第12話 太陽のように

それから俺は

あいつのバイト先にお世話になっている。


所長が、絵に描いたようにいい奴で

「これ嫁が持って行けって」

と言って、ぶっきらぼうに渡す弁当が

なぜだか俺の楽しみになっていた。


「無添加の野菜しかうちは食べないから」

そう言う所長の照れ隠し、


この前、所長の奥さんが事務所に来て

「毎朝忙しいのに、2個弁当作れとか、

野菜は無添加にしろとか

一体何なのよ、隠し子?

この前なんか、急にだよ?

夜に弁当の作りおきだって

立った事のないキッチンに立ちだして。

うちには隠し子を認知する

そんなお金なんてないのよ!」

と話す声が聞こえ


外で聞いていた俺は

たまらず

「自分です。きっと。

俺...1人暮らし初めて、

俺...3年後はきっと空にいるから」


と伝えてしまった。


所長の奥さんは

「....。

こんなイケメンにお弁当作ってたの?

私が直接渡したぁい

本当なに....イケメンじゃない」

所長以上の笑顔で言ってくれた。


俺の事を知っている事務員は

「夜はせめて私に作らせてくれない?」

と戯け、

「ダメ、そんなの私が家に行く」

と言い合う2人は

まるで高校生の様にはしゃいでいた。


こんな幸せで良いのかって

涙が出たのを2人は

何も言わずにそっとしておいてくれた。


きっと今まで不幸だったわけじゃない。

俺はこれまでの自分の後悔なんて

これから許してあげられる気がした。


「さぁ現場行きますか」

冷蔵庫にお弁当をいれていると

あいつが俺に言った。


トラックに乗って

FMを聴きながら現場に着くと

そこは俺の昔の記憶にある

懐かしい場所だった。


入り組んだ路地を進むと

閑静な住宅地に一軒の広い庭付きの家があり

ここが今日の仕事場のようだ。


「今日は雲か」

そう言ってあいつと一緒に

玄関に向かった。


ピンポン


「はい。

今出ます。」

氷ついた声だった。


依頼主は女性。

こんな一軒家に似つかわしくないほど

若く、表情は暗い。


「必要な物、これだけです。

他捨ててください」


あいつは

「分かりました。事前に聞いてますんで。」

と言った。


依頼主が奥に行くと

「訳ありかな」

っていう無神経な笑顔のあいつを

1発引っ叩き


「中に入りますね」

と俺は言った。


綺麗に片付いた家、

搬出は楽そうだ。


手分けして作業していくうちに

曇りの空から

いつの間にか太陽の光が溢れていた。


「写真立て、どうしますか?」

そこに一つだけ残った写真立て。

写真は空の写真だった。


「持って行きます」

そう言う彼女は大事そうに写真立てを

抱きしめた。


思わず俺は

「俺、空っていう名前なんです。」

と伝えると彼女は

「私は、雪。」


しばらくの沈黙後、

「ドラマみたいな出会いね。」

と言った彼女が笑った。


「私、空が嫌いなの。

青いから。」


そう言って、罰の悪そうな顔をした雪を

俺は

「太陽みたいですね。」

と呟いてしまった。


彼女は

「え?」

と聞き返し


急に恥ずかしくなって

空を指さした。


「太陽が出てる」

雪は笑った。


「本当だ。」

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