第8話 進化

「順さん。ガボには人間であった記憶はあるんですか?」戦いが終わり、ビールを呑んでいる時に聞く。

「あるわけないだろ。三上君、頭もウイルスに侵されているんだよ?」順は三上の顔をしっかりと見た。長きに渡って目線を外され、顔を見られたのは久々だ。やはり、の時に何かミスを犯してしまったのだろう。流しはしないが、なぜか順の目に涙が溜まっている。

「実は、先日順さんが近所の知り合いのガボを殺した時に、ガボから名前を呼ばれたんです」三上は腕を組み暗くなった外を見る。

「そうか。まあそのようなケースもあるかもしれないな」とだけ言い順は三上に背中を見せた。


ガボ人間の全身の表皮は少量の粘り気を帯びた粘液が出ている。今現在わかっている事は、それが人間の粘膜や傷口に入り感染するという仕組みだ。しかしワクチンが整出されようが、着々と進化を遂げ追い付いていない。

ワクチンと言っても感染しないものでなく、感染の進化を一時期食い止めるという付け焼刃の様な代物だった。即刻ガボ人間は進化を遂げ、ワクチンの意味を成さない。

全住民はガボ人間が出没していない時に政府から配られたガスマスクのようなマスクに鎧のような姿で外出しなければならない。それでも私服で外出し、運悪く徘徊しているガボ人間に遭遇し感染してしまう人間も度々いた。

アンデッドバスターは私服だ。戦いにくいからなのか。


三上は戦いの後、いつも服を洗っても洗っても臭いが取れない気がし、漂白剤につけ白黒にまだらとなった服を着ていた。警報が鳴り、戦いが終わるとシャワーを借り着替えて帰る。

ガボ人間は減らない。何体存在しているのだろうか。

世界各地にアンデッドバスターは存在しており、出張等はない。それは毎日家に帰り母に話しかけたい三上にとって喜ばしい事であった。


半年が過ぎ、ガボ人間は五回目の進化を遂げていた。

三上もすっかりとガボ人間を殺す事だけには慣れている。順と共に戦い、順よりも多くガボ人間を殺す日もしばしばあった。

次第に順と戦う日も減っていく。それは自信に繋がり、同時に寂しい事でもある。


「おはようございます。今日は何体いそうですか?」

「うーむ、今日は特別に多い気がする。三十はいるんじゃないかな。私も行くよ!」

三上の胸は高鳴った。順と戦い、気持ちを共有出来るのが嬉しい。

いつしか出勤前に明るい順に会いたい、と思うようになっていた。それに嬉々として踊るようにガボ人間を殺す姿は美しく目を惹く。この気持ちは「恋」に近いのかもしれないし、もう「恋」をしているのかもしれない。

昨夜は「俺はマザコンなのかな」と母の仏壇の前に座り、酒を呑みながら問いかけたほどだ。


警報が鳴り響く。

「さぁ行こうか!」順は三上の背中を叩き気合を入れた。



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