第26話
4学年は、私にとって最高の学年かもしれない。
3年間、いやもっと前からだけど、頑張ってきてよかったと思える。
商会の売り上げは上々だし、クレアの美しさはデビュタント以降学校中の噂だし、たどり着いた先にカレン商会があることで、売り上げがまた積まれていくという好循環。
歩く広告塔と化したクレアは、学校中どこに行っても注目される。
一緒に居る私は、多分みんなの眼中になくて、いいことである。
私の『クレアにてっぺん取らしたる計画』は、順調だと言える。
私とクレアの必須授業の時は、これまで私に話しかけてこなかった女の子たちもこぞって話しかけてきてくれるようになった。
ボンボンアーノルドのちょっかいが無くなったことも、大きいかも知れない。
あれからたまにアーノルドとスタンにすれ違うけど、アーノルドはガン無視だし、スタンはちらりとこちらを見て微笑むだけで声はかけてこない。
クレア曰く、意地悪なことを言われることもないし、家の用事で会うことがあっても差し障りない会話だけで、特に何もないらしい。
いつか言っていた『アーノルドはこんなに嫌な奴作戦』は、実行できそうにないから婚約は白紙になることは無いかもしれないと、ちょっと残念そうだった。
私も残念ですっ!
もし、アーノルドがクレアのことを好きになったとするならもっとアピって好かれる努力を見せて来いと思うし、別にそうじゃないなら一刻も早く婚約解消しろとも思う。
まぁ、好きだろうが嫌いだろうが、どっちでも気に入らないけど。
それでも、今まで話が出来なかった子たちとおしゃべりできるのは嬉しい。
クレアが綺麗になった秘密とか、化粧品や美容についてとか、みんなのコイバナとか、なんだか前世の学生時代みたいでウキウキする。
髪形やお手入れやおしゃれがもっと、広がりを見せればいいと思う。
この世界には、きっとずっと昔から日本人や地球人はいたはず。
でなきゃ、魔動車やシャワーやトイレ、果ては最近本格的な製造が開始されて製品化された味噌と醤油・米、日本酒なんてものもないはずだ。
であるならば、ヨモギもあれと思うけど。
ヨモギはともかく、日本人の得意で特異なサブカルチャーや流行り廃りの早いファッションなんかも広まれば早いはず。
いつか、他にいるなら元日本人に会ってみたい。
実際、ちょっと調べたら、過去の日本人の存在は見え隠れしている。
その時代に必要な知識や技術を持った人間の存在が、歴史のそこかしこにチラチラ見えているのだもの。
私を転生させた、ゆるゆる女神も妙に手馴れてたし。
多分、世界がやっと必要最低限ではない生活が出来るほどに、ゆとりが持てたんだろう。
どっかの誰かが、これからはきっと美容健康おしゃれなんかが世界に必要だと判断したんだろう。
私が選ばれた基準は不明だけど、選んでくれたことは感謝してる。…タイミング以外、は。
だから私は、『クレアにてっぺん取らしたる計画』を皮切りに、これからも世界の先陣を切ると誓う。
そして今年は、学生生活を謳歌しつつ商会の新製品を作るんだ。
ヨモギかその代用品を、見つけて見せるんだ。
クレアに、私の最推しに、更なる高みへ昇ってもらうんだ!
その中で、他社の追随を許さぬ美容最大手は、カレン商会だと、大声で叫ぶんだ。
「カリン、今日はもう商会に行くの?」
「うん、考えてることがあるからね。色々調べて、話を詰めていかないと。家で着替えたらすぐ商会の第一工房に行くつもりだよ」
「そう…最近、カリンが忙しくて少し寂しいわ。今度、ゆっくりお出かけしましょう?」
「わかった。約束するよ。時間作るから、少しだけ待ってて」
「えぇ、楽しみしてるわ。いってらっしゃい」
「行ってきます」
いい…推しからの『いってらっしゃい』、めっちゃいい!!
頑張ろう、ヨモギ探し!
最近、サロンに来るお客さんがどんな悩みを持っているかを従業員に効くことが出来た。
サロンに来るのは、もっぱら貴族か商家などのお金持ちがメインだけど、どの女性もその年齢にかかわらず、肌荒れ・アンチエイジング・ダイエット・月のものに、妊活・更年期障害・女性特有の病と、前世と何ら変わらない悩みを持っていた。
だからこそ、私はヨモギを切実に探している。
冒険者組合で、ありとあらゆる薬草を取り寄せたり、道端や通学路に生えている雑草まで調べたりしている。
これだけ地球と似た植物があるくせに、ヨモギとドクダミだけが見つからない。
覚えている限りの特徴と絵を描いて、お父さんや冒険者さん達にまで探してもらっているけど、まったく見つからない。
地球では、ありふれた植物だったのに。うっかりしたら、邪魔な雑草扱いだったのに。
どこに生えてるのか教えてほしいと教会で神頼みをするほどに、欲している。
これは、私の生涯をかけた戦いになるかもしれない。
代用案を模索しつつも、探すのをあきらめることはできないな。
「カリンちゃん。おかえりなさい」
「ただいま、お母さん。何かあったの?」
「えぇ、あなたを待っていたの。前に言っていた薬草類とクワトが届いたそうなのよ。確認してもらいたいって」
「師匠のところに届いたんだ?すぐに見てくるよー。着替えてくる!」
師匠に取り寄せてくれとお願いしていたのは、所謂漢方薬の材料になる生薬と、とある食材。
目指すは、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)。
漢方の中で、これだけとあと数個だけは覚えてた。
そのために、芍薬(シャクヤク)・桂皮(ケイヒ)・茯苓(ブクリョウ)・桃仁(トウニン)・牡丹皮(ボタンピ)を探していた。
言ってしまえば、桂皮はシナモンだし、芍薬と牡丹皮は同じボタン科の植物の根だし、桃仁は桃の種の核。
似たものは、案外すぐに見つかった。
問題は、茯苓。
体内の水分調整をして利尿作用のある茯苓は、漢方の名前にも入ってるし、使いたかったけど…無いんだ、これが!
そもそも、ざっくりキノコ系はあっても菌類なんて認識すらされてない世界だもの。
アカマツやクロマツがこの世界では一部の地域にしかないからってのもあって、切り倒された木の根元の土の中なんて誰も見ない。
そこにあるだろうと思われる茯苓の素なんて、ただの切り株の付属品くらいにしか見られないだろう。
そこで、カリンちゃんは必死で代用品を考えました。
何とか絞り出して絞り出して思い付いたのが、クワイ。おせちとかで、食べるアレ。
確か、カリウムが豊富でむくみ解消効果があったはず。それを教えてくれたのは、前世のお婆ちゃん。
お婆ちゃんの知恵袋は、馬鹿にできないと転生してから実感した。
師匠に頼んで私が待っていたのは、クワイ。こっちでの名前は、クワト。
早速、ダッシュで確認してこなくっちゃ!!
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