第15話

「マリーといいます。年は24歳、独身です。今の職場では、掃除洗濯を主にしています。体力には自信がありますし、美容関係には詳しいつもりです。よろしくお願いします」

「私は、レオネという。元冒険者だが、引退して職を探している。用心棒代わりにしてもらっても構わない。女らしいことは何もしてこなかったが、力仕事なら役に立てると思う。よろしく」

「ミャリスタといいます。私、美しいものが好きです。化粧品販売の日、エリンさんの美しさに惚れました。ここの化粧品を使っているからだと言っていたので、興味があります。私もこんなに美しくなりたいです。よろしくお願いします」

「ジョエルです。男の私がなぜとお思いかもしれませんが、よろしくお願いします」

四者四様、皆さんとお話してみることにした。

「皆さんは、普段からお化粧やお手入れをしていますか?」

「えぇ、身だしなみはきちんとしていないと怒られますから」

「私は、戦闘職だったからしたことないね。引退してから、お手入れってやつの存在を知ったくらいだからね」

「私もしてないですよ。獣人は基本的にしませんね。でも、人がしているのを見るのは大好きです」

「私は…いえ、当然ながらしておりません」

お化粧品を使ってるのは、マリーさんだけと。でも、ジョエルさんが気になる。お手入れしてないとは断言できないキメの細かさをしている。

「では、今のお仕事より、大変かもしれませんがいいですか?内容は様々ですが」

「えぇ、旦那様と若様から体をいいように弄ばれるのが嫌で早く辞めたいんです。美しくなるのは好きだけど、あの人たちのためじゃないもの。それに、ここの化粧品の噂を聞いているから、楽しみなんです」

「ありがとうございます。因みに、どんな噂です?」

「えっと、どこかの王子様が、ここの化粧品を使ってきれいになった女性に求婚したっていう…」

「それですかぁ。因みに、根も葉もない噂ですよ。そんな王子様、いないです」

「あら…まぁ、噂ですしね。むしろ、私がどこかの王子様をここに導きますよ。ここで働いて、今より美しくなって、噂になれば来てくれるかも?」

お茶目に笑って見せる彼女に、笑ってしまった。

「あはは、楽しみにしておきますね。レオネさんは、どんなお仕事の内容を聞いてきましたか?」

「私は、力仕事だときいている。体力も腕力も必要なことがあるから、私ならついでに用心棒としても仕事はあるはずだって」

「なるほど、確かに力仕事はあります。それも、訓練かと思うようなきついのが」

「それは、ちょっと楽しみだね。素振り1000回と同じくらいの運動量があると嬉しい。体力や腕力をあまり落としたくないんだ」

「同じかどうかは、分かりませんけどね。ミャリスタさんは、母に惚れたって言ってましたけど、どんなところに目を引かれたんですか?

「んとぉ、まず、整った顔の造形と肌の輝き、かな?あ、別にあなたのお母さんをどうこうしようとは思ってないよ。見ていたいだけ。一挙手一投足がきれいだなって。私もマネできることがあるならマネしたいってくらいだから、安心してね」

「あはは、大丈夫。こう見えても母は元冒険者ですから。どうにかされるとは

思ってないです。でも、マネできることはたくさん見つかると思いますよ。獣人の方たちは、お化粧やお化粧品をどう思っているのか、美容や健康法についてなど色々教えて貰いたいです。また今度、ゆっくりおしゃべりしましょうね。ところで、ジョエルさん、緊張してますか?何か不安なんですね?」

「えぇ、私だけ男性ですから…その、場違いじゃないかと…」

「美しさを求めることに、男女の区別は不要と思っています。女性になりたい男性やその逆、女性として女性が好きな人もいるかもしれない。いろいろな人がいて当たり前だと思います。だからといって、その人たちにお化粧品が必要ないとは全く思いません。あなたがどんな志向の人であれ、興味があるから来てくれたのでしょう?あなたがどんな人で何が好きか、教えてくれませんか?」

「ここで、自分をさらけ出すのは、迷惑になりませんか?」

「んん~、私はここにいる四人とも採用したい。そして、できれば忌憚なく意見が言える仲間になりたい。不安も疑問も喜びも全てです。すぐには完全に信用出来ないとは思いますが、せめて応募の理由は教えて貰いたいです」

「わかりました。私は、自分も美しくありたいし、他人も美しくしたいです。女性になりたいわけじゃありませんが、自分が女性的であるとは思っています。自分を少しでも偽らずに、何か美容にかかわる仕事がしたかったんです。偏見のない人を望む人なら、偏見無く見てもらえる気がしました。それが応募の理由です」

「ありがとうございます。私は、この通り子供です。でも、美容に関しては、かなり前のめりになります。今だって、皆さんのお肌の観察やお手入れ法を研究したいくらいです。変ですよね?なんでそんな年でそんなに詳しいのかとか、疑問ですよね。でも、それが私なので受け入れてください。そして、皆さん一緒に働いてください」

ちらりとお母さんを見ると、小さく頷いてくれた。どうやら、勝手に四人とも採用にしたことを怒ってないようだ。よかったぁ…

「私、頑張りますね。仕事も美容も」

「わ、私も頑張りますよ!任せてください」

「私も採用でいいんだね?じゃ、すぐに宿を断って家を探すよ。ありがとう」

「レオネさん、家って?」

「あぁ、冒険者は基本的に家を持たないからね、職が決まるまでは宿暮らしでいいかと思ってたんだけど。職さえ決まれば、部屋を契約して貸してもらえるからね。今から家探しさ。あ、ちゃんと明日から来るよ」

「いえ、あの、じゃ、警備を兼任してもらうのを対価に、二階を使いませんか?みんなの休憩室も兼ねますけど、個室はありますから」

「ん?」

「えっと、普段からここに人がいてくれると、無人になる時間が減って防犯につながるし、夜間などの盗難などにも柔軟に素早く対応してもらえるでしょう?その担当が、元冒険者のあなたなら、私が安心できます。どうです?」

「カリンさんがいいなら、こちらからお願いしたい。冒険者は信用が低くて、部屋を中々貸してもらえないんだ。すごく有難いよ!」

「よかった。ジョエルさんも、このみんなで働いてもらえますか?」

「え…えぇ、もちろん。男の私でも、いいと言って下さるなら喜んで」

「よかった。ゆっくりでいいです、みんなでもっと仲良くなっていきましょうね。まだ改装中ではありますが、明日からよろしくお願いします」

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