第4話『復讐の幕開け』

 ─────現在、A班全員は元いた部屋、11階にあるAの113号室にいた。

 じょうかんからゲームの合格を宣言されたのは約30分前のことである。


 各メンバーが部屋でコーヒーを飲んでいたり、筋トレを行いくつろぐ中、突如その空間にビシッとした変化を与えたのはリーダーの湧座わいざだった。

 湧座わいざは、くつろぎの空気漂う部屋内、それを断ち切るように他メンバーへ招集をかけた。


くつろでいる中申し訳ない。ちょっとした仕事の件がある。集まってくれるかい。」


 メンバーはじょうが来る前のようにそれぞれの椅子へ腰をかけた。だが、先程とは少し違うこともあった。

 それは、湧座わいざかん以外、少し険悪な表情をしていることである。

 更に、その表情をする皆が揃ってじょうの方へ視線を向けているのだ。

 真っ直ぐと冷たく、鋭い視線。それもそのはずではある。

 初対面の我らに嘘をつき、能力を見せたのは30分くらい前……こうなっても仕方の無いことである。

 じょうはこの視線や自分の言動から、ある程度そう思われてるんだろうなと自覚はしている。

 そんなムードをかき消すように、また湧座わいざが皆へ向け話し出した。


「えー、先程5分前に仕事の依頼が上層部から入った。ジョー君にとってはこれが初仕事になるだろう……。」


 湧座わいざがそう話すと、おかっぱ頭で読書をし続けている『高波小凪たかなみこな』が、本を机に置き、話をさえぎるように口を開いた。


馬戸ばど班長、上層部から……と言いますと、『例の件』についてですよね。ならその件について嘘つきの新人酒蔵城さんに説明して差し上げればいいのでは無いでしょうか? 新人なら尚更必要ですよ。私たちの仕事に影響してきますから。」


 湧座わいざは頭をかきながら「こりゃ言われたな」と呟いた。

 苦笑いをする湧座わいざは、そのまま『例の件』と呼ばれるモノの説明をじょうへ向けて説明を始めた。


「じゃあ、話そうか……『例の件』について……。」



 ───『例の件』……それは、裏社会でうごめく『マフィア』に関する事である。

 銃の密売、薬物の密輸、そして寄生虫の取引……マフィアはそれら悪事を行い、資金を得ている。

 その目的は、個性ある各マフィアが唯一、皆が一致して目指すこと……『全マフィアの中でトップになる』である…。

 このマフィア同士の抗争、出世競争、これは表社会に大きく影響していき、ついには表社会と裏社会、『善』と『悪』の戦争にまで発展する一歩手前まで来ているという状態なのだ。


 現在の裏社会で巨大に目まぐるしい成長をしているマフィアの組織は大きくわけて五つに分けられる。


 一つは、日本のヤクザの『オサ』として君臨する、日本トップマフィア……『陸王会りくおうかい』…海外の裏社会では、通称『シックス・キングス』と呼ばれている。


 二つは、アメリカのギャング集団、巨大大麻畑や寄生虫増殖施設を持つと噂されている『Hunab Kuフナブクー』…。


 三つは、本場イギリスのマフィア組織であり、イギリスマフィアのトップ……『銃口マズル』…現在、一番の資金を保有している。


 四つは、本拠点をドイツとしている中国マフィア……『一群超人ユィーツィン・ツャオイェン』……主要メンバーの大体が『パラサイトヒューマン』だ。


 最後五つ、フランスを本拠点としているロシアンマフィア……戦力、火力、兵力、装備が5つの中で一番バランスがいい、『ラデガスト』……通称『太陽軍』である。


 この5つのマフィア組織が、現在の裏社会を牛耳ぎゅうじる極悪集団。

 これらが、『違法寄生虫取締部隊カクテル』では『例の件』として広まっているのだ。



 ───概要を聞いたじょうの心は燃焼していた。

 じょうは、自己中な悪への制裁、自分勝手な仇討ち、それが叶うのは、5つある主要なマフィアを全滅させれば自分の物語に終止符が打たれるのだと、心と脳で同時に考えた。

 強い執念、それが今じょうの拳へ握られている。

 険しい顔をするじょうへ向けて、湧座わいざが席から声をかけた。


「大丈夫かいジョー君? みんなより険しい顔をして。」

「……いえ、なんでもありません。ありがとうございます、わざわざ話していただいて。」


 じょうがそう言い作り笑いをすると、顔は不安げだが湧座わいざは皆に話を続けた。


「と、兎にも角にも、上層部からの以来だよ。とても重要だ……今から話そう。」


「依頼内容は次のようなものだ。AからZあるうちの、E班が昨日から全員行方不明だそうだ。しかしあてが無いわけじゃない。全員の携帯に取り付けてある発信機が、3つの場所から2つずつ反応があったそうだ。6人の班だから数も一致する。」


「何者かにさらわれたとしか言いようがないこの依頼、マフィアも関わってくると上層部は見てる……それを今回私たちA班が対応するって訳だ。」


 行方不明のE班の捜索、救助を上層部から任されたA班。そして、あからさまな怪しさ、なにかの罠かもしれない可能性が臭うこの一件……A班全員は疑いの感情が晴れなかった。

 だが、疑ってばかりで今回は行きませんということも出来ない事も事実である。

 A班全員は、今回の事件を即座に引き受けることにした。

 それに伴い、3箇所を全員で回るわけには行かないので、1箇所につき2名で行動することに決めた。


 1箇所目、東京都の『巣足すたり区』にある公園、『巣足・九分陸すたり・きゅうぶりく公園』……人の少ない夕方に、『灰音健はいねけん』と『墨香すみか・D・ギネス』が行く。

 この決定には墨香すみかが納得のいかない表情を見せていた。

 それはけんも同じである。


「なんでこんな野蛮な坊主頭と一緒に行動しなきゃなりませんの!? こんな学ラン小僧と一緒は嫌ですわ〜〜!!!」

「俺もこんなデカチチ&デカ尻お嬢様とはごめンだぜ!! 何が小僧だよ!俺19のお前は21であんま変わンねぇじゃねぇかよ!! 俺より身長高ぇからってテメェ!」


 2箇所目、千葉県にある博物館、『空円亭・鱈帝野くうえんてい・たらていの歴史博物館』……こちらも人の少ない深夜、『昼砂潤圭ひるすなうるけい』と『高波小凪たかなみこな』の『武術コンビ』が裏口から侵入する。

 このコンビはそれほどお互いを嫌ってはいない。むしろ、尊敬まで覚えるほどである。


「拙者はお主とか…。この間もそうだったな高波殿。」

「そうですね。また、任務中寝ないようにお願いしますよ?」

「異な事を申すな…はて、そんなことあったか。」


 3箇所目、東京都にある廃墟の映画館、『照夢映画館ていむえいがかん鳩音ばとん区店』……人がいてもいなくても影響は無いので昼に『酒蔵城さかぐらじょう』と『馬戸湧座ばどわいざ』が行く。

 これは湧座わいざが他の班員のムードや表情を見て、自らじょうと行動すると言い出したのだった。


「よろしくねジョー君。何かあれば護るから安心してね。」

「それは心強いです。僕も頑張りますよ。」


 一方、『稲出一斗いねでいっと』と『広呂名冠こうろなかん』はこの部屋残り、詳しい発信機の特定や、各メンバーのサポートをすることになった。



 ───今回のじょうの初仕事……これは、じょうの復讐劇の幕開けを意味している。

 この物語、じょうの活躍はまだ、始まったばかりなのだ。

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