遅刻とは何とも情けない。恐らくなつみは七時には事務所の前に居るだろう。

急ぎ歯を磨き、顔を洗い事務所へ向かうと、やはりなつみが事務所の前で三角座りをして待っていた。「三上社長!今は何時ですか!」となつみは頬を膨らまして見せる。

「すみません。今は七時四十分です、ね」三上は頭を掻いて下のコンクリートに目線を移した。「すぐに出ましょう!まだ警報は鳴ってないけどもうガボが出始めてますよ!」なつみから背中を押され事務所に入る。

順がそうしていたようにナイフを磨きなつみに手渡した。





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