第11話 別れと出会い
ガボ人間は死亡し、一時間ほどで大抵のウイルスが消えてしまう。
回収屋を呼ぶ前に三上は順の口の泡を丁寧にふき取りキスをし抱擁をした。もしウイルスが残っており、これで感染しても構わない。
順の身体はすっかりと固くなり、元の肌色に戻り、まるで子供が寝ている様だ。「これで最後だ」と自分に言い聞かせる。
日が暮れ、回収屋に連絡を入れた。ウイルスが大方死滅したとはいえ、何重にも厳重になっているビニール袋に順の遺体は入れられ運ばれていった。
葬儀さえも行えない。母の時もそうだった。全て回収屋が終わらせた後、骨だけが骨壺に入れられ帰って来る。
出勤しても順がいない。三上は順を殺してしまった。否、自身のせいでそうしなければならなかった。翌日、遺骨となった順を順の机の上に置いた。
ガボ人間が憎く、至らなかった自分も憎い。
後悔をしても時間は戻らないし、これからは一人では限界がある事も分かっている。求人募集の会社に連絡を入れた。はたして誰か面接に来るのか。
一人で戦いに行くが十体が限界だった。九体を殺し、事務所に戻ると電話が光っている。
順が亡くなり、二週間目だった。電話を折り返すと相手は元気な女性で「あ、どうも!斎藤なつみと申します!面接を受けたいんですがー!」と言った。あぁ、順も元気だったなと思い返すと鼻がツンとなり目に涙がたまる。「いつ来れそうかな?」三上は隠すように話した。
「今日でも明日でも!いつでも構いません!でも早くがいいです!」なつみは心なしか心が躍り、待ち遠しいようだ。
「じゃあ明日にしようか。八時にこれる?」雇用するのも慣れなければならない。
「はい!では明日八時頃に伺います!」と言い電話は切れた。
夜になり久しぶりに母の仏壇の前に座る。
「母さん、俺、このままでいいのかな。頑張らなきゃだけどさ」
母の遺影を見て深いため息をついた。「もう寝るね。明日は面接だから」と三上はベッドに潜り込む。
あの時最後にした冷たいキスが忘れられない。明日出勤すれば順が笑って出迎えてくれるのかもという妄想に毎晩駆られる。
最期に「私もだ」と言ってくれた。本来ならば共に戦い、いつしか結ばれていたかもしれない。毎日自責の念が押し寄せる。なぜあの時自分が盾になれなかったのだろう。なぜあの時順に見惚れ、隙を見せてしまったのだろう。
眠れないまま朝を迎え、顔を洗おうと洗面台に立つと自分の顔色に呆然とした。
それまでは順を殺してしまった自分の姿を見るのに嫌気がさし、見ないように努めていた。その顔はまるで死んでいる様な土気色をしている。
顔を洗い、両頬を叩き気合を入れた。
七時に事務所に行くと、なつみと思われる女性がドアの前で立っていた。全身黒い服を着ている。
「斎藤さん、かな?」
「はい!ちょっと早く来すぎちゃいました!」となつみは頭を下げる。
面接といっても老人以外は採用する気だった。
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