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「いや、その子も結構変わってるね」

「そ、そう?いや、そう......かも」

 エミちゃんとはここ最近、銭湯のサウナ室で頻繁に会うようになっていた。二回に一回は会っている気がする。はっきりと待ち合わせしているわけではない。

 会った時は他愛ない会話をしている。エミちゃんは大抵の質問には答えてくれていた。つい昨日聞いたのは、コンビニスイーツが好きでよく買っていること、コーヒーはブラックでは飲めないということだった。さっき奈美子にそれを話したらどうでもいいと言われてしまった。

「ここまできたら一回見てみたいわ」

「あっ、サウナくる?」

「えぇ......それはちょっといい」と奈美子は嫌な顔をする。

「そこ以外で会ったりしないの?」

「......いや、連絡先知らないし、名前は下の名前しか教えてくれないから......それにサウナが会う場所みたいになってて、どこかで会わないかってちょっと聞きにくいんだよね」

 エミちゃんは個人が特定されることが嫌なのか、苗字や通っている大学のことははぐらかされる。内緒があった方が面白いから、とはぐらかされたけどその真意はわからない。私はどこまで踏み込んでいいのかわからず、連絡先も未だに聞けていなかった。

「でも、柚はもうちょっと仲良くなりたいんでしょ」

「まぁね。今でも仲はいいと思うんだけど......」

「そんな頻繁に会ってるのに......変なところでくすぶってて面白いよ」

「ちょっ、面白がらないでよ」

「ごめんって」と奈美子はヘラッと笑った。


 * 


 その日はサウナ室に行くと先にエミちゃんが入っていた。閉じていた目を開け、私だとわかるとひらひらと手を振ってくる。

「今日も会いましたね」

「そうだね」

 いつものように定位置に私は座る。エミちゃんが座る場所もいつも決まっていて、一人だった時もそのスペースはなんとなく空けるようにしていた。多分、エミちゃんもそうしている。お互い、会うことが前提になっているようでなんだかくすぐったい。

「......そういえばね」

「はい」

「大学に仲がいい子がいるんだけど、エミちゃんのこと話したら面白がっちゃったんだ。見てみたいって言ってたんだよ」

 誰の事かというともっぱら奈美子のことだ。

「そう......ですか」

 エミちゃんの返事の歯切れの悪さに私は気づく。横を見ると、なんともいえない表情を浮かべていた。

 というか......嫌そう?

 エミちゃんはこちらを向いてくれない。もしかしたら、私がエミちゃんと奈美子を会わせたいと思っているように取られてしまったのかもと私は思った。自分のことを中々教えてくれないエミちゃんのことだ。私が勝手に話したことやその相手が踏み込んでくるかもしれないということが嫌だったのかもしれない。とにかくエミちゃんが望んでいるのは現状維持、ということはわかった。

「ま~でも、アイツはサウナとか苦手だから絶対こないし、私も呼ばないけどね」

 笑いながら、慌てて私はそう付け足す。それを聞くと「そうですか......」とエミちゃんは肩を撫でおろし、安心したように息を吐いた。キュッと口を結んだその表情は嬉しそうに見える。そしてチラッと私の方を見た。

「......っ」

 それはどういう意味なんだろう。

 エミちゃんの見せた表情に私は固まってしまう。

 単純に見知らぬ人が自分の居場所に入り込むことへの拒否感がエミちゃんにあって、それが回避されたから安堵した、多分きっとそうなんだろう。

 でも......一瞬みせたあの視線の意味、いつものような余裕っぽい笑みではなくあどけない笑顔でこちらをみた意味は、どう受け取ったらいいんだろうか。

 ゆっくりと瞬きをする。動揺していることを悟られないように、私は目線を逸らした。

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