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 大型MBが倒れるや否や、接近主体の機体が一気に飛び出していった。


「マリアベル今だ!」


 バードンの声を聞いてか、それとも自身での判断か、マリアベルもまた大型MBに乗り込んでいく。

 大型MBの上では今まで攻撃に参加できなかった腹いせかの様に多くの機体が暴れていた。むろん大型MBの上部にも砲台や小型MBの射出口等の迎撃装置はあるが、近すぎて使えなかったり、それだけにかまける事も出来ず次々と破壊されていった。

 マリアベル達が乗り込んで数秒後に再び立ち上がった大型MBだったが、周囲の小型中型MBも減らされ、徐々に押されていった。


「ロケット弾全弾命中を確認。ギリギリでしたねバードン」

「もう少し遅かったら外してる所だったな」


 バードンは、倒れ動きを止めている最中の大型MBに、残りのロケット弾を命中させていた。むろん、他のプレイヤーもここぞとばかりに手榴弾やグレネード等、火力は高いが当てにくい武器を撃ち込みダメージを与えていた。

 しばらく攻撃を続けていると、大型MBの内部で爆発が起こり始め、内側から火を噴き始めた。すると次々と大型MBの上にいた機体が飛び出し離れ始めた。バードンはそれを眺めていると、ハッと何かに気づき、地図を見る。ダイヤルを回し、縮尺率を下げると大型MBの赤いマーカーの上に青いマーカーがポツンと残っていた。それを見たバードンはマリアベルに通信を送る。


「戻れ! マリアベル! 小太郎! 爆発するぞ! おい! 聞いてるのか? おい! 早く戻れ!」


 少しして返事が返ってくる。


「え? え? 爆発? でもまだ人居るよ?」

「そいつらアホだから放っとけ! 無視しろ! 急げ! 離れろ!」


 残って居たのは、自滅覚悟のラストアタック狙いのプレイヤーだった。しかし、周囲のプレイヤーからの攻撃は依然として続いており、決して必ず手に入る行為ではないのだ。

 大型MBのマーカー上からマリアベルのマーカーが離れた瞬間、大型MBは大爆発を起こし倒されたのだった。そして、近くに居たマリアベルはその爆風に煽られ吹き飛ばされるのだった。


「きゃああぁぁぁ!!」


 先程までの自前のスラスターでの移動速度とは比べ物にならない速さで上空に吹き飛ばされたマリアベルは、バランスを崩しきりもみ回転をしていた。


「ギル落下地点予測!」

「了解しました……マーカーに出します」


 地図上に緑の円が表示され、それを見たバードンは受け止めるべく予測落下地点へ飛び出した。そして目的地に到着し、目視で確認すると一気に上昇した。


「マリアベル! こっちを確認できるか? 合わせろ!」

「え!? あ! 見えた! ありがとう!」


 左腕は肘から先が無いが、なんとか両腕で受け止めようとバードンは位置をあわせつつ上昇していく。一方、マリアベルも位置を合わせようとスラスターを小刻みに動かし速度を落としながら降下していく。

