第2話 人違いです!!Ⅱ

ゲーセンはすぐ目の前。


俺は今、コンビニ店内に立て籠っていた。

別に強盗とかそういうのではなくて、件のストーカーの特定のためである。因みに俺は雑誌コーナーでグラビアアイドルの雑誌を両手で舐めるように一読しながらストーカーを視界の端っこに入れていた。


一先ず感想はチョロい。


チョロ過ぎる!


尾行下手か!


因みに、コンビニまでの道中で、コイツの狙いが俺である事が確定するのに時間は掛からなかった。何回も曲がり角で曲がり、途中人気の無さそうな路地裏も経由してたが、どうやら向こうは自分の尾行が壊滅的なまでに下手であると認識していないようだった。


そして、その下手な尾行をしていた犯人はというと、道路を挟んで真向かいにある本屋にて、絶賛定期的にチラチラ確認してきている。で、犯人の情報はと言うと。


性別は、服装から女性。

髪色は黒。

髪型はロングかミディアム。

身長は恐らく160より下。

年齢はセーラー服を着ていることから学生。


と、これくらいは把握することができている。因みに制服のデザインは学園の物ではないため、本土の学生であることがわかった。


「てか、何で本土の学生にストーカーされてるんだよ。。」


意味分からん。とりあえず喜べばいいのか?


途端に力が抜けて、馬鹿らしくなった。


「もういいや。格ゲーしよ」


どうでもよくなった俺はゲーセンに突入。


そのまま一直線に格ゲーの筐体に向かう。

因みにストーカーはしっかり、ゲーセンの入り口の真ん前にて待機。


「そんじゃあ、根比べと行こうか」


そう呟いて、ニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべる。


100円んんイン!!!


しばらくして⭐︎⭐︎⭐︎



       YOU DIED


もう何度目か分からないほど見た、この黒に染まった画面に赤い鮮血を帯びた文字列。


体感では約1時間程滞在していた。

と言うか、あのストーカーは知っているのだろうか。このゲーセンには出入り口が二つあるということを。


どうでもいいっか!


そうして俺は反対側の自動ドアから寮へと向かった。



そして翌日。


え?


俺は寝ぼけてフラつきながら、顔を洗う為に洗面所に行く。


顔を洗う。


そこで思い出すのは、昨日の間抜けなストーカー。


「あれからどうなったんだ?」


あれからと言ってもまだ1日しか経ってないけどな。


それから朝食を求め、食堂に向かう。

因みに、長期休暇時は昼食以外の2食は寮の食堂で食べることができる。

おばちゃんありがとう!


言葉は心に留めて、いただきます!


食後、現時刻は10時。


今からは日課のトレーニングをしに、魔力を纏いながらランニングで公園まで向かう。


場所は寮から10kmの地点の公園。


ランニングというよりマラソンだな。

何度やっても開始前は胃が痛くなる。


「よし、じゃあやるか」


俺は一歩を力強く踏み出した。


因みにこれアップです。


程なくして公園につき、戦技の練度を上げるメニューに取り組む。


あ、忘れていたが、魔力は人が戦技を発現させる前に見つけた未知なエネルギーみたいなもので、殆どの戦技は魔力を消費して能力を使用しているらしい。

その為、魔力量と操作練度が高くなければ戦技が優秀であっても、本領を発揮する事ができないらしい。


と、こんな感じで説明終了。


そして、トレーニング後は適当に昼を済ませ、今は食後の散歩中。


時間を気にせず彷徨いていると、気づけば大型ショッピングモールの店内にいた。


カップルを見ては、溜め息を吐いていると、現代では珍しい光景を目にした。


「ねぇねぇ!キミ1人?名前は?その制服本土のやつだよね?歳いくつ?」


「。。」


と、チャラチャラした金髪ヒョロ長兄ちゃんが、未成年の黒髪女子学生に次から次へと質問するが、その全てを無視されいる光景は滑稽だった。


が、終始無視されていることに舐められていると感じたのか、男の雰囲気が怪しいものに変わった。


「本土のガキが、あんまり大人を舐めるなよ!」


すると、女子学生の腕を無理矢理掴み、力尽くで言いなりにさせようとしていた。


掴んだ後、男が強引に腕を引っ張ったことで、被害者の学生の顔が見えた。


「っ!?」


思わず息を呑んだ。

何せ、昨日俺をストーカーしていたポンコツ学生が被害者だったのだから。


悩んだ末、助けに入ろうとした時、学生の方の雰囲気が冷たくなった。

というか周囲が。


そう感じたのと、ほぼ同時に男が突然叫び出した。


「ガアアアアアアアア!?」


男が、先程まで学生の腕を掴んでいた、凍結した右手を抱え絶叫していた。


え、凍結?


