第21話
アルベルト・マッセンは、確かにイケメンでした。
正確には、日本人が好きそうなサラッとした外国人顔とでも言うべきか。
まだ少年時代のレ〇ナルド・ディ〇プリオを思い出すような、美少年だった。
ただ、今はその口元に青あざが目立つ。
「アルベルト・マッセン?」
「そうだけど…君は?」
「昨日、あなたの頭頂部に顔面強打された少女よ」
「あ、あぁ…えっと、ごめん。学校の子だったんだね。それで、何だろう?」
「休憩時間を潰してしまって申し訳ないけれど、少し話がしたいの。いい?」
「構わないよ。どこに行こうか?中庭でいいかい?」
「えぇ」
私より少し背の高いアルベルトの後ろを歩きながら、髪の毛を観察してみた。
昨日と同じように、少し長めの髪はごわついていた。
つやが無くなっていて、折角さらさらとなびきそうな王子様みたいな顔と髪がもったいなくてしょうがなかった。
今すぐ、オイルと蜂蜜でトリートメントしたい。
これくらいの男の子なら汗もかくだろうから、お酢と塩を水に溶かして頭皮も洗ったらいいかも知れない。
なんて考えていたら、中庭に到着してしまったらしい。
「ここでいいかな。どうぞ、座って」
「えぇ、ありがとう」
「それで?」
「先ず自己紹介からね。私は、カリン。カレン商会を営む家の娘よ。よろしく」
「僕は、知っての通りアルベルト・マッセン。マッセン騎士爵家の次男だよ。よろしく」
「あなたは、もう、お相手は居るの?居ると思うけど、お相手が見つかっていないお友達は居ない?」
「ん?デビュタントのダンス?」
「そう。私、決まった人が元々居ないから、少し困ってるの。友達も少ないし、声を掛けられる人が居なくて。だから、昨日の痛みをきっかけに勇気を出してあなたに声をかけたの」
「そうなんだ。痛みがきっかけって、ちょっとおもしろいね。因みに、相手は居ない。欠席しようかと思っていたから」
「なんで?あなたなら、引く手あまたでしょうに?」
「女の子って、怖いんだよね。集団になると」
「あぁ…、まぁ…、あなたには、そうかも知れないわね」
「僕にはって、どうゆうこと?」
「あなたがきれいなお顔をしているから、女の子はあなたの視線を独り占めしたいと思うのじゃないかしら?」
「ん~、あんまりうれしくないね。君は?君も、僕の顔が気に入ったの?」
「ごめん。私は、顔じゃなくて髪が気になった」
「髪?なんで?」
「ゴワゴワしてて、もったいないと思ったから」
「は?…えっと…?」
そりゃ、困惑するよね。ごめんよ、少年。
そんなに髪の毛を、わしゃわしゃしなくてもいいってば。
私は、中身がショタ趣味の薄いBBAなので、君とどうこうなろうとは思ってないんだよ。
「私、恋とかそういうの今は興味ないの。だから、あなたの顔がどうであれ、どうでもいいの。ただ、その顔にその髪じゃ、髪が可哀想だなって。もっとつやを出したり、さらさらとなびかせたら、もっと素敵な美少年になるのになって思ったの」
「君、ちょっと変わってる?」
「ん~、多分…?」
「あはは!面白いね。いいよ、君の相手を務めさせてもらうよ。よろしく」
「いいの?ありがとう!よろしくね。あと、髪のお手入れ、やらせてね。折角のデビュタントだから、私も気合を入れざるを得ないし、あなたにも気合を入れてもらわざるを得ないの。安心して、美容に関ては、私、中々の腕よ」
「わかった。主役は女の子なんだし、君に従うよ。どうにでもしてくれていいよ」
「ありがとう。ところで…」
「ん?」
「なんで、ケガして走ってたの?」
「あぁ…くだらないことだよ?聞きたい?」
「言いたくないことなら、そう言ってくれたら聞かないわよ?ただ、気になったってだけだから」
「そっか。うん。自分で解決したら、言いたくなった時に言うよ。ちょっと、女の子に言うには、男として恥ずかしいことだから」
「そ、わかったわ。でも、自分で解決できないと思ったら、相談してね。私にだって、相談に乗るくらいはできるわ。ダンスのお相手をしてもらうんだもん、それくらいさせてもらう」
「ありがとう。そうするよ。さて、休憩時間が終わるよ」
「えぇ、そうね。あ、帰りに時間があるなら、付き合って」
「いいけど、どこに?」
「我が家。じゃ、帰りに迎えに行くから教室にいてね」
アルベルトが頷いたのを確認して、私は教室に走り出した。
最近、休憩時間はダンスの練習でクレアとおしゃべりする暇がない。
だから、次の歴史の授業は、おしゃべりタイムにしてしまうつもりだった。
先生、ごめんね。堂々と、さぼる宣言しちゃったよ。
でも、去年、お婆ちゃんに教えて貰ったことばっかりだから、許して。
貴族の歴史って、眠くなるんだよね…
筆談でクレアに報告しがてら、ドレスや練習用の靴の話、髪形をどうするかとかの雑談で授業が終わった。
この授業の先生は、テスト重視なのでいい点を取っていればそうそう怒られたりはしない。
それをいいことに、テスト点数上位陣は結構好き勝手している。
私の前の前では、三位の子がほかの授業の復習をしているし、四位の子は、刺繡をしながら話を聞いていたりする。
先生、ありがとう。かなり、有益な話がクレアから聞けました。
早速、練習用の靴をお母さんに相談しないといけない。
学校で借りれる靴は、ヒールががたついたりしていて使い難いんだよね。
「帰りに、アルベルトを連れて一緒に帰っても大丈夫?」
「私はいいけど、おうちの方々は大丈夫なの?」
「多分?」
「一応、私の従者さんにお家に知らせを届けておいてもらいましょうか?」
「ごめん、お願い」
思い立ったら吉日精神を何とかしないと、その内に怒られそう。
クレアの気遣いに深く感謝して、反省することにします。
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