第13話

「ただいまかえりました~。師匠が来てますよ。あ、ご案内お願いしますね。師匠、私着替えてから降りますから、お茶でもしててください」

帰宅して、出迎えてくれる侍女のお姉さんに案内を頼んでから、自室への階段を1段抜かしで駆け上がって着替えを始めた。

学校に制服やお仕着せのようなものは無いが、ドレスコード的なものはある。

楽で動きやすい普段着に着替えて、上がってきた階段を駆け下りた。

「お母さん、お婆ちゃん、ただいま。お腹すいちゃった。軽く食べられるもの、なんかある?」

「おかえり、カリンちゃん。でも、はしたないわよ?」

「おかえり、これでよければお食べ」

お母さんに窘められても、お腹は膨れないのでお婆ちゃんが差し出してくれた焼き菓子を摘まむ。

すぐに、お茶の入ったカップが私の前に出されて、湯気から香るお茶の香りでお腹が鳴った。

「エリンさん、今日は許してあげてください。頑張ってくれましたから」

「まぁ、そういうなら。で、今日は、どうされたんです?」

「えぇ、実は…私の工房では手狭でして、どこかに小さな工房を用意できないかと思いまして。石鹸は手間と力が要りますから、カリンと二人では手が足りない。人手があっても、大きな機材も今の工房には置けない。作ったものを保管して置ける場所もない。これでは、カリンの負担ばかりが大きくなってしまいます。ですから、人手と保管場所、商品作成のための工房をと思ったのです。いかがでしょう?」

「そうね。昨日の状況を考えると、生産効率は大事だと思うわ。定期的に大量に仕入れることで瓶や入れ物も単価は相談もできるでしょうし、工房はいずれ必要になると初めからわかっていたのだし。お義母様、あの話、すすめませんか?ちょうどいい機会にお話を貰ったみたいです」

「えぇ、そうね。ショーエンは、商会のことに関しては私たちに任せると言っていたしいいんじゃないかしら?」

お婆ちゃんの言葉ににっこりと笑って私を見る、お母さんに思わずちょっと圧を感じる。

「お母さん?あの話って…なに?」

「実はね、今日のお昼に瓶とか入れ物をお願いに行った後で、工房の奥さんから声をかけられたのよ。知り合いがお年を重ねられて引退されるみたいでね、お店を買ってくれる人を探しているんですって。それで、冒険者組合と商業組合に話をしてるけどなかなか売れないって。誰か無いかって」

「なるほど、立地や広さは聞いてらっしゃるんで?」

「えぇ、エリックさんのお店の斜め裏あたりよ。ご存じない?」

「ガラク爺さんの店ですね。あの方には、お世話になったものです。しばらくお姿を見ていませんでしたが、引退されたのですか…そうですか…」

「師匠?大丈夫?どんなお爺さんのやってたどんなお店だったの?」

「大丈夫、ありがとう。私が店を持った時から老舗といわれていた豆茶と植物油を扱っていたお店だよ。おせっかいな人で、服装にまで口を出してきてね。最初は煙たく思ったものだよ。でも、全て私のためを思ってくれていたんだとわかってからは、たまにお茶をする仲になった。寂しいね…お店の中には、豆茶の試飲ができる小部屋と、豆の焙煎機に大きな圧搾機があったよ。圧搾機が動いていると、暑くてね。ゆっくりお茶が飲めるような雰囲気じゃなかったけどね。あの人の淹れる豆茶は、本当においしかった。この国では中々認知されてない豆茶だけど、私は好きだったよ」

「そうなんだ。まだ焙煎機や圧搾機はおいてあるのかな?一度、私も行ってみたかったな」

「そうね、彼は、昔から気難しくて、中々人に理解されない人ではあったわね。でも、優しい人だったのね」

「お婆ちゃんも知ってるの?」

「えぇ、私がこちらに嫁いですぐ位にお店を始められたからね。何度か、買い物に行ったわ。質が良くて、でも高くて。強いこだわりを、持っている人だったわ」

「じゃ、商会の工房として使えると思えることろかどうかは、お婆ちゃんと師匠の方がわかるのかな?私も見に行ってもいい?お母さん」

「もちろんよ。あなたが主になるのだもの。見に行かなくてどうするのよ。明日、見に行けるように手配しておくわ。学校が終わったら、まっすぐ帰っていらっしゃい」

「うん。わかった。ありがとう」

「では、一先ず話が進みそうですね。よかった。カリン、楽しみだね」

「はい、師匠。楽しみです。でも、いっぱい稼がないと…」

「ふふ。お金は、いいのよ。私がカリンちゃんにしてあげられる数少ないものだもの。私が購入して、商会の物としてカリンちゃんに残していくわ」

「お婆ちゃん…でも、他の物の代金は、稼いで返すからね。お婆ちゃんには、ゆっくり楽しく長生きしてほしいもの。見てて、私、頑張っちゃうんだからっ」

「えぇ、全額返してもらうまでは死ぬつもりもないし、そうでなくても長生きするわよ。私も頑張っちゃうわ」

小さな笑いが渦巻いて、その日の夕飯はそのまま師匠も一緒に食べていった。

お父さんを交えて、男二人でお酒を飲みながら何やら話していたけど、私は早々に寝ろと言われて部屋に戻った。

明日、クレアにたくさん話すことがある。早く寝てしまおう。そしたら、早く明日が来る気がする。


翌日、早速学校でクレアに話をすると、当然のように一緒に見に行きたいという話になる。もちろん、一緒に行ってもらう。初めから、みんなそのつもりだったしね。

今日の帰りの楽しみが出来て、腐れボンボンからの執拗なちょっかいがあっても、今日は乗り切れそうだ。

めっきり減ったとはいえ、無いわけじゃない。

私とクレアが仲良くなってからは大っぴらにしてこなくなった、それからクレアが美しくなってきてからは更に減った。

それでも、機嫌が悪いのか何なのか、月に数回は嫌味を通り過ぎる時に言われたりしていた。

相変わらず、剣術の実技の時には滅多打ちにしてくるしね。

クレアとしている特訓の成果なのか、少しずつ応戦できるようになってきてるから、いつかやり返してやる!と、クレアと誓い合ってモチベを保っていたりする。

あんな腐れボンボンのことより、授業とクレアとの時間のことを考える方が有意義なので、授業中に次の推し活内容を考えながら過ごした。

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