第2話 デビュー
酒のおかげですんなりと寝れた。だが眠りは浅い。
母と手を繋いで歩くという短い夢を見た。起きると自然と涙が出ている。
やはり少しでもガボ人間を殺らなければならない。
ガボウイルスに侵された人間は、記憶も無ければ人間という自覚も無い。
ただ、人を襲うだけだ。ある意味では母がそうならず亡くなったことは良かったのかもしれない。
朝五時に目が覚め、支度をする。スーツなのか、動きやすい服なのか迷う。
しかし面接時、順と玲子は私服だった。戦う時はどうなのだろう。
結局白いトップスに黒いボトムスという無難な服に決めた。
時間は思いの外早く過ぎ、七時になり出勤する。
「三上君おはよ!さあ今日はデビュー戦だね!」順は自身の事のように楽しそうに言う。順は紺色のワンピース、玲子は全身黒い服をまとっている。やはり戦う時は「武装」らしい。
「これ」と玲子は十八センチほどのナイフを渡してきた。
「弱点っていうか確実に殺れるのは胸の右だよ!」順はホワイトボードに簡易な人間の身体を描き、赤いペンで丸を付けた。
「心臓じゃないんですか?」
「ガボはねー、右に集中するんだなあ。一度死んでるようなもんだから心臓は関係ないんだ!」腕を組みフンと鼻息を鳴らす。
街に警報が鳴り、窓から外を見た玲子が「来た」と合図をした。
「いってらっしゃい!頑張ってね!」順は終始笑顔だ。
「順さんは行かないんですか?」
「あたしは事務作業だ!玲子と変わりばんこだから、次は一緒だよ!」大きく口を開いて笑った。
玲子は静かに「今日は多い。行くよ」と言い、事務所を後にする。
玲子についていく途中エレベーターの前で「絶対に引っかかれないように」と念を押された。玲子は口数が少なく人に関心が無さそうに見えるが、実は心配性なのかもしれない。
外に出るとガボ人間が二十体ほど徘徊している。手に重力が無いようにだらりと下げ、身体の色は赤紫で目は赤く変色し、実に気味が悪い。こいつらが母を殺したのだ。
一瞬呆けていると玲子は早速、素早く一体の右胸をナイフで刺した。
ガボ人間は膝からぐしゃりと倒れこんだ。「早く動け」玲子からこちらを見ずに注意され我に返る。しかし人の形をしたものにナイフを刺すという事は度胸がいるものだ。ガボ人間の右胸に向かい直前で目を閉じナイフを刺す。
皮膚が柔らかい。少し硬い豆腐に刺している様だ。
目を開けるとガボ人間は倒れこんでいた。口から泡を吹きこちらをぎょろりと見て即刻白目に変わった。黒い血液が白いトップスに飛び散っていた。ガボ人間であろうと「人を刺してしまった」と自責の念が押し寄せる。
その間、玲子は慣れた手つきで次々とガボ人間を殺してゆく。
嬉々として見えるのは誤認だろうか。結局三上はガボ人間を二体しか殺せなかった。
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