男の目は恐怖で怯えていた。そしてそのまま尻餅をつき、怯えた目で女子学生を捉えていた。


「はぁ。アナタは暴力行為並びに未成年に対しよからぬことを企てていた。これらのことを加味してここで処罰します!情状酌量の余地はありません」


怯えた成人男性に対し、そう冷たく言い放った。


「うん?処罰?」


その疑問は、ナンパ男の発言で解決することになる。


「処罰。。。まさか、その制服は!?」


日特。それは、強すぎる戦技所持者の力の暴走やテロ行為などを未然に防ぐことを目的としてとして設立された国家特務機関の略称。


正式名称⦅日本魔害戦技安全防衛特務機関⦆通称”日特”。


世間に公開されいる情報として、ほとんどの任務は、危険者リスト及び危険者候補リストに載る人物の監視と危険行動時の処罰。

処罰内容は、リストの危険度ランクで変動若しくは機関からの命令により決定される。


これのみである。その為、裏社会に生きてない限り、その存在は都市伝説に近い。


だからこそ驚きが隠せない。


何せ、目の前で冷気を放つ学生が、存在しているのかも怪しい、それも国家特務機関に属しているのだから。


そしてあの男が言うには、あのセーラ服は機関の制服ときた。


もしかしなくても。。


「俺も監視対象かよ。。」


一瞬逃げようかと思ったが、周囲を見れば突然の戦技使用、それもやってはいけない禁止エリアでの使用の為、一般人が驚いてる。


「しかも、あれ怒りで周りが見えてないだろ絶対!」


その証拠に、触れれば凍りつく絶対零度の冷気の範囲が徐々に一般人の方まで広がっている。


すると、視界の端で子供が冷気に触れそうになっていて、その母親も巻き込まれそうになっていた。


瞬間、気がつけば体が動き、親子の前にで移動した。


そして右手を冷気に突き出し、魔力で冷気を相殺。戦技を使うとマズい為、魔力を冷気に向けて放出し凍結を防いだ。


普通、こんな芸当は不可能である。が、この男、桜火は違う。保有魔力量は常人では考えられない程に膨大で、その操作練度は軍隊に所属する戦技保持者を凌ぐ程高い。

流石に隊長、副隊長程ではないが、10代で隊員と同じということは、それだけこの男は凄まじい素質を秘めていることになる。


「ここにいると凍結の巻き添いになる!!早く外に避難した方がいい」


助けた親子だけでなく、他の人達にも聞こえるように大声で叫ぶと、一斉に避難が開始された。それと同じく禁止エリアでの戦技使用の為の警戒アラームがやっと反応した。


「あんまりここにいると面倒事になるだけだな。さっさと終わらせよ」


俺は、未だにナンパ男と学生が睨み合ってるところに向かった。


「み、見逃してくれ!!で、出来心だったんだ!?」


男の悲痛な叫びに、彼女は冷たい視線によって答える。


否であると。


「た、頼むから!!いのー


男が最後まで言い終える前に、彼女は右手を男の方に突き出し、勢いよく冷気を放出させた。


男が凍結しただろうと誰もが思う。彼女でさえ、自信を持ってそう思ったはずだ。


しかし、冷気の霧が晴れると人影が二つ存在していた。しかも、目を凝らすと凍っていないかったのだ。


彼女は思う、どうやってと。


すると、知らない男の声が聞こえてきた。


「ふぅ。なんとか間に合ったな。てか、後ろのナンパ男さんよぉ、アンタもう大人なんだから未成年ナンパして、無視されてキレて手を上げるとかやめろよな。。特に原因のナンパを。。。ったく早く行け、そろそろ隊員が来るぞ」


俺は悪態を吐きながら、男に逃げるよう指示を出した。


「キミは学園の生徒か。後輩にかっこ悪いとこ見せちまったな。恩にきるが、助言の方は善処する。。多分。助かった!」


男はそう言い残し、逃げ去った。

善処って。。

しかも卒業生かよ。。


「はぁ」


溜め息を吐きつつ、ストーカー女の方を見る。


「お前も、お前もだ。ちょっとナンパがしつこくて、シカトしたら逆ギレし、未成年に手を上げようとするような、まるで人間のゴミに絡まれたくらいで一々戦技をぶっ放すことか?それに聞けば、信じられないが日特に所属しているらしいじゃないか。それがキレて周りが見えなくなって、禁止エリアでの戦技使用。。さらに戦技も使ってないナンパ男に処罰とか、職権乱用もいいとこだぞ。寧ろ、お前が処罰されるべきだろ」


気付けば長々と発言していた。

お節介もいいとこだが、コイツの目を見るに

理解してなさそうだな。

てか、ストーカーが日特。。まだ向こうが言ってないから暫定だが、もうほぼ確定だろこれ。。どうしよう。。。


内心焦る俺に対し、目の前の彼女は冷静を装って口を開いた。


「確かに、貴方の指摘は正しいですね。禁止エリアでの戦技使用、戦技未使用の相手に対する処罰も不当でしたね。。ご迷惑をかけました。ですが、禁止エリアでの戦技使用は貴方も同じですよね?」


