第29話

カリンちゃん、ついに最終学年になる。

ついに卒業したら成人となる、最終学年に上がってしまった。

この世界に転生して早14年が過ぎ、もうすぐ15年。

クレアと出会ってから、5年目に突入である。

思えば、いろいろあった気がする?

クレアを推すと決めてハンドクリームを作ったことから始まった商会。

クレアにマッサージをしたことから話が進んだ、サロン。

サロンがなければ、女性の悩みに特化した薬も作ることにはなってないかも。

そんな学生時代も、あと一年で終わってしまう。

長かったような、早かったような…?

クレアと共に毎日のように過ごすことが出来る残りの時間も、それだけしかない。

何か、思い出も手の中にも残るものが欲しいな。

お揃いで作った、小さなぬいぐるみのリボンみたいなもの。

感慨深く考えながら廊下を歩いていた私は、何かにぶつかった。

「いてて…ごめんなさい」

「カリン、大丈夫?」

「大丈夫かい?カリン。ごめん、ちゃんと前を見れてなくて」

「アル?いや、こっちこそごめんね。クレア、心配かけてごめん。大丈夫だよ」

「そうだ、ちょうどよかった。二人はもう、発表会のこと決まってる?」

「ん?今考え中かな。サロンみたいなことを、やろうかと思ったんだけど許可出なかったから」

「そうね。一人につき教員用机一つ分くらいの空間しか許可できないって、言われたものね」

「うん。狭いよね?騎士とかの実技実演は申請すれば、競技場とかが使えるのにね」

「そっか。もし、よければだけど、僕も入れてくれない?騎士ってさ、戦うくらいしか出来ることないんだよね。で、その倍率が高くてさ。雑用とかで構わないから、一緒にやらせてくれると嬉しいんだけど…無理かな?」

クレアの方を向くと、微笑んで頷いてくれたことにホッとした。

「いいよ、一緒にやろう。まだ考え中だから、アルも含めて出来ることを考えたらいいよ」

「あぁ、ありがとう。カリン。君には、お世話になりっぱなしだね」

「いえいえ。マッセン家の女性陣には、お得意様になっていただいてますから」

冗談めかして片目を閉じて見せると、アルの益々イケメンになった顔に柔らかい日差しみたいな笑顔が咲いた。

ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ、見とれたのは内緒。

「んじゃ、近いうちに作戦会議しようよ。いつなら時間できる?」

「騎士団体験の休みは、25の日だね」

「じゃ、その日にうちまで来てよ。待ってるね」

「わかった。じゃ、また」

またねーと手を振って、クレアと二人、必須科目の教室に向かった。


翌日、クレアはいつも通り、アルは茶菓子を持って現れた。

「我が家の女性陣に、カレン商会のお嬢さんの家に行くなら持って行けと持たされました。みんなで、食べよう」

そう言って、この街では一番人気のお店の焼き菓子をドドンと差し出して来た。

「有難く頂戴します…お礼を皆様にお伝えください…」

「なんで、そんな言葉遣いなの…あはは」

「だって、このお菓子高いのよ?それをこんなに…」

「いいんじゃない?最近出た非魔法薬?二人とも飲んでるし、喜んでたよ。世の女性一同からの開発してくれたお礼と思えば、安すぎるくらいじゃない?」

「マッセン家が背負うことじゃないような?」

「まぁ、代表ってことで。っていうか、受け取って貰えずに家に持ち帰ったら、僕が大変な目に合うから」

「ふはっ。そうだね。有難く食べちゃいましょう。さ、どうぞ」

クレアは、いつも通りお母さんとお婆ちゃんに挨拶をしてすとんと座ると、私を見てニヤッとらしくない顔で笑う。

「なによ?クレア」

「ん~ん。なんでもなぁい」

含みありげな顔も可愛くて、結局私も笑ってしまった。

「君たちは、本当に仲良しだね。羨ましいよ」

「アルにも、友達は居るでしょう?」

「いるけどね。打算なく付き合っているように見える君たちが羨ましいのさ」

「なるほど?アルにも悩みは、あると」

「なんか、面白い言い方だけど、そりゃあるさ。発表会とかね」

「そうだった。決めなきゃね」

「えぇ、考えましょう。三人で出来る、何か」

「僕は雑用で構わないから、君たちがやりたいことを優先してよ」

三人であれこれ候補を出すも、中々しっくりくるものがない。

フェイシャル系は、アウトだし。

マッサージ系も、きっと同じ。

ネイルはまだ普及してないし、お手入れならできても、それを出来る人が私だけで道具もない。

う~ん…と唸ること、数時間。

「はぁ…ダメだ。これと言っていいものが出てこない。一旦休憩して、お菓子食べよう。お茶淹れて貰ってくるよ」

「そうね。考えすぎて、逆に何も出てこないわ」

「うん。元々美容に疎い僕じゃ、無理そうだ」

侍女お姉さんの一人にお願いして、一緒に台所に行く。

二人の好きそうなお茶を選んで、庭で見つけて台所で育てているハッセルと呼ばれているペパーミントの葉をちぎった。

アルの横を通ってテーブルにお茶を置き、アルの持ってきてくれたお菓子を開ける。

お茶にミントの葉を浮かべて二人に出すと、目の覚める香りに気づいてくれた。

「カリン、この葉っぱは?」

「それは、ハッセル。どこにでも生えてるけど、れっきとした薬草の一つだよ。目も覚めるし、集中力を高めるにもいいんだ」

「へぇ…いい香りだ。僕は、好きだよ」

「えぇ、爽やかないい香り」

「香り…香りか…」

「「カリン?」」

二人に不思議そうな顔で声を掛けられるまで、考えに没頭していた。

「ごめんごめん。んとね、自分で香水を作る体験をしてもらうのは、どうかな?って考えてたの」

「香水?」

「どんなものなの?」

先ず香水の説明、それから作り方を説明した。

「案外、簡単なのね?材料さえあれば、好きに作ってもらえそうだわ。場所もそんなに取らないし、危険でもない。男性も参加できるわね」

「うん、香りの素と、小さな瓶と高純度の蒸留された酒精だったね。酒精なら何とか伝手があるかもしれない」

「私も、商会で瓶を注文できないか問い合わせてみるわ」

「なら、私は香料の精油作りに精を出すよ」

あっという間に問題解決で、どんな香りがいいかの候補を上げていく。

私があらゆる香料を集めてみて、そこから厳選することになった。

クレアもアルも楽しそうで、私も楽しい。

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