第9話 告白
街に降りるとガボ人間が沸いて出るように歩き近づいてくる。三上は一本、順は二本とナイフを取り出し戦闘態勢に入った。
三上はまず一体のガボ人間の胸を抉る。刺すよりもすぐに殺せるからだ。ただ、まだガボ人間の死に際の目には慣れそうにない。
「順さん、なんでガボは普通の人間を見分けられるんですか?」順は三上の背中につき、二体同時に殺す。もう八月だ。汗が頬を伝う。
「呼吸じゃないかな。勉強したわけじゃないからわからないが、ね!」三上の横についたガボ人間と自身の前にいるガボ人間の胸を刺した。
三上は危うく噛まれるところだった。「すみません。集中します」とただ殺す事だけに頭を理没させる様務める。
「良いんだよ。ちゃんと見てるから。一応社長だぞ!頼れ!っと」集中しようと思うが続々とガボ人間を殺してゆく順につい見惚れてしまう。
「今日の三上君は変だぞ。熱でもあるんじゃないか?さっきから私を見ているだろう?ガボになりたいのか?」と流石に息が上がり、二十三体目のガボ人間の胸を刺した順は睨むような眼で三上を見た。
「すみません。順さんが殺すところが美しく見えて」本音を漏らしてしまった。
順は暑さ、疲れと照れで頬を赤くし下を向く。全てが可愛く見える。
瞬間一体のガボ人間が順の左腕に向かってきていた。
「順さん危ない!」と大きく手を広げ、庇おうとすると順はするりと三上の腕をすり抜け、右胸にナイフを構え突進するとガボ人間は順の右手首に嚙みついた。
「あぁ、しまったな。後は頼むよ」順は急に膝から崩れるように地面に着いた。
残りのガボ人間七体を殺し、順を事務所まで運ぶ。順は亡くならずにガボ人間になるようだ。
「本当にすみません、本当に…」三上は泣いている。まさか自分のせいで順が感染することになろうとは思いもしなかった。
「いや、いつこうなってもおかしくはなかった。それよりも冷蔵庫から酒を取ってきてもらえないか?」順は無理に笑顔を作る。冷蔵庫には日本酒が三本入っていた。
何杯か酒を呑んだ後「契約は覚えているな?そして次の社長は三上君だ。そこの書類を取ってきてくれ」と両手で肘をさする。鳥肌が立っている。
「ここにサインをし、修正印を押し三上君の名前と住所を書け」言われた通りに住所氏名を書いた。涙が書類に滴り手が震える。
「もう泣くな。三上君なら大丈夫だ。ありがとうも言えなくなる人の気持ちも考えたまえ」
「僕には順さんを殺すなんて出来ません」と情けなく泣き続けた。「大人だろう?約束事は守るものだ。私がガボになったらどの道殺すしかない」順は仏のような顔をしてふふっと笑った。
「でもありがとう。これで玲子に会えるよ」急に真顔になる。三上は自分のせいで玲子が死んだのかもしれないと、今までの順の振る舞いを思い巡らせ勘付いた。益々と涙が止まらない。
「今日は三上君には大仕事があるからな。私がガボになるまで酒を呑んでもらおう」とコップの日本酒を飲み干す。
「でも僕には、そんな、事は。僕は順さんが好きなんです」三上は自分で吐いた言葉に驚いたが順は反対側のホワイトボードに目をやる。酒を酌み交わし続け、気が付くと順の肌が変色をし始めていた。
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