第38話

披露会とやらはその後すぐに始まり、クレアとアーノルドが連れ立って、いろいろな人のことろに挨拶に行っていた。

私とお母さんの所にも来て、定型文な挨拶をしていった。

二人の挨拶回りが終わると、両家の当主の挨拶があり、正式に両家がカレン商会の後ろ盾になると言う突然の発言に、お母さんと二人で震え上がった。

その後に押し寄せてきた、来場者の皆さんからの挨拶やら家への招待やらをさばいていたら、終わるころには喉はカラカラでお腹はペコペコで満身創痍になっていた。

終わり掛けに残った料理を、ひたすらに端っこでもぐもぐする親子は、異様だったかもしれない…反省。


翌日は、昼までみんなで朝寝坊をして、午前中に届けられた招待状を吟味し、それぞれに参加不参加のお手紙を書くことになった。

午前中だけで12件のご招待が来ており、参加するのは5件と決めて、絞りに絞った。

一件目は、クレアのお母さんの友人だという方のお茶会にお母さんが。

二件目は、アーノルドのいとこに当たるご令嬢の所に二人で。

三件目は、領都で大きな商会を商っている方からの挑戦状に二人で。

四件目は、会場で話しかけてくれた可愛らしいご令嬢のお家に私が。

五件目は、クレアが初めて主催するお茶会に二人で。

そうと決まれば、あとはそれぞれで着ていくものを用意することになる。

さすがにこんなに招待があると思ってなかった私たちは、領都で追加の衣装を2着ずつ購入することになった。

それぞれに格が有りドレスコードも違うということで、どうしても持ってきた衣装では間に合わなかった。

大急ぎでお出かけの支度をして、お店に急ぐ。服を買えば、靴と装飾品も必要になると気づいた。

マーサとマリアンヌさんと相談しながら、使いまわせるものは使いまわし、足りない分を宝飾店に見に行くことにした。

ついてきたマリアンヌさんはにっこにこで、マーサは無感情にてきぱきと荷物を整理していた。

商会長と副会長としては、持ち服が少なすぎると何度も言ってきたはずなのに、やっとわかったのか!と、呆れていたらしい。

帰ってから、マリアンヌさんがこっそり教えてくれた。

私は私で、お婆ちゃんに教えて貰ったはずの礼儀作法を、必死に頭の中の引き出しから引っ張り出す羽目になっていた。

お母さんはお母さんで、出かけている間に届いた招待状の吟味をしていた。

結局何件か追加で行くことにして、お返事を書いていたようだ。

怒涛のお茶会参戦ラッシュが、しばらく続くことになるらしい。


そして、私にとってはこの人生で初めての男性とのデートの日がやってきた。

朝からマーサとマリアンヌさんの手を借りて、おめかし。

少し遅めに迎えに来たアルは、ラフな中にもきちんと感と清潔感のある服装だった。

「おはよう、カリン。今日も可愛いね。大きなリボンが、とっても似合ってるよ」

「おはよう、アル。ありがとう…」

この男は、人を褒め慣れすぎている…朝一のイケメン褒め殺しボンバーは、効果てきめん過ぎる…

言いながらもさっと手を出してエスコートしてくれる辺り、慣れている…

うぅ…そういえば前世でも私の恋愛偏差値は底辺の底を舐めているような状態だった…今日、生きて帰って来れるだろうか…

「紹介したいところもたくさんあるし、好きそうなところも見つけておきました。どんなところに行きたいですか?お嬢様」

キラキライケメンハニースマイルで、冗談めかして聞いてくるアルに、しどろもどろでおススメでお願いするのが限界だった。

「了解。この時間は、市場がにぎやかで楽しいんだ。ゆっくり歩いていこう」

騒がしい市場を冷やかしながら、試食という名のつまみ食いをして歩く。

はぐれない様にと繋がれた手が、ほんのり冷たく感じて気持ちいい。

坂を上った先の街路樹の横のベンチで一休みして、街を見下ろすと複雑に入り組んだ領都が見えた。

小さな丘になっているこの場所は、当時まだ小さな町だった頃に削られる前の森から氾濫した魔物の大群から街を守った偉大な魔法使いの戦いを詠った石碑があるそうだ。

その先にある、小さなレストラン的なお店がお気に入りだそうで、お昼はそこで早めに食べて雑貨屋などを巡ろうかと提案された。

もちろんOKと返事をして、ゆっくり街並みを見ながらお店に向かう。

中世のヨーロッパの港町を思わせるような、レンガ造りの建物が迷路のように入り組んでいて、迷子になる自信しかない。手を繋いでいてもらって正解だな。

「着いたよ。ここが、マレーニア食堂。僕のお気に入りのお店。店の窓辺からの景色がいいんだ。入ろう」

頷いて手を引かれるままにお店に入ると、おしゃれで家庭的な雰囲気の家族経営の洋食屋さんとういう言葉で全て説明できそうなお店だった。

何も言わずとも、窓際の席に案内された。もしかして、事前にお願いしてたのかな?

「どう?」

「素敵…キレイね」

「よかった。先に食べるものを決めてしまおうか」

こちらのピザ的なシェアできる食べ物とスープとサラダを注文して待つ間、アルの訓練の内容や同期や先輩の話などを聞かせてくれた。

なんだかんだ楽しそうで、よかった。

「カリンは?副会長になって、何か変わった?新しいこと、何か考えてるの?」

「ん~、各部署の人とお金の管理が面倒くさいかな。次はね、泥かヨモギを探そうと思ってるの。ずっと探してるんだけど、最近有力情報が手に入ったのよ」

「泥?!泥かぁ…想像もつかないね。でも、卵の時も心底驚いたけど効果が凄かったし、泥も凄いことになりそうだね」

「えぇ、一部の泥はお肌にいいのよ。王都の北の海に、いい泥がありそうなの。あとは、小さい時から探している草が2種類見つかったら最高ね」

「これから、どんなことになるのか楽しみで仕方ないよ。カリンは、すごい人だからね。僕も精進あるのみだなぁ」

「別に凄くは、ないわよ。でも、やりたいことなら、たくさんあるわ。立場が変わったし色んな所を飛び回ることはあんまりできなくなるだろうけど、私もまだまだ頑張るわ」

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