第30話

水分を抜いたアルコールというのは、手間がかかる。自分じゃ、無理。

でも、専門家は何とかして作ってしまうのだ。

何度も作っては、確認と不具合の調整を話し合い、結局できてしまった。

アルの家の伝手を通して作ってもらったエタノールもとい非飲用酒精は、香水・化粧水・消毒薬・フレグランスミスト・洗浄液など、いろいろなことに使えるので、今後も定期購入することに決定。

化粧水もエタノールを使って作れば、使用感がさっぱりする。

そろそろベースをバージョンアップしたいと思っていたし、ここにきてエタノールが使えるのは、純粋に嬉しい。

後は、ガラス工房に出る量を調整するために、はめ込んでくるっと回したらロックされる穴の開いた内蓋付きの小瓶を作ってもらった。

一滴ずつ、振り出す様に使う形だ。

簡単に開くけど、普通に外れないのでこれはいろいろなものに使えると、ガラス工房で正式に商品登録された。

極わずかな凹凸の差で使用感が違ってくるのだから、熟練の技というのはすごいものだ。

いつか、霧吹きとピペットも作ってほしい。

ミストも作りたいし、精油を一滴ずつ確実に使いたい。

ガラス工房だけで出来るわけじゃないから、難しいかも知れないけど。

それとガラス工房には、液体を混ぜる計量できる器と混ぜる持ちやすいガラス棒に瓶に移すための小さな漏斗を10セットずつ発注した。

どれもこれも初めての試みとあって、工房長が興奮しすぎて倒れないか心配になったりもした。

私も負けじと、精油をたくさん作ってみた。

花系のローズ・ラベンダー・カモミール・ジャスミン・ユリ、樹木系のヒノキ・スギ・マツ、葉っぱ系のユーカリ・ミント、シトラス系のオレンジ・レモン・ゆず、それぞれ似た花や木・果実などから黙々とひたすらに抽出し続けた。

あと、探しても見つからなかったのは、イランイラン。欲しかった…好みは分かれるけど、個人的には好きな香り。

だがしかし、精油にするには珍しい沈香と白檀の香りがあったことに、テンションが上がった。両方とも、所謂ちょっといいお線香の香り?なんだか元日本人の私には安心する香りなので、表には出さずに個人的に練り香を作ろうと思っている。

この13種類の香りの中から、クレアとアル・お店のみんなの意見を聞いて当日持って行く香りを絞ろうと思っている。

あんまりたくさんありすぎても、みんな迷って分からなくなっちゃうから。

当日までに、5か6種類まで絞りたいところだ。

ついでに従業員たちに作り方を教えて、調香の得意そうな人を探すのもいいかもしれない。

香水専門のお店があっても、いい気がする。


全ての物を一度サロンに運び入れて、クレアとアルに学校で声をかけ、研修休業という名の一日貸し切り日にして、主要なほぼ全員がサロンに集結していた。

「では、これから、皆さんに香水という新たな試みの実験台になっていただきます。ここにある13種類の香りの中から、好きな香りを1から3種類選んでください。それを混ぜ合わせて、自分だけの香水を作ってもらいます」

「「はい」」

みんな素直に行儀よく、順番に匂いを嗅いでいく。

一番人気はローズ。続いて、ラベンダーとジャスミンとユリ。無難にフローラル系は出るのは、そりゃ当たり前だわな。

ヒノキとユーカリ・ミントにオレンジも中々、2番目として選ばれる率が高い。

全体的に、フローラル系とウッディ&シトラスの清涼感派に分かれた。

完全にウッディにするよりシトラスと合わせるのが人気なことに、ちょっとびっくり。

ジャスミンとオレンジの合わせ方も、チラホラ。

クレアはローズとユリの香りが喧嘩するので、どちらをメインにするかで悩みに悩んでユリに決めたようだ。

メインのユリにカモミールとランベンダーをサブに合わせた、フローラルブーケ。

クレアらしいなと、密かにチェックを入れておいた。

アルは、ヒノキ・ユーカリ・ローズという、変則的な香りをチョイス。

これまた、ニッチな香りを好むことを新発見である。

「みんな、それぞれ選んだみたいだね。じゃ、次は、非飲用酒精と合わせていくよ。

分量を、間違えないように。精油はこうやって優しく振ると一滴ずつ出てくるから、乱暴にしないようにね。じゃ、やっていくよー」

みんなに見える様に、計量器に非飲用酒精を入れて分量を目で見て声で聴いて理解してもらう。

そのあとにジャスミンを一滴とオレンジを一滴、ガラス棒で優しくかき混ぜて、漏斗を使ってゆっくりと静かに瓶に注ぎ、中蓋をしっかり締めて、出来上がり!とみんなに見せた。

おぉーと上がる歓声に、順番に香りを確認してもらう。

「嗅いでみてわかったと思うけど、そのまま嗅いだ匂いと想像した匂いと実際の香りには、少々ずれがあるの。だから、思うような香りにならないこともある。一応精油も非飲用酒精は多めに持ってきてるから、ちょっとくらいなら失敗してもいいよ。じゃ、やってみてね」

クレアとアルの手元を見つつ、みんなの様子も見ていた。

ミャリスタさんを含む獣人系の人達はみんな、ウッディ系の優しい香りを選んでいた。

鼻が、人より敏感なのかもしれない。

個人的に気になったジョエルさんは、もう一度一つずつ香りを確認していた。

嗅いでいたのは、ローズ・ラベンダー・ユーカリ。どれをどれだけ入れようかと、考えているのかもしれない。

マリーさんは欲張りすぎてローズとユリが喧嘩しているらしく、頭を抱えていた。

エメルさん・マリアンヌさん・メメさんの施術三人娘は、軒並みラベンダーをメインに据えていた。

面白かったのは、レオネさんがシトラス系3種を使った、完全なシトラスノートを作ったことだ。

性格が出るものだなぁと、楽しんだ。

全員が作り終わったのを確認して、次は香水の付け方についてのレクチャーだ。

「まず、付けすぎ厳禁です。匂いがきつすぎて、自他ともに鼻が痛くなるからね。つける箇所は、2か3か所。つける場所は、首筋・胸元・手首・腰などかな」

「腰、ですか?」

「うん。匂いは下から上に上るからね。服に付けるときは、裏側とかの目立たないところがいいね。モノによっては、変色したりするからね」

「「なるほどぉ」」

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