第31話

なんだかんだ、そうこうして、香水用の精油の候補が決定した。

人気No.1のローズ、安定のNo.2ラベンダー、華やかさが売りのジャスミン、爽やか担当ミント、安らぎのヒノキ、嫌いな人が居ないオレンジ、以上6種。

まぁ、無難な感じにまとまったかな?と思いつつ、この6種類の精油を作るための材料集めにせっせと発注を行っている私だった。

瓶も精油用のいつもの茶色と、お渡し用の青を大量発注。

見本として、当日全ての精油単品での香水見本と複数組み合わせた組み合わせ見本も作成しないといけない。

楽しいから何も苦にならないけど、作らないといけない精油の量が読めなくて困る。

何故かって?理由が発表されずに突然、学生向けの初日、学校と王侯貴族などの関係者向けの2日目、一般公開の最終日と3日間行われることになったらしく、みんなが降って湧いた変更に大慌てだ。

一部では、カレン商会の新製品が出回るとの噂があるらしく、従業員他関係者全員にに箝口令を厳しく申し付けなかった私の落ち度だ。

一応、従業員には未発表の商品については口を閉じる様に言ってあるから、他の場所から漏れた可能性がある。

犯人捜しをするのは得策じゃないから、どこもかしこも噂話が出来ない程に忙しくなったのは、よかったと言える。

だって、そこまで大事になるなんて、考えてなかったのよ!貴族とかに広まるのは、もう少し先だと思ってたし、密かに王族まで来るんじゃないかなんて噂聞いて、私の顔は赤と青と紫に変わったわよ!ぶっ飛びすぎやろがいっ!!


材料が届くまでは、何度か忘れたころにクレアとアルに作り方のテストをして、卓上サイズの看板や簡単な作り方の説明を絵入りで作り、一度に数人来た時の対応などを確認した。

材料さえあれば残りの準備などは、慣れもあって案外あっさりしたもので、他の人たちが追い込みをかけている時期には、ほぼ全てが終わっていた。

ゆっくりと我が家でお茶を飲みながら、作戦会議という名の雑談会をしていたほど。


「じゃあアルは、卒業したらすぐに領都に行くのね。クレアも帰っちゃうし、寂しいな」

「カリン、僕も寂しいよ。ここでこうしてお茶をしているのは、なんだか楽しかったんだ。同性の友人もたくさんいるけど、君たちのおかげで女性が苦手じゃなくなったしね」

「私も、気を遣わずに話が出来るということが無くなってしまうのかと思うと、憂鬱だわ。カリンも一緒に来てくれたらいいのにと思うけど、わがままは言えないわ。カリンには、カレン商会があるのだもの」

「たまには遊びに行きたいし、来てほしい。アーノルドには会いたくないから、来てくれる方が嬉しいけどね」

「あれで案外彼は、いろいろ考えてるんだけどね。最初の印象が悪いと、尾を引いてしまうよね」

「最近は…そうね、ずいぶん優しくなったわ。この前は、階段で何もないのに手を貸してくれたのよ?誰も見ていなかったのに」

「うそ~。そんなこと出来る男だったの?」

あははと笑う私とクレアの表情に、一人微妙な顔をしてアルは呟いていた。

「アーノルド…可哀想に…」

笑いながらお喋りをするのもあと何回あるだろうかと切なくなりながらも、学校生活最後の思い出作りイベントで成功できるように頑張らなくちゃ!と、意気込む私だった。


そして、やってきました発表会当日。

朝からこの地方は晴天で、まさに発表会日和。

青空の下で展開する飲食関係のプチ屋台、各教室を使って行う展示系や体験系、武道場や運動場などで行われる騎士たちの演武や魔術演目、劇場を敷地内にぶち建てて行われる演劇と、お祭り的な要素しか感じられない。

毎年見ていたはずなのに自分や商会のことで忙しくて、何にも記憶に残ってない。

「毎年、こんな感じだったのかしら?カリンとの思い出はたくさんあるのに、毎年の発表会の記憶がないわ」

「もっとみすぼらしかったよ。今年は、特別だと思う。三日間も開催されたことなんて、無いからね」

「よかった、記憶がないのが私だけじゃなくて。でも、クレアをずっと私に付き合わせてたってことだよね。ごめん」

「カリン、大丈夫よ。こんなに賑やかなのなら惜しいと思うかもしれないけど、記憶に残らない程度のものなら、カリンと何かしてる方が楽しいもの」

「クレア嬢…先達たちに容赦ないね。まぁ、確かに、去年まではちょっとつまらなかったからね。仕方ないかな」

「私には、こっちが本来あるべき姿だと思うんだけどね」

「「同感」だわ」

ブースのある教室からの景色を眺めて三人でクスクスと笑い合いながら、準備を始めた。

昨日までに運び込んであるテーブルなどに、今日運び入れたものを並べて飾りを施す。

今日は、まだ、校内だけの前哨戦。どれだけの子が来てくれるかな?クレアとアルに交代で客寄せをお願いしてるから、大丈夫とは思うけど…

1瓶作成するのに、削りに削った原価は銀貨1枚と銅貨2枚。売価は、銀貨1枚と銅貨3枚。

せめて、少しは支払った元を取り戻したい。

商会からは宣伝広告費だとして経費で落とすから気にするなと言われているけど、気になるものは気になるのだ。

だって、経営はあんまり分からないけど、商売人であることには違いないんだから。

今回の売り上げで一位を獲得すれば、1チーム全員で小金貨5枚。

全部完売したとして売り上げの儲けは、銅貨1300枚。

完売して優勝すれば、日本円にして18万円の稼ぎだ。

それを3人で割って、一人6万円。降って湧いたお年玉状態。

お金に困ってるわけじゃないけど、商会の手は借りたけど、自分で労働して稼いだお金で何か恩返しがしたいんだもの。

家族にも従業員たちにも、一緒に頑張ってくれた職人さんやクレアとアルにも。

何はともあれ、今日からの三日間は無心で頑張ろう。

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