地下1階(戦)

3人組の探窟家が怪物を袋叩きにする。あの怪物が防戦一方であった。


怪物はより一層暴れるも、鉄壁の戦士を突破できず、後衛2人に蹂躙される。



ついに、決着が訪れる。



戦鎚が膝を完璧に砕く。剛射が腕を壁に射止める。怪物の動きが止まる。


そして、老魔導士が厳かに詠唱する。杖の先端が月光色に輝く。怪物も対抗するように、アギトの中で光線を溜める。


老魔導士は怯えずにその場から動かず、詠唱を完遂する。


極太の超雷撃が放たれた!怪物も光線を放つ!


それらは一瞬拮抗し……雷撃が、光線を打ち破った!怪物に雷撃が走り、耐えきれないかのように爆発四散した!


彼らは怪物を完封した。老魔導士が向き直り、スライムを俺の側に下ろす。


「このスライムに感謝するがよい、生存者サバイバー


あっけに取られっぱなしの俺は、奇怪な単語が俺を指していることが分からず、礼を言うしかなかった。


「あ、ありがとう、ございます」

生存者サバイバーは不満か?ふむ……」


勝手に喋り出す老魔導士を見て、鎧戦士と女弓手は笑いを堪えていた。彼の悪癖らしい。


老魔導士は俺をじろじろと見て、ポン、と手を打った。


「さてはお主、それ全部奪ったモノじゃろ?いやいや、言わなくていい。気に入った!お主は今から、盗賊もどきローグライク!生きるためならなんでも漁る、勇気ある探窟家じゃ!」


老魔導士は手を出す。この一瞬で仲間になれとはあまりに強引。されど、強烈。輝いて見えた。



老魔導士の手を取る。




瞬間、彼の顔が強張った。老魔導士が血相を変える。彼は俺の指に付けられた指輪を見ている。


「お主!この指輪、もう一つはどこじゃ!」

「さっきの、怪物の光線を浴びてしまったときに……その、砕けてしまって……」


彼の覇気に言い訳じみた声しか出ない。……彼は焦っている?


老魔導士は怪物を物色する仲間へ振り返り、大声で叫んだ。




「今すぐソイツの頭を砕けッ‼︎」




すぐさま、疑問も抱かずに戦士と弓手の2人は部屋の隅に転がったスカルドラゴンの髑髏を狙う。



「双子指輪の片割れが魔法を防ぎきれず砕けているッ!この怪物は、《不死》だッ!」




遅かった。




怪物が、スカルドラゴンの髑髏を中心に、爆発するように再生した。飛びかかった戦士と弓手がものすごい勢いで吹き飛んで壁に打ち付けられ、動かなくなった。舌打ちした老魔導士が火球を連打する。怪物は小爆発に怯むも、その長い手足を活かして老人の足を掴み、天井へ叩きつけた。杖を取り落とした。





地下墳墓、怪物、俺。





四肢に力を入れる。逃げる、逃げる!出口は近い!




そのとき、後ずさりした素足が、スライムに触れた。


怯えるスライムは俺に渡そうと老魔導士の杖を持ち上げていた。





……やっぱり、死にたくない。





だが、恩人を、死なせる気も、無い!





杖を掴んだ。振られる手足を屈んで避ける。


デタラメに叫んで気合いを込めて杖を振る。バシッ、と一筋の雷撃が出た。使える!


雷撃は怪物を穿つ!だが、微塵も効いていない!耐性⁉︎何か、届きうる何か!




杖が指輪に触れた。光った気がした。


硬い盾は、ぶつければ武器になる!


指輪を外す。杖に嵌める。お前を殺してやる、と気合いを込める。杖が月光に輝く。わずかに、激しい金色が混じっている!


怪物も気づく。アギトを開き、即座に怪光線を発射!


俺も続いて発射!金色の雷撃が迸る!



ぶつかりあったそれらは、弾かれた!


軌道が逸れてしまった!雷撃が空を切る!怪物が微笑む!迫り来る!




雷撃は、むなしく、壁に……ぶつからなかった!裏に回っていたスライムが受け止めた!雷撃はスライムの全身を駆け巡り……帯電した!聖なる雷撃粘獣ホーリー・ライトニング・スライム




俺たちは、賭けに勝った!



スライムが水流をジェット状に放つ!その反動で飛び立つ!そして、その勢いは迫り来る怪物の頭、スカルドラゴンの髑髏を捉えた!まとわりつく!



そして、締める、締める、締める!亀裂が走る!おぞましい悲鳴!乱射される怪光線!だが、光は水をすり抜ける!スライムには効かない!


ヂヂヂヂヂヂ!


聖なる雷撃が怪物を包む。無限かと思われたその電撃は、ばきりという音と共に終わった。





恐ろしい、世界を呪うスカルドラゴンの髑髏は、スライムの中で砕け散った。おぞましい肉体も消え去っていく。




残されたのは、俺と、スライム。俺たちは勝った!勝ったんだ!





壁に埋もれた戦士が立ち上がる。砕けた怪物の髑髏を見て驚くようにこちらを見る。


驚く戦士に対して、達成感に溢れた気持ちで手を振る。



そこで一旦、俺の意識は途絶えた。







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