第33話
「あの、よろしいですか?何故、こんな小さな田舎の商会である、カレン商会をご存じなのですか?」
「あら?ご存じなかったのね。あなたのお婆様と私のお婆様は、昔からの友人なの。何度かお会いしたこともあるわ。素敵な方。ハイリ様が、『孫の商品を売るために為に立ち上げた商会が、軌道に乗ったから』と、商品と使い方を送ってくださったのよ。それで、お婆様が私とお母様に分けてくださったの。とても気に入ってしまって、ハイリ様を通じて今も購入させてもらっているのよ」
「…お婆ちゃん、何も…そんな…言ってな…」
は?え?お婆ちゃん、やばくない?すごくない?ってか、王の母?王妃の母?いや、そんなことどうでもいいけどさ…混乱の極み!
「本当よ。だから、みんなあなたに会いたかったの。ごめんなさいね、お父様もお母様も連れてきてしまって。でも、私、お礼が言いたかったのよ」
「い、いえ。あの、なぜです?お礼って…私何も」
「私ね、おでこにひどい吹き出物があったの。髪を上げて人前に出れないような。それが、キレイになったのよ。そして、そのおかげで、やっとお嫁に行けるの。吹き出物のせいでお相手をずいぶん待たせてしまって、本当に辛かったのよ。だから、ありがとう」
「あ、いえ、いえいえ。そんな…恐れ多いです」
「ふふ。今日もハイリ様からお話を聞いて、楽しみにしてきたの。よろしくお願いしますね」
「は、はいっ」
結局、王女殿下・王妃陛下・国王陛下三人ともが私の前に順番にお座りになった。
なんでやねん…失敗できない…だがしかし、王族に認められたという箔が付けばカレン商会は飛躍的に大きくなる…いいのか?いや、いいのか。混乱の極み、継続中。
クレアとアルを見ると、後ろにいた貴族の方の何人かをまとめて対応してくれていた。頼もしい…
王女殿下はローズとジャスミン、王妃陛下はオレンジとジャスミン、国王陛下はミントとジャスミン。
家族で一部分だけ密かにお揃いになってる辺り、仲良しだな。
お三方ともお気に召してくださったらしく、ご満悦でフリフリと瓶を振っていた。
そんな姿を見てほっこりしていたのも束の間で、一つだけわがままを聞いてくれとお願いされた。
「なんでしょうか?私が出来る範囲であれば…」
「お婆様にも、お渡ししたいの。一つだけでいいの。余分に作らせてもらえないかしら」
良かった…ジャスミンは王家以外に売るなとか、買い占めさせろとかじゃなくて…
「わかりました。特別におひとつだけ。香りは、どうなさいますか?」
折角狙ったわけでもなくジャスミン繋がりになったからと、王女殿下はお婆様の分としてジャスミンとラベンダーを選ばれた。
本当に仲良しなんだろうなぁと、ちょっとほっこり。
帰り際、王女殿下から化粧品にローズの香りは出来ないのかと言われた。
申し訳なさそうに、ちょっと照れたように頬を染めて、耳打ちするように超至近距離で聞いてくるから、めっちゃドキドキした。
心臓に悪い王女殿下である…
「申し訳ありません。ローザの花を大量に使っても少ししか香りが取れないので、商会で大々的に売り物にするには難があるのです」
「そうなのね…わかったわ。ごめんなさいね。今回の香水は、とっても貴重なものなのね。ありがとう」
「申し訳ありません」
心底悲しそうな王女様の顔を見ると、心から申し訳なくて、どっかでローザの栽培を始めようかと本気で考えてしまった。
今回の原価の4割強はローザの花の代金と言っていいくらい、大量に使う上にお高いのです。
後ろについてきていた人たちの中の希望者たちが香水を作り終わったのか、御一行様方はまた白い〇塔状態で、教室を後にした。
そして、ちょうどお昼休憩の時間。教室を一旦閉じて、三人で持ち合ったお昼ご飯を食べる。
この三日間のこの時間は、三人の心を癒してくれる唯一の時間だった。
「ちょっと、朝から緊張が過ぎたね。大丈夫かい?カリン」
「アル…大丈夫に見える?」
「見えないかな…ははは…」
「カリン、お茶をどうぞ」
「クレアぁ~ありがとう~。おいしいよぅ」
「よかったわ。でも、本当になんだかドッと疲れたわね」
「ホントだよ。まさかお婆ちゃんが、王族と友人関係だなんて…元貴族なのは知ってたけど」
「えぇ、とても気品のある方だものね。さすがに、驚いてしまったけど」
「優しいお婆様という、印象なんだけどね。僕には」
「あぁ~、本当に疲れたっ」
「でも、カリン。王族の方々が気に入ってくださってるなんて、すごいことよ。商会の未来は、明るいわ」
「本当に、有難いことだよ?カリン。王女殿下から直接お礼を言われることなんて、前代未聞だよ。僕の友人は、すごい人だったんだね」
「や~め~て~褒めすぎないで~。すごいことだし、ありがたいことだけど、私は自分のしたいことをしただけなんだから。それに、王女殿下のお言葉に胡坐をかくわけには、いかないよ。王女殿下に、申し訳ないもん」
「カリンのそういう所、好きだわ」
「私も、クレアのことが大好きよ」
「僕をそっちのけで、いちゃつくのやめてくれないかな…割って入れないんだからさ」
「ごめんって。さ、昼からも頑張ろうか」
食事の後始末をして教室を開放すると、待ってましたとばかりに雪崩れ込んでくる午後イチの整理券を持った人たち。
まだまだこれからが地獄の本番なのだと、思い知った私たちだった。
最後まで、ただ只管に、馬車馬のごとく、働きましたとも!
青瓶の残りが10を切ったところで、最後のお客様がお帰りになりましたとも。
発表会終了の案内が流れてからも、今いるお客さんまではと学校側にわがままを通させてもらった。
先生たちも、最後のお客さんがお帰りになるころには、勢ぞろいして私たちの様子を見に来ていた。
「お疲れさんだったな、三人とも。よく頑張ったじゃないか」
「後片付けしちゃいましょう。あとは、この教室だけだから」
「しょうがない、手伝ってやるからさっさとやるぞ」
「動け動け、もう少しだから」
先生たちにお尻を叩かれて疲れた体に鞭打ってなんとかんとか片付けを終えると、三人ともしゃべる気力もなく別れ際にふらりと手を上げるのが精一杯だった。
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