小鬼さんどちら
最近、
後輩が退職した。
特に親しかった訳ではないしチームも別だが、同じ部署で仕事をしていた。
そんな、ようやく入社2年目に差し掛かった超若手が辞めた。理由は様々あろうと思う。知る由もない、交流がほぼ無かったのだから。
またか、と思った。
また何も出来なかった、というか気付けなかった。
少し前にも似たようなことはあった。やりたいことが他に見つかって飛び立ったのだと思いたいが、残念ながらそうでは無さそうだった。
そのチームの先輩方の反応は冷めたもので「なんだ辞めるんだ。全然覚えられなかったもんね、仕事。」と口に出しゃしないが、まぁわたし程度で感じ取れるほど言葉の端々や態度に出ていた。鬼、とまでは言わないが、小悪魔ならぬ小鬼である。
確かに仕事覚えは大切だ。その覚えたことを自分のものにしてアウトプットすることも。これは今、巷でホットな転生物語にも散々見て取れる。それほどどんな世界においても必要かつ重宝される基礎スキルなのだろう。何かしら一つでも、どれだけ小さなものでも技術を磨き上げた者が強い。
なぜ重宝されるのか。存外難しいからではないか。
器用な人はいい。
何でもそつ無くこなせるような。テスト前には教科書をざっと読み返すだけで及第点が取れるような。「勉強してな~い。」と言いながら高得点を華麗にかっさらうような。
誰か特定の人を思い浮かべていないか?
とにかく、こういう人は更にその先の、また違った悩みを抱えている話を聞くことが多い。
しかしそうではない場合。特に社会に出たばかりの若手と呼ばれがちな世代の場合は、大いに周囲のサポートが必要な場合が多い。またサポートを求めやすい環境が目に見える形でそばに無いと、頼ろうとした時には、助けようとした時には、もう遅いという深みに嵌まっている場合がある。ヘルプの出し方も上手くないからだ。懐かしき新入社員だった頃のわたしのように。
わたしの場合は"ギリギリ"のところで環境が変わったことと、社外に発散できる場がいてくれたことが幸運だった。生来の口の悪さがそんなところで自分を救うとは思わなかった。
件の彼は素直な子だったと思う。スーツ姿しか見ていないが、普段はきっとおしゃれをするのが好きなんだろうなぁと感じさせる雰囲気だった。なんだ、髪型のせいだろうか。
そんな程度の印象しか抱けないほどには距離のあった人に、何か出来なかったのかなどと考えること自体おこがましいと思う。思うが、黙って目で追うだけなのは当時のわたしに顔向け出来ないようにも感じる。小鬼はここにもいるのだ。
助けが必要だと表現できず、気付いてもらおうとするのは甘えだと言う人も当然いるが、わたしは過去のわたしに似た者くらい甘やかしたい。依怙贔屓くらいはさせてほしい。
彼はどうしているだろうか。せめて今は、美味しいものをお腹いっぱいに食べて元気でいてほしい。
その裏でわたしはわたしの中の小鬼をいかに喰い倒すか考えることにしよう。まず始めに手でも鳴らして呼び寄せるか。
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