私
non
第1話
「もう、あんたなんか知らない。大嫌い。」
そう言って私は飛び出した。外は大雨が降ってたけれど、どうでもいい。傘もささずに走った。周りには何にもない。太陽も月もない。どこまでも広がっていて終わりがない。私がどこにいたとしてもどうせ見つかってしまうことはわかっているが、嫌気がさしてついに逃げ出した。
しばらく走って疲れたので、私はその場に座り込んだ。はぁー、とため息をつく。何してるんだろう、と自己嫌悪になる。
すると隣にあいつが来た。
「ねぇ、急にどうしたの?」
私はもう、抑えられなかった。
「急に・・・?違うよ。もっと前から思ってたよ。あんたのその誰にでも優しくしたいとか、誰からも好かれたいとか、そういうのに付き合うのが面倒なんだよ。もっと、本心を言ってみたらどう?他の人なんてどうでもいい、自分さえ良ければいいですって。本当は全然興味なくて、でも嫌われたくないから何となく接して、何となく取り繕って、ふらふら生きているんでしょう?」
私は考えついたことをそのまま言った。あいつはいつものように
「そうだね。」
と少し笑いながら言った。
「どうして笑っているの?私はその笑顔も嫌い。にこにこじゃなくて、にやにやって言葉がぴったり当てはまるようなその笑顔が嫌い。誰かに怒られてる時も褒められてる時も、どうしていいかわからなくなったらとりあえず笑っておく。意気地なし。」
「そうだね。」
「あなたは本当はどう思ってるの?何を考えているの?どうしたいの?私にはわからない。分からなくなってしまったのか?あぁ、もうどうでもいい。」
私は顔を伏せた。もう見たくなかった。
あいつを。私を。
少し時間が経って、あいつが口を開いた。
「・・・確かに、私は誰かに嫌われたくないし、むしろ好かれたいと思ってる。にやにやしてしまうことも知っている。当たり前だよね、私とあなたはおなじ“自分”なのだから。それに、このことを一番嫌ってるのは本当はそう思ってるあなただよね。みんなと違うことも多くて、それがいいと思いたくなったのも、ある意味、諦めている。みんなと同じになることを。だから、みんなと同じだから安心と言うこともわからない。みんなと同じになんかなれるわけがない、自分とみんなは違うって。あなたは自分をみんなよりも偉いと思ってる?みんなが自分より劣っていると思ってる?違う。あなたはみんなよりも優れていたいと思っているんだ。それでしか、自分の価値を示すことができないと信じているから。自分自身の性格では認められないから、何か付加価値ようなものをつけてそれで、認めてもらおうとしている。だから、見捨てられたと感じた時、失敗した時に自分が認められていないと感じてしまうんだ。でも、本当にそうだろうか。あなたは本当に価値がないのだろうか。確かに羨ましいと感じる人もいる。自分はそうはなれないと、苦しくて辛くなる時もある。でも、あなたにはあなたの魅力があるのではないか?自分でそれに気づいていないだけで、自分のマイナスな面ばかりを見ていて、プラスな面を見ようとしていないのではないか。もっと、“自分”を知ろうと思わなければ。本当に自分はマイナスな面しかないのか。他者から見て自分はどうなのか。俯瞰的に見てみるんだ。もっとたくさんの”自分”を見つけよう。そうすれば、きっとうまくいく。」
私は顔を上げた。
いつの間にか空は晴れていた。
またいつか、大雨が降ることがあるだろう。それでも生きていかなければならない。その度に、私は”自分”と向き合うのだ。
あいつが手を伸ばしている。私は手を握って立ち上がった。
少しだけ視線が高くなったように見えた。
私 non @Kanon20051001
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