第6話

カリンちゃん10歳、学校がちょっと大変です。

6月の暑期に仮選別の儀を受けて、学校に入学しました。

仮選別の儀は、単純に適性やらなんやらの鑑定を受けるだけで完了。

私の結果は、魔法、武術共に普通~高め程度の適性有り。

体力、魔力共に並よりやや多め。との事でした。

分かっていた通りに、魔法適性属性は、水(大)、風(大)、光(中)、土(小)、火(弱)、闇(微)の順。

武術適正は、剣(中)、弓(中)、槍(小)、斧(微)、拳(微)の順。

分かっちゃいたけど、火と闇の属性に関しては弱と微ってなんやねんっ!と静かに一人で突っ込んでしまった次第。

まぁ、(強大)は無かったし、(強)も無かったけど、それは良い。

戦闘特化になりたいわけじゃないし。

でもさぁ…(微)って、微妙なの?微細なの?微量なの?悲しい現実…

つまり、私が放つ闇属性を纏ったビンタは普通のビンタと変わらない程度と…


それはさておき、入学には試験がつきもの。もちろん座学は、最優秀で突破しました。

でも、それが悪かった…この街のお貴族様のボンボンに目を付けられてしまった…

小さい頃から貴族として勉強してきた自分が一番だと思っていたようで、たかが冒険者組合の組合長の娘に最優秀を搔っ攫われるとは思っていなかったらしい。

事あるごとに突っかかって来るし、勉強は出来ても力は無い私を武術の実技教科で盛大に笑いものにしてくる始末。

運動神経は、普通にしか無いのよ!ただでさえ男女の対格差が出始めるこの時期に、元から体だけはでっかいボンボンに勝てるわけねぇのよ!考える頭くらい、養ってから入学して来いってんだ!

と、言うわけで、毎日がめんどくさい。5と0の付く日のお休みが待ち遠しい…

女の子たちも、家業の手伝いが無く学校に通う余裕があるくらいの家の子は、お貴族様には関わりたくないか敵対したくないらしく、滅多に声を掛けてきたりはしない。

お母さんに、「友情を育んだり、青春を謳歌することは、子供のうちにしかできない」と言われて入学したけど、友達が出来ないよ…お母さん。

私の今の癒しは、孤児院に行かなくなった5の付く日のエリックさんのお手伝い&薬草類の調合(正式に師匠と呼ぶことを許されました。イェイ!)と、0の付く日の図書館&研究しかないよ…お母さん。

お手伝いがてらに、薬の調合や有用成分の研究をしていると、あっという間に一日が終わる。

図書館でも、有用成分や使い方の記述探しなんかをしてると、同じくあっという間に時間が経っている。

私の時間は、5と0のつく日だけ、まるで溶けて消えていっているみたいだ。


「あふ…眠い…」

恥も外聞もなく、誰も見ていないのをいいことに中庭で大あくび。

こんなことができるのも、一人だからなんだけども…切ない…

授業と授業の合間の休憩は、教室にいるとボンボンに捕まりそうなので抜け出してくる。

お気に入りは、校舎から中庭に出る道を少しそれたところにある、資材置き場のベンチ。たぶん、中庭を手入れする人たちの休憩場所。ほぼ誰も来ない。

たまに、庭師さんらしき人がいるので、その時は別の場所に移動する。

今日は、誰もいないからベンチに座って優雅に日向ぼっこ中。

「だ、誰っ!」

私の目の前に突如霞のマントを脱いだように現れたのは、真珠の涙を零す美少女だった。

「あ…ごめ、ごめんなさい。誰かっ、いる…と思わなっ…くて…」

しゃくりあげながら、謝罪を口にするけど、すっごい小さい声でギリ聞こえる程度だった。

「いいよ、驚かせてごめんね。私も驚いたけど。そんなことより、落ち着くまで座らない?」

少し横によけて、一人座れるくらいの幅をとったベンチを、ポンポンと叩いて彼女を誘導してみた。

「ありがとう」

彼女のお礼に小さくうなずいて、素直に隣に座った美少女に何を言うでもなく聞くでもなく、彼女の涙が引っ込んで落ち着くのを待ってみた。

「あの、ありがとう。落ち着きました」

小さな声で、そういった彼女は確かに涙が引っ込んで、しゃくりあげるのも収まっていた。

「よかった。そろそろ、次の授業が始まっちゃうよ。行くね。あ、濡れた布でも氷魔法でもなんでもいいから、まぶたを冷やさないとパンパンに張れちゃうよ。じゃぁね」

それだけ言って、私は行きたくもない教室に向かって歩き出した。

正直、かなり泣いてた理由が気になってる。

見たことのない美少女だったから、きっとクラスは違う。もしかしたら学年も違うかも?でも、あんなにかわいい子を泣かせるバカは、どんな理由で泣かせたのか…

まっすぐストレートの赤銅色の髪、アンバーに近い色の大きな二重の瞳、健やかな色白の、世が世ならトップアイドル間違い無しなきれいなお顔の可憐な美少女を、理由は知らんが泣かせやがって!

内心でプリプリとしながら教室に戻ると、いつも通りにチラリとこちらを見る目がちらほら。いい感じではないけど、ネガティブな言葉をかけてこないだけマシなのかな。

中身が大人だったからなのか、えげつないことでもない限り大っぴらに怒って騒いだりはしないけど、全てを受け流せるような大人でもない。

結局、今日も憂鬱に一日が過ぎていく。

また、あの美少女に会えるだろうか…きっと笑顔は、弾けそうな輝きを持ってると思うんだけどなぁ。そして、私は彼女を推せる!それも盛大に。

サラサラの髪を結ってみたい、頬にチーク・唇にティント、まつ毛にカールをかけて…あぁ、絶対可愛いっ!可愛いは正義!

密かに推していこう、あの美少女を!今日今この瞬間から、あの美少女は、私の推し!なんて、くだらないことを考えながら、何とかその日を乗り切った。


「ただいま帰りました」

「おかえりなさい、カリンちゃん。宿題、先にしちゃいなさいね」

お迎えをしてくれるお母さんに、「は~い」といいお返事をして、部屋に戻るとソッコーで着替えて机に向かう。

宿題が終わらないと、お母さんのスパルタ魔法実践の前の燃料補給をさせてもらえない。

毎日、燃料補給用のおやつの内容が朝は発表される。今日は、マドレーヌに似た焼き菓子のはず。ほんのりと柑橘系の香りがするマドレーヌ、大好きです!

せっせと宿題を終わらせて、おやつを食べに食堂に向かうと、お客様がいらした様だった。

「カリンさんにお会いしたくて。ご在宅ですか?」

控えめな可愛らしいお声…まさか?なんで?

やっぱり…真珠の涙の推し美少女が、我が家にキター!!

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