第10話 それは

「これはお前が届けるべき人に

ちゃんと届けてやれよ

後悔はするな」


所長の無責任な言葉に

やはり時は止まったままだと確信した。


「そんな...。」


所長は今日の天気のように

急に顔をだした

あの鬱陶しい太陽のような

笑顔に変わって


「俺はお前が自分をわたしと表現する

育ちの良さみたいなもんが好きだったけど

そのうち

俺って言うようになるんだな」


とケラケラと笑った。


理解できない無責任な言葉を合図に

急に時が動くのがわかった。


手を挙げ部屋を出た所長に

何も言えないまま


わたしは更衣室に、

一旦この荷物を持ち込み

ひとまず着替える事にした。


「本当、意味がわからない。」

そう呟き、

この空間ににつかわない色をした

ダンボールをじっと眺め


先輩が戻ったら

依頼主に戻そうと考えていた。


それなのに所長と先輩の言葉を思い出し

手がダンボールに伸びる。


中の封筒を一つ手をとり

ため息をつき

私は中を確認した。


「ゆきへ」

なんだよ、汚ねぇ字じゃないか。


いつの間にか

わたしの顔は笑顔になっていた。


「・・・・。」


なんだよ....これ。

こんな手紙...。


そこには

「お前を愛していたのは、俺じゃない。」


雨のような途切れ途切れの字で

ただただ

1文字一文字が震えているように感じた。

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