地下1階(決)

真の怪物が迫り来る。階段を階段とも思わず、四脚すべてを床や壁、天井に押し付けながら爆進している。


がたつく階段のせいでわずかに足を踏み外してぐらりと体が揺れる。すると、先ほどまで走っていた場所を、スカルドラゴンのアギトが


ガチン、ガチン、と石階段をくり抜いたスカルドラゴンの髑髏が唸る。逃げ、逃げの一手!地下墳墓からは流石に出てこれまい!


叫びながら階段を駆け上がる。ドタドタ、ガチンガチン、ヴオンヴオンと背後の怪物はぴったりとついてくる!


何事にも限度がある。


アギトが背嚢を食い破る。手が残った靴を奪い去る。裸足でひた走る。妙に首が辛い。呼吸をするたびに痛みが走る。


そこでようやく、首に絞められたような痣があることに気づいた。視界の端に腐った肉がこびりついた腕が映る。首に触る。



妙に、脂ぎった痣だった。背筋が凍った。悲鳴を上げる。



なぜ、4階に上階への水跡があったのか。

なぜ、3階で止まらなかったのか。

なぜ、首に腐った脂がこびりついているのか。



この怪物が、

俺の首を掴んで、

最下層の棺の前まで、

引きずったからだ!



そこまで、そこまで!一人で死んでいるのが、嫌なのか⁉︎



ふっ、と足を踏み外す。段が無い。



ああまで望んでいたはずの一階だった。そして、こけた。スライムがべちゃっと放り出されて転がっていった。


怪物が覆い被さるように俺の上に来る。スカルドラゴンのアギトがカタカタと嗤う。それはカパリと開き、怪しい、奥の方でドス黒い紫の光が輝き始めた。腐った手足で逃げようとする俺を押さえつける。


その光は徐々に溜まる。もがく。出られない。



光線が放たれた。



俺はモロに浴びた。心が死んでいくのがわかる。沼にはまった様に肉体が止まっていく。


死ぬのか、俺は。朽ちて、腐って、骨になるのか⁉︎嫌だ……。息ができない。こんなの、嫌だ!逃げられない。



さらに、光線が、一際、強く。




死にたくない!





パキ、と何かが砕ける音がした。

指輪が砕けたのだと何故か分かった。


同時、まばゆい光に包まれる!



怪物の悲鳴が轟く。押さえつけられた手足が自由になる。生きている。


だが、怪物は滅茶苦茶に暴れ始めた。すくんで動けない俺は、当然離れることもできず、振り下ろされる怪物の腕を呆然と見ることしかできなかった。





滑空する火球が、怪物の腕を弾いた。


同時に、3本の矢が続け様に怪物の右膝を貫いた。


最後に、戦鎚を携えた全身甲冑の巨大な戦士が、体当たりで怪物を吹き飛ばした!


「虫の知らせ、いや、スライムの知らせというのもアテになるものよのォ」


女弓手と共に現れた、鍔の広い三角帽子を深くかぶる老人が、杖から出る煙を振り払いながらそう言った。



その肩には、怯えつつも、戻ってきたスライムが乗っていた。

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