最初こそ、反省してます。という雰囲気と口調で油断したが、後半は強い口調且つ鋭い目つきと、尚且つ俺が戦技を使った事を決めつけてくるとは。。まさか俺も巻き添いにしつつそれを口実に監視しようと。。。


はぁ。くだらない。


「残念ながら俺は戦技を使ってない。出鱈目を言うのは止めろ。じゃあ、俺はこれで」


俺はそう言って、出口へと向かうとした。


すると、俺の進路を塞いできた。


「戦技を使わずにアレを防いだというのですか?」


彼女はさっきよりも目つきを鋭くさせ言ってきた。


「そうだ。これで満足か?」


そう言って今度こそ出口へと向かうのだが、またしても道を塞ぐ。


「貴方、一体何者ですか?あの冷気を戦技を使わずに防ぐなんて不可能です!」


俺は悩んだ。彼女の何者なのかという問いに。面倒くさいが、仕方ない。

ここはプランDで行こう。


こんな事に付き合ってられるかってんだ!


「鈴木 厳十浪ごんじゅうろう。。この名前聞けばわかるだろ?あんまり言いたくないんだこの名前を。。お前に分かるか?名前の響きだけでも物珍しい目で見られ、弄られ、受験シーズンには浪という字が入ってるだけで教師どもに弄られる屈辱が!!!もう関わらないでくれ!!」


俺は鬼の様な顔で、巻くし当てる様に語気を徐々に強めながら言い放す。


すると彼女は中学生男子の写真を1枚取り出し、驚いた反応をしていた。うん?


「え?!厳十浪?貴方は、結城桜火ではないんですか?!人違い!?うそ。。」


写真は俺の若かりし頃。表情が暗いのは察してくれ。前日に振られたんだよ。。


「誰だそいつは!!俺の新しい名前か?あぁ?」


さて、どう出る。。


「この人は。。いえ、すいませんでした。私の勘違いでした。引き留めしまい申し訳ございません」


さっきまでの冷静さはどこへやら。

弱々しく謝罪をしてきた。


はぁ。疲れた。


「二度と俺に関わるなよ!ったく!」


捨て台詞を残し、そのまま退散。


最後は若干の緊張はあったものの見事気付かれる事なく、無事帰宅する事に成功。


伸びをしながら床に転がる。


「無駄に疲れたが、これでもう安〈ピンポーン〉


何とか今日のアクシデントを乗り越えたことに安堵しようとしていた時、突然インターホンが鳴った。

寮にインターホンあったっけ?


てか、俺の部屋のインターホンか?隣りの部屋の線もある。居留守使うか。


ピンポーン

ピンポーン

ピンポーン

ピンポーン

ピンポーン

ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピン「うっさいわ!!!ボケ!!!!」


ピンポン連打が鳴り止んだはずなのに、まだ鼓膜で響いてる。。


そして、この悪戯を仕組んだやつに怒りと殺意が湧き上がる。



俺は、ドスドスと床をぶち抜く勢いで玄関へと向かう。


「どこの!誰だか!知らないが!」


内鍵を解除して勢いよくドアを開けるのと同時に相手の鼓膜を破壊するくらいの声量で言い放つ。


「周りの迷惑を考えろ!!!!!!!!

こんのぉ、アホがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


アホがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


 アホがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


  アホがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


   アホがぁぁぁぁぁぁぁ


    アホがぁぁぁぁぁ


「こんばんは。が結城桜火さんですね?今日から貴方は、監視対象です。抵抗する場合は死刑です。この場で。」


輝くのは、恨みの籠った眼を隠し切れてない営業スマイル。100円以下だな。


「いえ、人違いです」


瞬間、この場は静寂に包まれる。


「じゃあ」


そう言って早々にドアを閉めようとした時、

随分と華奢なお手手がドアを掴みそれを阻止する。


「「。。。」」


目線が合う。見つめ合う2人。

しかしながら、そこにロマンスはない。


「ルールも守れないどころか、マナーやモラルにも反する人間が、今度は法律にまで手を出すと?」


そう言いながらドアノブを握る手に力を込めるのは、俺の利き手兼本業の恋人みぎて


「くっ。。人のことを騙しておいて、よくもまぁ酒蛙々々と!!!」


「チッ」


気付いたか、このメスガキが!


「はっ!!何の事だが!!」


だが、俺は負けんぞぉ!!

一歩たりとも引きはしない!!

その意思が、ドヤ顔として表れる。


ブチ


聞こえたのは切れた音。

すると目の前の女は、何故か勝ち誇った表情になる。


「そうですか!そうですか!悪魔でもシラを切るつもりですか!!そうですか!」


怪しく光る目を見た俺は、途端に嫌な予感がした。


すると彼女は煽るような表情で、自身の通学カバンから書類を取り出し俺に突き出した。


「これを見ても!まだシラを切りますか?」


ニチャアア

という気持ち悪い笑みを浮かべた。


しかし、そんな事は些細な事で問題はこの紙切れ2枚。。


「ッ。。!?」


そこに書かれた内容は、あまりにも驚愕で声が出なかった。。










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