第27話

「ししょ~っ!」

勢いよく師匠の店の裏口戸を開けると、何故か素材に囲まれた師匠の生気のない顔が出迎えてくれた。

「カリン…助けて…」

「どうしたんですか!なんですか?この量…」

「桁を一つ間違えて…それぞれが10箱来たんだ…」

「なんで気づかなかったんですか?支払金額とかでわかるでしょう。契約の時とか…」

「だって、新しいお手伝いさんにお願いしたんだよ…。真面目な人だし、こんな単純な失敗しそうにない人だし…」

「その人はどこに?」

「あっちで、木の根をより分けてる」

「話は聞いたんですよね?従業員さんとの話は、大丈夫なんですよね?」

「うん。ちゃんと謝罪を受けたし、これからも働いてもらうよ。単純な失敗だから、繰り返さないと思うしね」

「全く…。で、今は何を?」

「ボラルの木の根が、シャッカの木の根と混ざった。こけちゃったんだよ、箱に足を取られて…」

「師匠が?」

「うん」

「はぁ………仕方ない。さっさと分けますよ。ニッカの木の皮は、大丈夫ですか?ピーピの種は?クワトは?」

「ちゃんと全部あるよ。それは、確認してる」

「よかった」

結局、午後イチに来たはずなのに、より分けが終わったのは昼と夕方の間、ざっと3時半過ぎって感じの時間だった。

しんどい…よりによって似た木の根っこが混ざるなんて…しかも、違う木の根っこまで混ざってたから、他の材料も含めて全部ちゃんと検品する羽目になったし…

「混入物のことは、お父さんにきっちり報告しておきます」

「カリン、お願いします。テテンさんも、ご苦労様だったね」

「いえ、私が間違えたせいですから。カリンさんも、すみませんでした」

「それはもう、いいって何度も言ったじゃないですか。謝らないで。次に同じ失敗をしなければいいだけです」

「はい」

「さて、全部検品と状態確認したし、やりますか!」

「何をどうするんだい?」

「ピーピの種から核を取り出し、茹でて薄皮を剥き、炒って苦みを飛ばします。それから、クワトの皮を剥いてから水にさらしてアクを取り、茹でます。ニッカの皮、ボラルとシャッカの根を細かく粉砕します」

「前半は、なんだか料理みたいだねぇ。ま、手分けしてやってしまおう。カリンはクワト、テテンさんはピーピ、私は皮と根を。いいかな?」

「はい、二人とも、よろしくお願いします」

そして、時間は夕飯時。

クワトを茹で上げた私は、保冷庫に全てをぶち込んで家に帰った。

明日は、朝から師匠の所で丸薬作りに精を出すつもりだ。

これが出来て検証が終わり、売り出す算段が出来たら、ゆっくりクレアとイチャイチャデートするんだーぃ!


翌日、朝食後すぐに師匠の店の裏手に到着。

寝ぼけたままの師匠の顔に、魔法で水をぶっかけて目を覚まさせた。

すぐにテテンさんも到着して、作業再開だ。

「で、昨日の続きは、どうするんだい?カリン」

「全部を粉砕して、蜂蜜と混ぜて、ひたすら捏ねるんですよ。師匠、全部乾燥魔道具で乾燥してください。そしたら、粉砕機にかけて粉にします。そこからは、体力勝負です。筋肉と根性に、きっちり仕事してもらましょう」

「わ…わかったよ」

微妙に分量の違う丸薬を少量ずつ作り、師匠の鑑定魔道具で効果を確認。

作り直して、また鑑定を繰り返した。

結局、分量が決まったのは昼をしっかり過ぎてからだった。

「よし、これなら。師匠、テテンさん、この配分で決めましょう。お疲れさまでした。一旦、お昼にしましょう」

「…あぁ。そうだね…でも、ちょっと休憩しないと腕が上がらないんだ。テテンさん、すまないが、何かみんな分を見繕って買ってきてくれないか…」

「わかりました。行ってきますね」

テテンさんが出て行ってから、ぼそっと師匠に物申してみた。

「何も、師匠が一人で混ぜ続けることなかったのに」

「だって、君は子供でテテンさんは女性じゃないか。やってみて思たけど、あれはかなりの重労働だよ。量が増えたら、冒険者のような体力と力がないと無理だよ」

「そうだけど…ありがとうございます。師匠」

「こちらこそありがとう。あんな合わせ方は、知らなかったしね。この方法なら、喧嘩しない素材同士をうまく組み合わせて、新たな魔法薬を作れるかもしれない。魔法薬にするとどうなるのか、楽しみだよ」

「師匠の役に立てたなら、よかったです。新しい魔法薬、楽しみにしてますね」

「うん。しかし、一回飲んだら終わりの魔法薬と違って、継続的に飲んで緩やかに永続的に効果を持続させるなんて新たな試みだね。うまくいくといいが」

「ん~。私が解消したい女性特有の悩みって、毎日続くし毎月のことなんですよね。だから、魔法薬の効果がその場限りっていうのが、困りものなんです。毎日、魔法薬なんて飲めないし。高いし。だから、非魔法薬で比較的安価に緩やかな効果を持続しながら継続して飲む方がいいんですよね。一発でポンっと無くなる悩みじゃないから」

「ふむ…そうだねぇ。受け入れられるかな?」

「それは、多分大丈夫と思いますよ」

「それならばいいが」

「戻りました。ご飯にしましょう?お二人とも」

テテンさんが、両手いっぱいにおいしそうな匂いを抱えて帰ってきた。

私のお腹が早くよこせとばかりに盛大に鳴り響いて、大笑いの昼食になった。

頑張ったおかげで大量に出来た丸薬は、テテンさん・お母さん・お婆ちゃんと生理痛で毎月青い顔をしている売り子のレネさんに、三か月使用してもらって効果を検証することにした。

まだ20代のテテンさんと30代に差し掛かるレネさん、40代のお母さんと60代のお婆ちゃん。

これだけのリサーチが出来れば、一先ず大丈夫だろうと思う。

売るのは、カレン商会と師匠の店にとりあえず限定。

商品名と販売価格を、三か月の検証後にお母さんと相談しようと話し合った。

上手くいきますようにと教会で祈ってから家に帰って、お母さんとお婆ちゃんに丸薬を説明付きで渡すと、二人ともだいぶ前のめりに話を聞いてくれた。

お父さんに、異物混入の文句も言った。

冒険者組合で、集めてもらったものだからだ。

集めた時に混ざっていたのかどうかわからないにせよ、確認不足は組合のミスだ。

お父さんは、混入していた分の保証を請け負ってくれたので、安心なのだけど。

何とか上手くいきますように。みんなのしんどさが、少しでも和らぎますように。

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