第18話
ボンボンアーノルドは、アホでした。
食べちゃダメな方のキノコを食べるという、お粗末さでした。
「っ…はぁ…くっ…うぅ…」
目的地の森まで来て、食材とくじで決めた目標採取物探しをして、交代で番をする。
一夜明けて、片付けをして学校へと出発する。
たったそれだけの、野外研修。それでも、やらかす奴はちゃんとやらかすんですね。
採ってきたものを仕分けて食事をした後、食べられないものを置いておいたかごから幾つか食用と見分けのつかないキノコが無くなっていた。
ちゃんと男子どもには、私たちの倍の量をよそってあげたのに、まだお腹に余裕があったみたいだ。
「まだ痛がってるの?スタンもさ、従者ならちゃんとダメなものは教えなよ。主人の間違いを諫めるのも仕事なんじゃないの?ただ魚の糞みたいにくっついてるだけなの?」
「俺はちゃんと、そっちはダメな奴だって言ったよ!言ってる途中ですでに食ってたんだ!アーノルドは、いつも俺の言葉が届く前に動いてるんだよ」
「はぁ…。ま、いいわ。下し腹の薬あげるから、飲ませてきなよ」
「いいのか?」
「念のためと思って持ってきてよかった。アーノルドに前衛の仕事をしてもらえないと、採集が間に合わないかもしれないから、あげるだけ。信用問題なのよ。わかった?さっさと仕事しなさい、従者」
「カリン、準備いいね。すごい」
「ありがとう、クレア。クレアが痛い思いしないようにと思って持ってきてたんだ」
「私のため?ありがとう、カリン。優しいカリン、大好きよ」
「私もクレアが、大好きよ」
私たちがいちゃついてる間に、従者の仕事をしに行っていたスタンが帰ってきた。
「ちゃんと、飲ませた。礼を言う。主の為に、ありがとう」
「どういたしまして。従者なら、人の話をちゃんと聞くように主人を躾けなさいよ」
「…」
小さく頷いたスタンは、案外まともな奴かな?と、ほんのちょびっとだけ思ってみたり、みなかったり。
「とりあえず、少し休もうか。不寝番の順番は、クレアと私が後からよね。テントに戻ろう?足疲れてない?クレア。マッサージ、してあげる」
「えぇ、カリン。ねぇ、まっさーじ?って、なぁに?」
「んとね、疲れたところや、そこに繋がる部分をもみほぐして、楽にすることかな」
「へぇ。やっぱりカリンは物知りね。ぜひ、お願いします。こんなに歩いたことないから、本当はちょっと辛かったの」
「任せて」
小さな鍋に、熱めのお湯を用意して、タオルを浸して絞ったらふくらはぎから脛を覆うように温めた。
お湯に一滴の精油を垂らすと、ラベンド(ラベンダー)のいい香りがテントに広がった。
「いい匂い…優しい香りね」
「ラベンドだよ。鎮痛作用があったり、鎮静効果があったりするの。この香りで、落ち着けて、ぐっすり寝れたりもするんだよ」
「素敵。ずっとそばに置いておいたら、お父様のしかめっ面も少しは緩んだりしないかしら?」
「どうかな?やってみる価値はあるかもしれないけどね」
クスクスと笑い合いながら、持ってきたオイルの小瓶からマッサージ用に配合したマッサージオイルを掌に出して、クレアのふくらはぎから脛をもみほぐした。
「え?痛い。なに?さっき押されたところも少し痛かったわ」
「ここは、ふくらはぎのツボだからね。疲れたりしてると痛いかも。ごめんね」
「ううん、大丈夫だけど…つぼ?」
「うん。色々なところにあって、関連してるところに繋がってる場所があるんだ。そこを刺激することで、疲れが取れたりするんだよ」
「へぇ…不思議ね」
「不思議だよねぇ。この足裏にも、たくさんのツボがあるんだ。くすぐったいかもだけど、蹴らないでね?」
「カリンを蹴ったりしないもの」
推しのふくれっ面と最高のご褒美か!
オイルを足しながら、ゆっくりと両足をマッサージしていると、クレアは眠たそうにあくびをした。
「気持ちよくて、寝ちゃいそう…カリン…」
「いいよ?寝れるなら、寝ちゃって?オイルはふき取るだけだし、交代の時間まで寝た方がいいし。私も、オイルをふき取ったら寝るよ」
お湯で濡らして温めたタオルでさっとクレアの足を拭くとクレアの寝息が聞こえて
、なんだか可愛らしくて、仕事をした後の充実感まで思い出して、私も幸せな気分で眠りについた。
「起きろ」
「んぁ?もう、交代?」
「そうだ」
「ん…はいはい。クレアぁ、起きてぇ」
「ん…?ん~?カリン?」
「交代だってさ」
「はあい…」
「用意して出るから、もうちょっと外で待ってて。あんた、お腹大丈夫なの?」
「あぁ。………ありがとぅ…」
「すんごい小さいけど、聞こえたからいいわ。今度から、気を付けなよね。じゃ、一回出てって」
寝ぼけまなこのクレアの準備を手伝って外に出ると、律儀に後ろを向いて立っているボンボンと従者が並んで立っていた。
「お待たせ。お疲れさん。ラベンドの香りがまだしてると思うから、鼻から吸って息をゆっくり吐くといいよ。疲れてるだろうし、ぐっすり寝れると思うよ」
「あ?におい?臭くなければなんでもいい」
「わかった。ちゃんと、やらせるから。見張り頼むぞ。じゃぁな」
ボンボンはイマイチわからず、従者は聞き訳がいい?従者に背中を押されて中に入っていく二人を見送った。
やっぱ、ボンボンアーノルドはアホなんだろうな。人の親切を何だと思ってんのか…
「クレア、眠気の覚めるお茶淹れてあげる」
「ほんと?嬉しい。どんなお茶なの?何かの精油?」
「いいえ、昨日見つけたハックの葉で作るんだよ」
「ハックって、虫よけの雑草?」
「うん。まぁ、どこにでも生えてるから雑草と思うのは仕方ない。でも、使えるんだよね」
「飲んでみる。カリンが言うのだもの」
「ありがとう、信じてくれて。目が覚めたら、見張り頑張ろうね」
「うん」
ハック(ミント)のお茶を飲みながら、滞りなく見張りが終わり、ついでにお湯を沸かして朝食用のスープを作って、アーノルドたちを起こしに行った。
アーノルドは、大きな枕に顔をうずめる様に丸まって寝ていて、赤ちゃんみたいだねとクレアと笑ったのは、内緒。
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