第5話『E班救出作戦・城&湧座その1』

 ─────時刻、午後2時を過ぎた頃。場所は東京都の『鳩音ばとん区』である。

 ここ最近で新しく追加された区の一つであり、千代田区と中央区の間に位置する区である。


 この区には、『カクテル』のE班が連れ去られているであろう廃映画館、『照夢映画館ていむえいがかん』というチェーン映画館がある。

 そしてその映画館には、じょう湧座わいざが向かっていた。

 映画館の外見は至って普通の廃墟である。ただ取り残されている、光を失った、男性の横顔を型どった看板がひとつ、ポカンと店頭に存在している。

 この不気味な見た目と、どこか悲しい雰囲気から、地域の人からは『ツギハギ映画館』と呼ばれていた。


 じょう湧座わいざは映画館に着くと、躊躇ちゅうちょなく早速中へ入っていった。

 A班の部屋から通話している一斗いっとによると、発信機のある部屋は3階の『ビッグシアタールーム』ということが理解わかっている。

 人がいるような、いないような。怪しげな雰囲気を醸し出す映画館をテクテク進んでゆく。

 コツコツと靴の鳴らす音しかしない中、湧座わいざ沈黙ちんもくを切り裂くように話し出した。


「こういうとこ、あんまり得意じゃないんだよね。」

「……その外見でお化け屋敷とか苦手なんですね。」

「鍛えてても苦手なものは苦手だよ? 鍛えてても未だにゴーヤ苦手だし〜…。」

「不思議な人だ…班長あなたといると、場が一気に緩やかになる…。」


 会話することも束の間、階段を挙がってすぐ目の前に『ビッグシアタールーム』の扉が現れた。

 その扉に近づくと、扉は鉄製の黒いドアで、鍵がかかっていた。

 しかし二人は鍵を持っていない。だが手が無いわけじゃない。

 じょうは「離れててください」と湧座わいざを後ろへ下げると、大きく後ろへ右拳を振りかぶった。

 腰を右へ回すその姿は、砲丸投げのようにも見える、槍投げのようにも見える。

『瞬間的に力を出す』姿勢スタイルである。


「……これは…。」


 湧座わいざは、何かを感じた。前にも感じたことのある物。

 それは闘志……オーラ……『破壊力』の気の充満である。

 じょうの振りかぶった右拳にはどんどん『破壊力』が真っ赤なオーラとなって集まっていく。

 溢れんばかりのその力……拳より一回り大きくなった、次の瞬間的。


「……『暴走兵器ランペイジ』……!!!」


「ハァァァァァァァアア……!!!!」


 ドグァン!!っと凄まじい音が廃墟中を反響した。

 まさに、鉄扉に向けて重いハンマーを打ち付けた音、それである。

 じょう破壊力まとったパンチは、あろうことか、映画館の重たく黒い扉の鍵をいとも容易たやすく破壊した。

 打ち付けられた扉のその箇所は、シューッと熱を発して湯気が立っており、他の箇所よりも明らかに厚さが薄くなっている。



「……『破壊巨人ガルガンチュア』……!!!!」


 湧座わいざは圧倒されていた。

 破壊力を上乗せするだけという能力、ただ単純な能力ほど恐ろしいものは無いと、痛いほど痛感した。

 湧座わいざは数秒音のショックで動けなくなったが、気を取り戻すと進んでドアを押し開けた。

 ガガガガ…と床を引きずり開く鉄のドア、その向こうには薄暗い空間があった。

 ホコリっぽく、幾つもの座席。一番目を惹くのは、天井いっぱいに広がる大きなスクリーン。『ビッグシアタールーム』と呼ばれるだけある部屋だ。



 ───その部屋のスクリーンの前。何かがうごめいていた。

 その動くものは、だんだんとこちらへ近づいて行く。

 トンットンッと、革靴を履いているようだ。

 二人はこの向かってくる人物に対し、臨戦態勢に入る。

 向かってくる人物は、天井の穴から差す陽の光に照らされると、その顔があらわになった。

 優しそうな目、雰囲気。170cm程度の普通体型に、ホテルの支配人のようなビシッとしたスーツに赤いネクタイが特徴の男だ。

 男は二人に10m間が空くくらい近づくと、こちらへ話しかけてきた。


「素晴らしい能力をお持ちの方ですねぇ…戦うには不向きなスーツだと言うのになんという威力。私の事を教えるに値する人物だと存じました!」


