第11話
あの日から、私とクレアの多忙な日々が始まったのだ。
それはそれは、目まぐるしい毎日だった。
商会を立ち上げて商業組合に加盟するために、立ち上げ書類の作成と保証人書類、加盟申請書作成に、立ち上げ保証金と加盟料に年会費を支払い取引するための口座作り、商品を登録するための仕様書作成。
あっという間に過ぎていくくせに圧倒的に足りない時間と戦いながら、ちゃんと学校も行き、クレアと魔術剣術算術行儀作法も勉強して、販売するための乾燥クリームをカミルとラベルとローゼの3種類を作成、化粧水を入れるための保存瓶も市販のものでなく特注したものを用意した。
遮光出来ても10~15日程度しか持たない手作り化粧水は、本販売用の保存魔法付与瓶を100本と3日間お試し用の瓶を500本特注。
ほかの容器たちも合わせて、お婆ちゃんの老後の貯金を半分ほど使わせてもらった。
絶対に売上を出して借りた以上の金額を返すと、クレアと2人でお婆ちゃんに約束した。
そんな約束に付き合ってくれるクレアに感謝しながら、3種類の乾燥クリームと3種類の化粧水を治験してもらい、感想を聞いて改良を重ねた。
化粧水を使ってもらうにあたってクレンジングや洗顔の見直しを提案し、私が抽出した浸出油でブレンドしたハーブオイルを使ったホットタオルオイルクレンジングと新たに師匠と作り上げたハーブ石鹸での洗顔を行ってもらい、化粧水と乾燥クリームによるスキンケアを本格的にやってもらった。
またに私が元エステティシャンの腕を使ってフェイシャルマッサージをして血行促進。クレアがかなり気に入ってくれて、私は専属エステティシャン気分だった。
当然、お母さんとお婆ちゃんも同じ。
何だかんだと試作と調整を繰り返しながら、ひと月半が経つ頃には、クレアの肌は劇的な改善を見せてくれた。
赤みが残っていた乾燥した頬は潤いに充ち、膝ひじ脛のカサカサも消えて、クレアの肌は、艶めいて輝く白い月のように美しくなった。
この世界の植物油は色々な木の実を圧搾して作られていて、不純物は多い。だけど、意外と色々な効能があるみたいで上手くハーブ達と調和してくれている。
本当はホホバやアルガンの様な王道万能オイルか、純粋な高級オイルのギーを使いたいところだけど、ホホバもアルガンも代用品すら分からないし、ギーを作るのは時間がかかりすぎて商品に出来ない。
未知の生物や植物の中に欲しいものが見つかることを願って、今はあるもので私なりの最高を目指さなければと思っている。
何とかかんとか販売開始まであと10日となった今日、学校から帰った私達は主力メンバーの女4人とお父さんとでお祝い会をしていた。
みんなにお疲れ様とありがとうを伝えるために私が企画した会だった。
師匠は、「私の本番はこれからだから、事業が軌道に乗ったら盛大にお祝いをして欲しい」という事で不参加。
「カリン、ありがとう。こんなに自分の肌がスベスベになったことなんてないわ。お姉様のお肌みたいよ。毎日、朝起きて頬を触るのが楽しみで仕方ないの」
「それは良かった。クレアのために作ったクリームから始まったんだもん。クレアが喜んでくれて、私も嬉しい。クレアはこれから、もっと綺麗になるよ。それで、お姉さんが羨むくらいの美女になる」
「ふふふ。そうね、お姉様に羨ましがられたら、教えてあげるわ。私の大切なお友達は、美容の天才なのよって」
「天才は言い過ぎだよ。元々誰かが残してくれてた情報を、私が勝手に使ってるだけだもの」
「それでも、その情報をどう使うか考えて作ってくれたのはカリンだわ。私には、カリンが天才よ」
「ありがとう、クレア」
さすが私の推し!優しさが溢れて後光が差してる…(尊死……)
「ホント、カリンちゃんの作った化粧品は、凄いわよ。香りもいいし、効果も高いし、お母さんの友達が私をみんなで褒めてくれるの。だから、ちゃんと宣伝してるわよ。美容と健康に特化した『カレン商会』がもうすぐ正式に売り出すはずよって。みんな笑っちゃうくらい興味津々だったわ」
「そりゃそうですよ。エリンさん、私の友人たちも興味津々だったもの。元から若く見えるのに本当に若返ったのねって、羨ましがられたわ」
「お母さんもお婆ちゃんも、友達に勧めてくれてるんだ?ありがとう!2人が広告塔になってくれるなら、百人力だよ!」
「カリン、お父さんも組合で試供品を女性陣に渡してるんだよ?カリンに渡されたぶんは、全部、カレン商会の宣伝と共に渡し終わったんだよ?」
「ふふふ。お父さんもありがとう。感謝してるよ」
このお祝い会のために珍しく早く帰ってきたお父さんが拗ねたように話に割って入ってくるから、女4人微苦笑。
やっとの思いで、立ち上げと加盟と支払いを済ませ、商品も乾燥クリームに化粧水、クレンジングオイルと石鹸と基礎化粧品の基本ラインナップを3種類の香りで用意した。
いよいよ10日後からエリック師匠の店で販売が始まる。
明日始まる今ここに居ない師匠のお店での販売の予行練習には、ちょうど学校が休みの私達も見学に行くことになっている。
結局、師匠は人を1人雇って、お店の中を改装した。雇われたのは、師匠のお兄さんのお嫁さんの妹という、なんだか微妙な身内のような他人のような人。
レネさんというその人は、赤毛のくせっ毛を可愛らしく編んでいて、昔に読んだ赤毛のアンが小説の中から飛び出してきたのかと思う様な人だった。
レネさんにも事前に、基礎化粧品セットを渡し、使い方をミッチリと仕込んである。
なんで10歳の少女がそこまで知っているのかと疑問に思ったらしく訝しんでいたけれど、基礎化粧品の虜になってからは何故か私を教祖様の様に信奉してくれている。
案外上手く売ってくれるような気がして、明日からの日々を楽しみにしている私が居る。
「とにかく、みんなありがとう。明日の予行練習も楽しみだね。商品を買ってくれる人達が喜んでくれるか不安だけど、これからもよろしくね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます