第5話

カリンちゃん7歳半、毎日が目まぐるしくて倒れそうです。

1の付く日はお家の手伝い、2の付く日は剣術の稽古、3の付く日は冒険者組合で読書&調べ物、4の付く日はお家の手伝い、5の付く日は教会で友達と遊ぶという体の慈善活動、6の付く日は魔術の稽古、7の付く日は薬屋さんでエリックさんに師事、8の付く日はお家の手伝い、9の付く日はおばあちゃんと庭仕事、0の付く日は完全オフの研究の日。あれ?私、休んでなくない?私だけのブラック企業?いや、好きなこともやってるのか…大丈夫、ブラックじゃないわ…ほっ…


お母さんはの言う勉強とは、剣術と魔術でした。

この世界、大なり小なり魔力があるのが当たり前らしい。

まぁ、生活に魔道具がこれだけ入り込んでいれば、そうなんだろうとは思っていたけど。

そして、お母さん曰く、私には人並みに魔力があるそうで護身のためにもと稽古を始めさせたと。

本来10歳に満たない子は魔力暴走を起こしやすいとの理由から魔術を使わせないそうだけど、私は小さい時から勉強もできたし出来るだろうと思ったんだそうな…

いや、その考えは少し乱暴だよ…お母さん。

実際、始めたばかりの時には軽く暴走して、丸3日も自分自身が光り続けるという珍事を巻き起こした。

剣術にしても、木剣に振り回されてお父さんの脛は青アザだらけだったし。

やっと最近、魔力制御を覚えて、剣に振り回されるのを逆手にとって遠心力を得る技を身につけたばかり。

7歳児のやる事じゃないって…お母さん、めっちゃスパルタで怖いんよ…

お家のお手伝いは、掃き掃除やお皿運び、花瓶の水換えなんかをメインにやっている。

慈善事業とは、教会に併設された孤児院で食事やお菓子を炊き出しする。

お父さんが功績を認められた大型討伐で亡くなった冒険者・国民は多かったらしい。

孤児になってしまった子たちをある程度の大きさの街が分散して引き取り、教会に孤児院を併設してみんなで協力している。

お父さんは、責任感か罪悪感か分からないけれど、孤児院への支援は欠かさない。

炊き出しも、他の街の冒険者組合は月に一度程度らしいけど、ここでは10日に一度。

私の役割は、炊き出しをみんなに配ることと、色々な遊びをみんなとして楽しませること。接待鬼ごっこは、案外しんどいものです。

お婆ちゃんとの庭仕事は、家庭菜園的な小さな畑と、綺麗なお花の世話と、美味しいお菓子と共にお喋りで、多分お喋りがメイン。

中々忙しいけど、エリックさんの所でお薬の話を聞けるのは楽しい。

お薬の効能や、原材料に保存料、使用量の決め方、作り方、未だに彼を質問攻めにしていたりする。

意外なことに、医学方面の本で異端とされている新・解体新書的な人体構造についての本も持っていて、もう少し大きくなったら見せてくれると約束している。

他にも薬草方面の本は揃っているから、お手伝いで品出しや掃除なんかをした報酬に見せてもらっている。

8歳の誕生日を過ぎたら、一番初歩の回復薬を作らせてくれる約束だから、楽しみで仕方ない!

冒険者組合で多種多様な美容に関連しそうな本を読み漁りながら、0の付く日に何をしようかと考えていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。

早く大きくなりたい、たくさん知りたい・やりたいことがあるのに…小さい体が恨めしい…




カリンちゃん9歳、ド三流な冒険者に勝てる程に強くなりました(大袈裟)。

お母さんのスパルタのお陰で、私の魔術の成長が著しい…

そして今、私は怒られながら褒められている…冒険者組合のお父さんの執務室でお父さんと話を聞いて駆けつけてきたお母さんに。

なんのことかって?カリンちゃん、酔っ払い下級冒険者を、捕縛してみました。

孤児院の炊き出しの後に、私が魔法で作った水風船もどきを投げて子供たちと遊んでいたら、真昼間っから酔っ払ったド三流感丸出しの冒険者が乱入。

子供の一人を人質にして剣を振り回し始めたから、さぁ大変。

一緒に来てたお父さんは、冒険者組合の非戦闘職員たちと来ていた一般人の避難誘導で防戦を強いられてた。

それじゃ、私がやるしかないじゃない。

何とかお母さんに合格を貰えた魔法で応戦した訳ですよ。

先ず、弱水弾をド三流の顔面に3連弾打ち込んで、子供から手が離れた隙に弱土壁で囲い込んで目隠しと足止めして子供を確保、壁を壊して出てきたド三流の顎に近づいていた私が下から目いっぱい魔力を込めた3連水弾でノックアウトさせました。

まだ水弾と風斬、土壁と光槍の弱いのしか使えないけど、同じ魔法なら3連まで使用できる。

私の今の最大火力をぶち込んで、ド三流は無事に捕縛されましたとさ。

因みに、私の適性は水・風・土・光だそうで、火と闇の属性は使えても弱っ!て、感じらしい。

複数属性適性は珍しくないけど、火属性がこれだけ弱いと火起こし位にか使えないねって言われた…カリンちゃん、大ショック…

そして、今に至る。

危ない事をしたって、近づきすぎだって、怒られました。

全員無事で見事に犯人捕縛の大手柄に、上手く魔法が使えていたとのことで、褒められました。

でも、心配性すぎるお母さんの腕の中から逃れる術は、今の私にはないです。

はい、ごめんなさい。

何とか怒られ褒められ終わって、お母さんと2人でお家に到着。

「お母さん、心配かけたおわびびにカリンがお茶をいれてあげる。だから、もうお手手をはなして?もう、大丈夫だから」

そっとお母さんの手を離して、居間の椅子に座って貰った。

ちょっと前にエリックさんがちょびっとだけくれた乾燥カモミール(こちらではカミル)をハーブティーにして、お母さんの前に置いて隣に座った。

「良い香り…安心する香りね。美味しいわ」

「心のトゲトゲをなだめてくれる作用があるって、教えてもらったよ。あんまりたくさんは取れないから、少しだけねってエリックさんがくれたの」

「そう。大事にしてたんじゃないの?」

「そうだけど、お母さんが悲しい顔してる方がいやだから。私のせいだし…ごめんなさい」

「もういいわ。今度からは気を付けてね?ありがとう」

警備隊舎まで事情の説明に行ったお父さんが帰るまでの時間、私はお母さんにピッタリ寄り添って過ごした。

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