「私は日本マフィア『陸王会りくおうかい』に所属しています、『日向流伝ひゅうがるでん』と申します。貴方達のお仲間は生きておりますよ。」


 丁寧に話す異様なその男、じょう達二人は目の前の男が能力者『パラサイトヒューマン』であることを確信した。

 堂々と近づいて、更に余裕を浮かべながら話す……それも敵であろう人物二人に向けて。

 どこからどう見ても怪しい。

 それに『陸王会りくおうかい』所属と来た。

 間違いなく能力者だと確信した。


「……お前、連れ去った奴らを何処にやったんだ。」


 こちらも冷静に、じょうがまず問いかけた。

 その問いにも、また冷静に対処する流伝るでん…。

 何度も修羅場をくぐり抜けてきた経歴が目で見えるほどの冷静さに心底二人は驚かされた。


「ここの階のもっと先ですよ…しかし、言ったところで貴方達がたどり着けるものですかねぇ〜…。」


 流伝るでんは話しながらゆっくりと腰から銃を取り出す。

 ゆっくり、二人にバレる前に撃ち殺すんだと…ゆっくりゆっくりと引き抜く。

 そして流伝るでんは刹那、チャキッと二人の目の前に銃口を見せた。

 撃ち殺すという殺意、大きくそれは湧座わいざの直感に作用した。


「ここで死ぬんです!! そこまで行けるわけないでしょうに!!!!」

「させるかァ!!! うぉお『SE7ENセブン』!!!」


 ドギュンと、銃から弾丸が放たれた。

 金色の弾は、真っ直ぐ一直線に進む。

 しかし、その弾の行きつく先は、二人の眉間でも、心臓でもない。

 放たれた音速の弾丸は、天井に更にもうひとつ陽の光を増やした。

 二人へ弾は当たってはいなかった。それは何故か。

 その銃口は真上を向いている。流伝るでんが威嚇で撃った訳では無い。

 殺すつもりで撃ったその拳銃…それは腕ごと湧座わいざが天井へ向けて手で弾いていたために、弾丸の行先は二人へ向かわなかったのだ。


 しかしおかしい。その湧座わいざが二人いるでは無いか。


 じょうの隣に一人、拳銃を腕ごと天井へ向けたのが一人。これはどういうことなのか。

 銃撃音が響いた後、湧座わいざは丁寧に説明した。


「……私の能力は…『自分を一度に7人まで分身させることが出来る』能力……それが『SE7ENセブン』…。」


「だけどそれだけじゃない…この能力の真骨頂は……!」


 能力で増やされた方の湧座わいざは、あろうことか拳銃にかぶりついた。

 急に奇行に走るコピーを見て流伝るでんは驚愕した。


「あぁ〜〜んぐ……むぐむぐ……。」

「な、なんだこいつ…拳銃を食おうとしてるのかァ!?」


 そしてついに拳銃はガブリと歯型を残して、コピー湧座わいざに半分食べられてしまった。


「な、なんて奴だ…拳銃を……食うなんて!!」

「これが私の能力の真骨頂……『コピーに七つの大罪からなる能力を付与することが出来る』のだ!!」


「そのコピーには、『暴食ベルゼブブ』の能力、『なんでも食べて消化できる能力』を与えている!! そいつは銃でもレンガでも食べることが出来る!!」


 銃を思わず手放した流伝るでん。デタラメな能力を目にした彼は、こちらも能力を使うことに決めた。

 銃を失った今、二人に対抗するにはそれしかない。

 流伝るでんは、二人へ向けて左掌を突き出した。

 そして全力で、部屋中に響くように叫び出す。


「うぉぉおお!!! これが私の能力です!『CUBEキューブ』!!!!」


 流伝るでんの身体はみるみるうちに、昔のゲームのような『ピクセル』が集まった、角張った形に変化して行った。

 だんだん解像度が悪くなる、という表現が正しいだろうか。

 正方形の立方体が人間の形に集まったような形…まさしく『CUBE』である。

 流伝るでんはその異様な身体に変身すると、二人へ向け戦闘態勢へ入った。


「これが私の能力です…これから地獄を見ますよ貴方達!!!」



 ───昔のゲーム……アーケードゲームのキャラクターのような姿となった流伝るでん

 一体、どんな能力なのか。この後、二人は地獄を見ることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る