第4話

冒険者組合の2階の図書館は、思ったよりも多くの本が犇めいていた。

セインさんに薬草関係の本の在処を聞いて、初級向けの本から読み漁った。

初級薬草学、薬草百科図鑑、中級薬草学、薬草の群生地一覧、薬草と毒草の見分け方百科、美味しく食べる薬草レシピ、きのこと毒キノコの奇妙な関係、千の薬、孤独な薬師の恋愛遍歴物語、以上本日の読み物でした。

薬草学の本と図鑑と見分け方からは使えそうな薬草を抜粋して、お絵かき帳にスケッチまでした。

面白かったのは、薬草レシピ。この世界では、薬草は前世のハーブの様には使われておらず、あくまでもお薬扱いであり、病人のための病人食的なレシピばっかりだった。

美味しくなさそう過ぎて、切なくなった私だった。病気しない、ゼッタイ。

最後の薬師の恋愛遍歴は、自叙伝の様な作風で途中で飽きた。孤独とは言いつつ、自分がどれだけモテたかを書いてあるだけな感じだった。

そして、意外なことにきのこと毒キノコの奇妙な関係は、学問書的な物ではなく子供向けの注意喚起用の絵本だった。優しいキノコくんと意地悪な毒キノコくんのお話…全部ちゃんと読んだけどさ。

貸し出しをしては貰えないそうなので、また来てもいいかとお父さんに確認しなくては。

あとは、また薬屋さんのお店に行きたいな。

後から聞いた話によると、あのお店のちょびっとイケメンお兄さんは、意外とそこそこ名の知れた薬師だった。エリックさんと言うらしい。

国が認める1級資格を持っているとのことで、大き目な街の貴族街に近い場所にお店を持てていることに納得してしまった。

ちょびっとイケメンお兄さん改め、エリックさんに色々教えてもらえば有用な美容成分の勉強になるはずだ。


「カリン?そろそろお家に帰ろうか?カリンは、お夕飯の時間だろう?」

「お父さんは、もうかえれるんですか?いつも、もっとおそくまでおしごとしてる」

「今日はカリンがいるから、みんなが頑張ってくれたんだよ。みんなにお礼を言って帰ろう」

「はいっ」

いつもは、私が寝付くころに帰って来るお父さんの帰りが早くなるなら、お母さんも喜ぶかな?そしたら、また見学に行っても良いって言ってくれるかも?

お父さんの隣を歩きながら、打算的なことを考えてしまった悪い子なカリンです。

「みんな、先に帰らせてもらうよ。ありがとう。お疲れ様。カリン、お礼を」

「はい。みなさん、今日は、ありがとうございました。もっとみなさんとなかよくなりたいので、じゃまにならないくらいにまたあそびにきます」

ペコっと頭を下げると、お胸の主張の激しいお姉さんが、「待ってるわ」と声を掛けてくれた。笑顔で見送ってくれるみなさんとセインさんに手を振って、護衛さんと三人で家路を歩く。

「楽しかったかい?つまらなくなかった?」

「たのしかったですよ。ご本もたくさんよんだし、ごはんもおいしかったし、お父さんがかっこよかったです」

ちゃんとお父さんを労える、良い子なカリンです。

「そうか、お母さんが良いって言ったら、また一緒に行こうか」

はいっ!と良いお返事をして、手を繋いでお家に到着すると、ちゃんと護衛さんにお礼を言って、お別れしました。好感度大事。またお出かけしたいから!

何人もいるメイドさんと護衛さんの顔と名前はまだイマイチ合わないけど、ニコっと笑って一礼をしてくれました。


「お帰りなさい。あなた。カリンちゃん。お夕飯、出来てるわ。お着換えしてきてね」

「はい。たくさんいろいろなおはなししたいので、すぐにきがえてきます」

いつも以上に素直に言うことを聞いた私に、ニッコリ微笑んで頭を撫でてくれた。

お母さんの機嫌を損ねることは、出来ません。お出かけのためにも!

お腹も、ペコペコだったしね。頭を使うと、結構お腹が減るのです。

ソッコーで着替えて向かった食堂では、お婆ちゃんも一緒に初めての職場見学の話に花を咲かせながらの楽しいお夕飯になった。

ちゃんとお母さんに「また行きたいです」と、可愛くおねだりも忘れない私。

お父さんを味方に付けて、お婆ちゃんを巻き込んで、ちゃんと許可をもぎ取りましたとも!

但し、条件付きで…

お母さんは甘くなかった…


条件は、秋から3.5.7.0の付く日以外は家の手伝いとお勉強をミッチリやる事。

つまり、10日間の内3.5.7.0の付く日は好きに遊んでいいってこと。

この世界は1年が12ヶ月、1ヶ月が30日、1日が12刻、1刻が12暫で回っている。

1暫が10分くらいの計算で、大体前世の地球と同じ感じ。

因みに、ちゃんと、時計みたいな魔導刻計がある。秒って概念は無いみたいだけど、基準になる魔力で動く砂時計みたいなものがあるらしい。

日本みたいに四季は無いけど、1ヶ月間くらいの短い暑期が6月に、12月には寒期がある。

地球で言う所の日曜日は5と0の付く日で、だいたい10日周期でみんな働いてるから、どちらかでお休みをとるお店が多い。

そして、前世で言う所の新学期は9月にある。

別に義務じゃないけど、手に職をつけるために10歳になる年の6月に仮選別の儀って言う仮成人式みたいな儀式的なものを受けた子が、9月から新入生として15歳になる年の8月まで学校に通う。

因みに、学校を卒業した子達は、9月に本選別の儀を受けて、晴れて成人となって色々な仕事に就くことになる。

私は自ら進んで勉強を小さい頃からしちゃったし、やりたい事は決まってるから学校に通う必要はないと思うけど…

9月から、お出かけの対価としてのお手伝いと勉強は、飲まざるを得ない圧があった…お母さん、元冒険者だからなのか威圧のかけ方が娘に対しても本気だった…怖や。

少しでもご機嫌を取るために、今日知り得たことの中からお母さんにピッタリの事をお伝えする。

「今日よんだ本のなかに、バンギのはをかんそうさせておふろに入れたり、せんじてお茶にしてのんだりするとびようとか、けんこうによいですってかいてありました。しってますか?カリンはお母さんとおばあちゃんに、ずっとびじんでけんこうでいてほしいです」

「ありがとう、カリンちゃん。バンギの葉は、知らなかったわ。お義母さん、やってみましょうか?高いものじゃないし」

よし!ちょびっと残ってた圧が、消えたぞ。

流石、薬草百科図鑑!君は良い仕事をしたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る