第16話

あれから、改装はお母さんに内容を伝えてあるから、私はあんまり表に出ないようにしている。

お店に行くのは基本的に休みの日だけだし、改装が終わるまでは師匠のお店でコツコツ商品を作っている。

従業員となった四人にも、私が行く学校が終わった時間に師匠の店に来てもらって作業内容の説明をしている。

私が一人でやっている作業を大規模にしてみんなにやってもらうので、勝手は違ってくるけどそれは追々作業しながらの修正だと伝えてある。

仕事を覚えがてら販売の方も見学してもらっているから、レネさんにも面通し済み。クレアも私と一緒にいるから、同じく。

因みに、私の推しであるクレアは、ミャリスタさんから密かに推されている。

ミャリスタさんの最推しは変わらずお母さんだけど、クレアのことも推してくれている。

こっそりとミャリスタさんとは、推し活同盟を組むほどに仲良くなっている。

レオネさんは、密かに冒険者としてのお母さんに、少女のころから憧れていたと教えてくれたから、いつか推し活仲間になってくれるだろうと思っている。

意外なところでお婆ちゃんを推しているのは、マリーさんだ。

マリーさんは、様子を見に来たお婆ちゃんに何かを感じたらしい。

貴族の侍女という仕事をしていた彼女からしたら、元貴族のお婆ちゃんは素晴らしく素敵な女性に見えるそうだ。

貴族的な立ち振る舞いの中に庶民的な感覚を持ち、愛の為に育ってきた環境を捨てる潔さと強さが、マリーさんの『理想の女性』という琴線に触れたらしい。

そして、意外といえばジョエルさんが一番変わった。

彼は、徐々に自分らしさを見せてくれた。

先ず、服装が面接の翌日から中性的になった。

男性としては珍しい明るい色のジャケットに、さり気ないフリルのついたシャツ、柄のはっきりわかるパンツと、かかとに高さのついた靴。

個性的だけど、嫌らしさや不潔感などのネガティブな感じは一切無く、本人によく似あっていて、女性陣からのウケも良かった。

その姿が受け入れられた安堵からか、徐々に声が高くなり、口調が変わっていき、今では立派な所謂オネエである。

なんだかんだとみんなで地道に作業しながら、従業員さんたちとの仲も深まり、予約いただいている商品のお渡しも少しずつ出来る様になってきた。

改装が終われば、本格的な生産ラインが稼働して、在庫が底をつくことも減ってくるだろう。

ある程度の人たちが安定したリピーターとなり、商品の回転が始まって何がいつどれだけ売れていくのかのマーケティングもできるようになれば、万々歳である。

まぁ、私は経営にはほぼノータッチだから、そこら辺はお母さんとお婆ちゃんに丸投げ状態だけども。

私が、学業に専念しながら新たなことに目を向けれるようになるまで、もう少しだ。

『頑張れ私、やるぞ推し活、目指せトータルケアの第一人者』

これが最近の私の、合言葉になっている。


「カリン、今日はエリックさんの所?」

「そうだけど、どうかしたの?クレア」

「うん、少し、相談?が、あって。ちょびっとでいいから、カリンの時間が欲しいなって」

「いいよ。今日は、ちょっと遠回りしてゆっくり帰ろう?」

私の推しが、尊い…俯き気味からの可愛らしい言葉と上目遣いは、もう!クレアしか、勝たん!

放課後、二人でゆっくりといつのも3倍近い時間をかけて屋台で小さな焼きパンを買い食いしながらの下校。

「で?どうしたのクレア?」

「ん。そろそろ、学年が上がるでしょう?第二学年になったら、校外学習が始まるのは聞いたでしょ?」

「うん。現役冒険者が引率で、一泊二日の野外研修だよね?」

「うん。その班って、3人以上5人以下でしょう?一年間は、同じ班での行動になる。だから、カリンと一緒に居たいの。でも、あと一人以上誰かを誘わなきゃいけないから、どうしようかと思って」

「あぁ~。うん。私もクレアと一緒がいい。でも、あと一人かぁ…」

「おのね…お父様からは、アーノルドと共に行動しなさいって言われてしまって…最近は意地悪なことは言われてないのだけど、ちょっと…やっぱり怖くて…」

「そりゃ、婚約者をいじめるようなバカボンだからね。嫌で当たり前だよ。お父さんの言うことは、絶対な感じなの?」

「うん。色々なところからきっと、報告は行くだろうから嘘もつけないわ。たぶん、アーノルドにもあちらのお父様から、同じことを言われてるはず。だから、三人目はアーノルドになっちゃうと思う。ごめんね」

「あぁ~うん。ま、でもさ、ある意味、決着を付けれるかもしれないと思うと、いいことかもしれないよ?ちゃんと、あなたと結婚したくないくらいには嫌いですって、言ってやろう?改心するかどうかは知らないけど、すっきりはすると思うんだ」

「ふふ。カリンがいると、できちゃいそうだから不思議ね」

「二人なら、きっとどんなことでもできると思うよ!」

「うん」

たぶんクレアは、自分も嫌だし私にも嫌な思いをさせると思ってたんだろうな。

私は、クレアがいるなら平気なのに。むしろ、全面戦争でもしてやるのに。

剣で勝てなくても、他にもやりようはあるし。

魔法なら、クレアと二人ならそこらの低級冒険者にも勝てる程度に、強くなってる。

毎日の特訓の成果は、着実に身についてるんだから。

とにかく、クレアを助けなくちゃ。守るなんておこがましいかも知れないけど、さながら気分は、お姫様を守るナイトだね。

「カリン、ありがとう。カリンが居てくれてよかった。私、もっと強くなるね。おこがましいかも知れないけど、カリンを守れるくらいに強くなりたい。見ててね」

「クレア、私も同じこと考えてた。クレアを守れるようにって。同じこと考えてたのって、ちょっと嬉しいね」

「うん。まるで冒険譚に出てくる、騎士たちみたいね」

「あったね、グランドル冒険譚。マッシュとグランの、騎士養成学校での喧嘩の後だよね」

「うん。よかった、カリンも読んでたのね。女の子なのにはしたないけど、冒険物語大好きなの。うれしい」

キャッキャとはしゃいで、たくさん笑ってお喋りをして、来年度の杞憂はその時まで丸投げしておくことにした。

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