第24話

顔の産毛を剃って、眉毛の形を整えながらニキビについて講義中。

「顔から出る汗やアブラを綺麗にしないと、毛穴って言う全身にある毛が生えてくる穴に汚れが詰まっちゃうんだ。で、それが時間が経つにつれて、悪さをする。だから、顔にブツブツが出来るって訳」

「それは、綺麗に洗えばいいってことだね?」

「簡単に言えば、そう。でも、洗うだけじゃ足りないよ」

「何が足りないんだい?」

「保湿と血行促進、かな。綺麗にしたら、お顔のマッサージをして、血の巡りを良くする。その上で、化粧水と保湿クリームで整える。そうすると、お肌の生まれ変わりが正常に行われるようになって、治りが早くなったりする」

「なるほど。それを日々気をつけていれば、出来にくくもなるって事かな?」

「正解。それだけじゃなくて、睡眠時間や質、食べ物の偏りでもお肌はボロボロになるよ。後は…心の問題とかもあるかな。疲れたり悩んだりしてると、出来やすくなる」

「もしかして、すごく繊細なのかい?お肌って奴は」

「うん。かなり、繊細かな。結婚したいのに結婚適齢期を逃しかけてる女性くらい、繊細かもよ?」

「ははは。うちの姉上だな、まるで」

「それは、優しくしてあげて?」

そうこう言ううちに、伸び放題だった眉毛は凛々しく整えられて、アルは朝より3割増でイケメンになった。

朝からずっと一連の流れを見ていた、クレアが我慢しきれなくなったように声をかけてくる。

「カ、カリン。あの、アルがすごく変わったように見えるの。私も、キレイになれる?」

「クレア、なれるよ。クレアを、世界一の美女にするのが私の目標よ。待ちきれないみたいだし、クレアの髪を綺麗にしようか?アルも、自分がどんな事されてたのか、見てみるといいわ」

「そうさせてもらうよ。着替えたら、さっきの髪を洗った場所に行けばいいかい?」

「うん。クレアの着替えもあるし、それで大丈夫よ。さ、クレア」

クレアをマリアンヌさんに託して、施術の片付けと新たにヘッドマッサージとパックの準備に取り掛かる。

また白い〇塔状態で、ぞろぞろと大移動だ。

私の一挙手一投足が見られていて、笑っていられなくなってきた。

みんなの顔が、真剣すぎる。真面目は美徳だけど、美容に対する欲と圧が凄い。

それでも、お客様との接し方、見なくても手が動くレベルの施術師の動きなど感じてもらえるなら嬉しい。

今はまだ、体が子供で背や腕の長さと力が足りなくて困ることもあるけど、あと数年すれば完全体の私になれる。

そこからは、バリバリお客さんを施術してやるんだから!と、みんなに負けたくない欲が出てきた。

これだから現場は、やめられない。


結局、クレアの頭・髪・フェイシャル・産毛と眉毛まで全部やった。

二度目だからか、みんな気が抜けて手技の見様見まねで手を動かしたり、パックの配合について話したり、肌の生まれ変わりについての質問を受けたり、家で出来るからとお客さんに教えるときのポイントなどを教えたりしていた。

クレアとアルまで最後は、貪欲に質問してくるあたり美への渇望ってすごい。

あんたら、まだ10代なんだからアンチエイジングは早いって!と、思いながらも今後の為にと教えてあげた。

アルは、何とかお姉さんとお母さんをここに連れてきたくなったみたいだ。

クレアは、「自分ばかり綺麗になったら、お姉様に何を言われるかわからないわ」と言いながら、結局「教えない」と笑っていた。

まだこの町で広がっているだけの美容と商会だけど、近い未来に必ず領都を超えて王都まで名を轟かせて見せる。

クレアとアルは、デビュタントまでの期間は定期的に施術するようにお店の予定を組んでおいてもらった。

最悪、たまにかもしれないけど、あと一人増えるかもと思いながら…

綺麗になった二人を連れて家に帰ると、お母さんがクレアとアルの髪の具合に腰を抜かしかけた。

まだ実際にサロンで施術を受けたことがないらしく、早く予約を取らなくちゃとバタバタとお婆ちゃんの居る居間に走っていった。

私と侍女二人で顔を見合わせて苦笑していたのを後の二人に見られて笑われる一幕があったりしながら、穏やかに過ぎていった。


アルとクレアの髪を綺麗にしてからは、お願いしていた練習用の靴も出来上がってダンスの練習もできるようになった。

遅くなった分、アルと居残りで練習することも、しばしばあったりする。

三学年目も後半に差し掛かると、武術系の授業はケガなどがないようにとほぼ全てダンスの練習に差し変わった。

ボンボンアーノルドの背がまた一段と伸びて、クレアをエスコートする様子は、黙っていればいい男に見えなくもないような気がする。

そして、本気で私にもクレアにも何もしてこなくなった。私を見かけても、何の反応もなく通り過ぎるし、果てはクレアに家の者からだとお菓子を渡して私にも食べさせてやればいいと言ったりする。

やっとクレアの美しさと優しさと可憐さに気が付いたのか?と、思わんでもない。

ちょっと、思春期男子の脳みその中身の変化過程が気になったりする。

因みに、案の定クレアに連れてこられたアーノルドは、うちのサロンで顔と髪を綺麗にさせられている。

そろそろニキビの出来てきたアーノルドの顔が、クレアは気に入らなかったみたいだ。

さすがのアーノルドもお店では、タジタジでクレアの尻に敷かれていて、まな板の上の鯉再びって感じ。

それを見て、あの顔をおかずに飯が食えそうだと思ったり、思わなかったり。

アルも三割増しで髪が綺麗になってから、より一層イケメンに磨きがかかり、エスコートも板についてきて、笑顔が煌めいてきた。

物腰柔らかく優しい王子様キャラ的なアルに笑みを掛けられる対象の私は、チラホラと女の子たちから本気の妬みの視線を送られるようになってきた。

クレアとアルは、気にしない方がいいと言いながらも気を使ってくれているけど、案外私はどうとも思ってなかったりする。

前世で経験済みのことばかりだから、若いなぁ可愛いなぁとしか思えない。

そんなことより、ダンスが一向に上手くならない自分の方が問題だ。

いっそ、アルが前に言っていたみたいに逃げ出してもいいんじゃないかと、最近強く思うようになってきた…ヤヴァい。

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