第3話『俺の顔殴れたら合格ゲーム その2』

─────グォオオオと赤いオーラ、熱気、闘志が、この武道場に充満している。

それは、酒蔵城さかぐらじょうを中心として。

かんじょうを見守る後方の6人は、少々圧倒され、冷や汗をかいていた。

睡眠障害を患いわずらい大体は寝ていることが多い『昼砂潤圭ひるすなうるけい』でさえ、パッチリと目を見開き、腰の刀を抜く一歩手前の臨戦態勢になるほどである。


「なんと強い闘気……これでは拙者の目も覚めてしまう。の周りの空間だけがぐにゃりと歪んでいる…。」


目に見えて理解かるほどのオーラ、これ以上の事をじょうはしようとしている。

じょうは右拳を、顔の横に置いた。

さらに腰を右へ回し、下半身から上は右を向く状態。しかし、目線はしっかりとかんの方を向いている。

明らかにその姿勢スタイルは、右拳による一発に賭けたものだった。


「……『暴走兵器ランペイジ』……!!」


じょうはその姿勢を維持キープしたまま、かんに飛び込むように近づいた。


「僕の能力……それは『破壊力』を『付与』する能力!!」


じょうかんに殴りかかろうとする、その瞬間である。


じょうの右拳が、濃く発色する煙のような『血のように真っ赤なオーラ』を、グローブのようにまとい始めたのだ。

周りに立ち込めるオーラとは比較にならない量のオーラ…気…闘志……まさに『破壊力』を一気に拳へ乗っけたようである。

これにはかん固唾かたずを呑み、前へ防御するように腕を構えた。

そしてじょうはその闘気を纏った拳を、思い切り防御するかんへお構い無しに殴りつける……のではなく、かんの足元の畳に重く、鋭く、風を切って打ち付けた。



───その際生じた打ち付けられる音はまるで爆薬が爆ぜた音のように激しく、鼓膜を揺さぶる大爆音であった。

音から分かる衝撃、それは畳を浮かし、砂ぼこりをまるで『霧』のように舞わせ、かんはそれによる視界不良を起こした。

さらに畳が浮いていることによって、一瞬、足を滑らせてしまった。

じょうはそれを狙っていたのだ。

足場が安定せず、視界が悪くなるというバッドコンディションを、意図的に作り出した。

宙に浮くような姿勢のかんは、脚だけでも立て直そうとしていた。


(……『破壊力』をさらに付与する能力か…。破壊力を纏ったパンチは地面をえぐる威力…。)


かんがそう考察する刹那、顔を守っている腕に激痛が走った。

グゴゴッと、骨と骨がぶつかり合う音が体内に響いた。

構えた腕と腕の隙間から覗き込むと、そこにはじょうの『破壊力』を纏った右拳が、自身の腕を殴りつけている光景が見えた。


「くらぁぁぁえぇェェ〜ストレートォー!!」

「うぐォっ!」


じょうの声と勢いが乗せられた一発のパンチ、かんは腕が折られる、折られればこのまま顔にまでパンチが打たれる、そう思った。

しかし、そのパンチはかんの腕を折らず、軌道を変え、かんの腹部にヒットした。

拳は皮膚を、肉を、筋肉を、更には内蔵に届く程、枕に手を押し込むようにめり込んだ。

さらにその拳は止まらず、向こうの壁向けてかんを殴り抜け、吹き飛ばした。

背中から吹き飛ぶかんは、大の字で壁に打ちつけられると、そのままうつ伏せになるように倒れ込んだ。



───じょうは、倒れたかんの元へ駆け寄ると、かんはその場で立ち上がった。

じょうは、服のホコリをパッパッとはらうかんに「大丈夫ですか?」と一言かけた。


「……あぁ大丈夫だ。とりあえずお前は俺の顔を殴ってはいないが、合格だ。」

「合格なんですか?」

「これ以上続行できねぇ。腕ん骨にヒビも入ってるだろうし、お前のパンチで顔打たれたら死んじまうよ。」


するとじょうの後ろからドンッと何かが乗っかってきた。

正体はリーダーの湧座わいざであった。

湧座わいざはニコニコと笑うと、じょうの頭を何回も撫でた。


「やったじゃないかジョー君!! 試験合格ゲームクリアだ!!」

「あ、ありがとうございます…。」


少しうるさい声量なのでじょうは耳を片方塞ぎながら話した。

さらに湧座わいざじょうを撫で回す。


「改めて、君の能力を詳しく教えてくれないか!!」

「え、この際だからまぁ別に構いませんけど……。」



───『酒蔵城さかぐらじょう』の持つ能力名は『暴走兵器ランペイジ』である。


能力は自身の『攻撃』に『破壊力』を上乗せする能力。

その破壊力は、血のように赤い、煙のようなオーラとして現れ、拳や脚など攻撃する部位にまとう。


普通に殴り生じる破壊力が50なのだとすれば、この能力により破壊力は上昇し、300は下らない。


これが、じょうの持つ能力……そして、亡き父の遺産なのだ。

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