第28話

女性4人がお試し期間中は、いつも通りサロンと工房を行ったり来たりしながら、クレアとお出かけしたりした。

その日も、新しくできたという雑貨屋さんとカフェをめぐり、公園で日向ぼっこがてらお喋りをして、掘り出し物がないか布問屋を冷やかして来た。

この地方では珍しい動物の形を模した可愛らしい小さなぬいぐるみと、キレイな端切れを少々に刺繍糸を数種類、お揃いでお互いに向けてぬいぐるみのリボンを刺繡入りで作ろうかと話し合って買ってきた。

話に花を咲かせながらの、お菓子と紅茶は幸せな味がした。

クレアも私も久々だったから、随分はしゃいで楽しんだ。

帰り道、クレアから爆弾発言が飛び出すまでは。

「カリン、あのね、私、学校を卒業したら領都セレスペンスに帰ることになったの。結婚の準備もそうだけど、もともと体が弱かった私の為にこの街にいたから。体が丈夫になったなら、領都に帰って花嫁修業をしなさいって。アーノルドが騎士になるための期間が花嫁修業期間で、正式に騎士になるときには結婚だわ。その時には、王都へ引っ越しよ」

「そんな…一年とちょっとしかないじゃん…遠いし。ヤダよ、寂しい」

「私も、私も寂しい。けど、お父様には逆らえないわ。だけど、私、領都でカレン商会を盛大に宣伝するわ。カリン、だから、いろんなところにサロンを作って?お店を作ってよ。そして、王都にも来てほしい…わた、私、も…さみし…」

「クレア…泣かないで?私も泣きそう…」

「…ふふ。出会ったすぐも、私の結婚の話でそんな顔をしてたわ。カリン、お友達になってくれて、ありがとう。卒業まで、いいえ、卒業しても仲良しでいてね」

「そんなの、当たり前だよ。クレアを世界一大事にして、世界一の美人にして、世界一幸せな女性になってもらうのが私の夢よ」

「ありがとう」

そのあとしばらく、私とクレアは抱き合って泣いていた。

人目も憚らず、公園の花壇の縁に腰かけて泣いていた。

それでも、まだ一年以上ある。明日から、またたくさんの思い出を作ろうと誓い合って別れた。

その次の期間からクレアは、学校でのインターン先を冒険者組合からカレン商会に変更して、仕入れや売り上げ・給与などの経理事務とあて名書きや備品管理などの雑務を手伝ってもらうことになった。

少なからず顔を見れる時間が増えたので、お互いに嬉しい。

お昼や休憩の時間は、できる限り二人で過ごすことにしている。

因みに、三か月間の検証結果である丸薬の効果は4人全員が太鼓判を押してくれた。

飲んでもらっている間は、効果を見るためにサロンでの施術をしないでもらっていたが、お婆ちゃんは血行が良くなったからか頬が薄紅に染まり若々しくなった。

お母さんの更年期の症状と思われるイライラやむくみ火照りといった症状が落ち着いたと報告があったし、若い二人の月経前症候群と生理痛の緩和も大いに喜んでもらえた。これは死ぬまで飲み続けると宣言するほどに、効果が実感できた様だ。

もちろん、すぐに商品化されて、売りに出すとのことで嬉しい。


商会についても、化粧品も『レディメイド』と名付けた丸薬も売り上げは上々で、私が成人するころにはサロンをもう一店舗増やしてもいいのではないかと会議の議題に上がったそうだ。

候補地は領都、もしくは近隣の大き目の街にしようかと話していたそうだ。

その他にも、化粧品と丸薬の販売店舗を正式に作る話も出たようで、そちらは前向きに検討され今年中には着手されるとのことだった。

今の私は未成年の為に、会議には参加できない。

それでも成人後からは、みんなに相談しつつ代表補佐か副代表となり、数年かけてお母さんから私に代表の仕事が移行することになっているらしい。

別に商品開発専門でもいいのにって言ったら、お母さんとお婆ちゃんから「あなたの商会でしょう!」と、怒られた。

二人的には、私が成人するまで預かっているだけのつもりだったようだ。

それにしては、かなりの規模に成長させてくれた気もするが…

お婆ちゃんにした借金もあっさりと返し終わっているそうで、商会は街で大手と言われるほどには有名になった。

今では就職したい商会ランキングの上位に、常に名を連ねている。

製造も第一工房では間に合わず、主に化粧品全般を作る大きな第二工房と、主に丸薬を作る小さめの第三工房とサロンが1つが稼働し、専属協力会社としてガラス工房と缶工房を抱えているらしい。

そのうち稼働が少なくなった第一工房は、いつか私個人が引き取るつもりでいる。

そんでもって冒険者組合、商業組合、服飾産業組合、鍛冶屋職人連合とも繋ぎを付けているから、なんだかんだと呼ばれたりお願いに行ったりとやり取りがある。

私的には、まるっと全部丸投げされても無理ですがな…と、思わんこともないが、実際に商会を一人で動かすわけじゃないから、まぁいいかとも思う。

お母さんの秘書的な立場の人は、数年かけて行われる私への代表引継ぎ後も残ってくれるらしいし、意外と増えてた役職付きの従業員さんもそのまま私をサポートしてくれる。

古参陣が名を連ねてくれているのが嬉しい。うん、安心である。

ただ、経営に関することで時間が消えて行って、研究開発が出来なくなるのはいやだなぁと思う。


こうして私の4学年目は、忙しくも穏やかに過ぎていくのだった。

あと考えるべきは、最終学年の発表会の内容だ。

一応、プチサロンと称してフェイシャルエステだけできるブース型にしようかと思うけど、それが許可されるかどうか…男性向けにも何かないかも合わせて模索中である。

ただ一つ決まっているのは、クレアとの共同発表にするってこと。

ゆっくり、クレアと相談しながら決めていこう。

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