 そしてマリアベルはコットスを踏みつけると、大幅に速度を落とし無事に着地した。


「俺を踏み台にぃ!?」


 バードンは一瞬驚いが、妙に嬉しそうに叫ぶと、各スラスターを全開にしてなんとか着地した。


「着地時の衝撃で脚部にダメージ、一部スラスターが使用不能になっています。また上部24連ロケット砲、大破しました」


 着地後のギルの報告に


「ま、まぁ、言ってみたかったセリフが言えたしね」


 すこし声が震えていた。


 予想通り、10機目の大型MBが倒されると周囲のMBは進路を北に取り撤退を始めた。そして基地から掃討戦の開始のアナウンスが流れるのだった。


 バードン達は掃討戦には参加せず基地へ撤収するグループの中に紛れていた。


「爆発するなら最初に言って欲しかった」

「そうだな、9機目の爆発は見ただろ? アレを見たら想像出来ると思っていた」

「分かんないって、凄い爆弾で倒したんだなーくらいにしか思わなかったから」

「まぁ、とりあえずミッションクリアおめでとう。弾代修理費もろもろ引いても黒字にはなるだろう」

「やったー! おめでとーう、ありがとーう」


 今回の感想などを話しながら進んでいるうちに基地に到着した。


「とりあえず基地に着いたしパーティは解散する。クランハンガーの件とか色々あるだろうが、頑張ってくれ」

「はい、ありがとうございます。出来たらまた相談させてください」


 コットスのメインディスプレイに、マリアベルからのフレンド申請ウインドウが開いた。それを見たバードンは一瞬考えるが了承した。


「……おう」

「なんですか? 今の間は!」


 マリアベルの追及にバードンは煙に巻きながら、話を進めた。


「気にしなさんな、そん時はドーナッツでもおごってやるよ、小太郎君もまたなー」

「今日は本当にお世話になりました。ありがとうございます。バードンさんもギルさんもお元気で、またお会いしましょう」

「お疲れさまでした。マリアベル、小太郎。またお会いできる日を楽しみにしています」

「ちょっともー、お疲れ様でしたー! じゃぁまたー!」


 マリアベルの挨拶を聞くとバードンはパーティを解散ボタンを押した。



 アンカーポイントの商業地区をジープのオープンカーに2人の男性が乗っていた。

 ハンドルを握っているのは、全体的に四角く彫りは深いがどこか東アジア風な顔立ちをした男で、助手席には茶髪のロン毛でややたれ目気味の優男が肩にオウムを乗せていた。バードンとソルダだ。

 ソルダは大きな紙袋からドーナッツを取り出し食べながら、今回行けなかった防衛戦の話を聞いていた。


「良かったじゃねぇか女の子と組めて、しかもタイタンでスラスター使いこなす程の腕前なんだろ?」

「腕は良いんだろうな、だが色々知らなさ過ぎて、初見はマジで地雷だとお思ったからなー」

「その登場シーンはなぁ、そんな様なホラー映画昔あったなぁ」


 おっさん二人が話題に上げているとは知る由もないマリアベルもまたアンカーポイントの商業地区にいた。バードンの助言もあり、それがセンスがいいのか悪いのかは置いといて。タイタンのパイロットスーツの上に着物を羽織っていた。そしてその目の前に男性プレイヤーが立っていた。


「なに? どいてくれます? 顔も見たくないんですけど」

「ごめん、マリアベルちゃん少しだけ話を聞いて欲しんだ」

「ランディ殿、これにて失礼したします」

「え、ああ、小太郎喋れるようになったんだね」

「ええ、おかげさまでね!」


 ランディは元マリアベルのクランメンバーで、自分の妹をクランに入れた事により、二人目の姫が現れクランを崩壊させた男だった。

 当初の狙いでは、他の男性メンバーの目を妹に向けさせ、機を見て独立させ、残った自分とマリアベルの二人っきりのクランを手に入れるはずだったのだ。

 誤算は男性クランメンバーの食いつきが良すぎた事で妹が暴走、結果一人残るとも言えず一緒にクランを抜けさせられてしまったのだ。

 そして計画が狂ったまま進み、結果マリアベルは一人で防衛戦に参加したのだった。

 しかたないので、ランディは偶然を装いマリアベルに接触、謝ってクランに再び入れてもらおうとしたのだった。


「え? 『プリンセスガーデン』? 解約したに決まってるでしょ、維持費凄いんだから」

「じゃあ、じゃあさ! 二人で一緒に新しいクランを立ち上げようよ!」

「何言ってるの!? だいたいねー! ──」


 バードン達は、次は湾岸基地攻略とかいいよねー等、雑談しつつ運転をしていると、車のカップホルダーに置かれたギルが声を上げた。


「バードン、前方の歩道側にマリアベルと小太郎がいますよ」


 ギルの言うとおりに歩道側に目をやるとちょっとした人だかりと聞き覚えのある声が聞こえてきた。バードンは歩道に寄せ車を止めると、人だかりに目をやる。そこには、着物を羽織ったマリアベルと、それに土下座しつつ足を掴んでわめいている男、ランディの姿だった。

 バードンが車のクラクションを鳴らすと、周囲の人が音の方へ眼をやった。その中にはマリアベルも入っておりバードンに気が付くと、マリアベルは小太郎に指示を出す、小太郎はランディの尻に噛み付き、ランディは痛みで手を放してしまった。マリアベルはバードン達の車に駆け寄ると、ひょいと扉を飛び越えて後部座席に飛び乗り、続いて小太郎もマリアベルの元に飛び込むと、マリアベルは叫んだ。


「バードンさん出して!」


 その声に「はいよ」と答えるとバードンは車を走らせた。


「お嬢さんどちらまで?」

「そちらの方が、ドーナッツをごちそうしてくれるって言ってましたの」


 ソルダの問いに、バードンを指さし乗りよくマリアベルが答える。


「んじゃまぁ、ここを離れる意味でハンガーエリアでいいかい?」


 ハンドルを握りながらのバードンの問いに「よろしく」とマリアベルは答えた。

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