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 バードンは、カタパルト射出による強いGでシートに押し付けられるも、しばらくするとやわらぎ、気にならない程度になってきた。


「さて、そろそろF-10に入るが、付いてきているか?」

「だいじょうぶー」

「なら少し時間もあるし、俺のDFを紹介させてもうよ」

「そーそー、さっき連れてなかったから気になってたんだよね、なに犬?」

「残念ながら犬型ではない」

「まさか猫?」


 マリアベルは犬派なのか、声のトーンが若干落ちていた。


「それも外れだ。ギル、自己紹介しな」

「こんにちは、マリアベル様、小太郎様、私はバードンのDFを務めるギルと申します。お気軽にギルとお呼びください」


 落ち着いた男性の声が、スピーカーから響く。


「ご丁寧にどうも! 初めまして、私はマリアベル、そして」

「マリアベルのDF、小太郎です。よろしくお願いします。あと敬称は不要でお願いします」

「あ、わたしもー!」

「かしこまりました、マリアベル、小太郎、よろしくお願いします」

「それでギルさんはどんな姿をしているんですか?」

「よろしいですか? バードン」

「ギルの画像フォルダのやつ好きに出してくれ」

「了解しました。……この様な姿をしております」


 マリアベルは、バードンから送られてきた画像を音声操作で開くと、テーブルに置かれた金属製の円柱が写っていた。 


「え? どこ? 円柱?」

「ええ、そうです」

「どうやって移動するの?」

「上面下面の少し太い部分がタイヤになっているので、横に倒れる事でそれを使って移動することができます。ですが、バードンの腰に吊るされて移動する事が多いですね」

「不便じゃないの?」

「こちらの画像をご覧ください」

「うっわ、これはこれでなんて言うの……?」


 次に送られてきた画像には、飲み物を乗せた銀色のトレイを持つ執事服の男性が写っていた。ただし首から上は無く、そこに先程の円柱が刺さっていた。それを見たマリアベルは、何と返したらいいかと迷って会話が途切れた所で、バードンが返す。


「まぁ、それ買ったはいいけどあまり使って無いしな。さて、そろそろこれからの予定を話そう。まず9機目、こいつは無視する。狙いは10機目だからな。とりあえずこのままC-10まで移動する、より正確に言うならC-10-4~6位まで行けたらいいなと思っている」


 バードンが言い終えた所でマリアベルから質問が入った。


「はい!」

「はい、マリアベル君」

「マップに3つ目の数字なんて無いんだけど?」

「プレイヤー間で広まった、より細かく位置を指定する言い方なんだ。マップ上のマスを9等分して左上から1、2、3と振っていって右下が9になる。多分知らないだろうから言ってみた」


 雑談をしつつ進んでいると、遠くで爆発したような音が聞こえ、北西の方角で黒煙が上がっているのか見えた。


「北西の方向の爆発、9機目が沈んだな」

「え? ホントだ、地図上からD-8の大型が消えてる」

「それとマップのA-9-3辺り見てみろ、MBが湧いてきている、多分大型もそこら辺から出てくるだろう」


 バードンの視線の先にある、地図表示用のディスプレイでは表示された地図のA-9の上部分がじわじわと赤くなっていた。


「A-9なら西にズレた方がいいんじゃないの?」

「いや直進でいい、これから拠点近くからの長距離攻撃が始まるはずだ。西にズレると射線に入って邪魔になる可能性がある。フレンドリーファイアは、された方はダメージ食らって修理費かさむし、させた方はスコアが減点され報酬が減る。ついでにお互いの名前も解っちまう。どっちにも良いことが無い上に面倒なんだ。だから混戦に入ると長距離射撃は減る」


 ここまでの長距離射撃となるとメインはミサイルとなり、撃ち落とされる可能性もあるが、参加賞目当てに基地付近から攻撃をするプレイヤーは一定数居る。


「ふーん、なら真っすぐいきましょ」


 長距離攻撃中の移動に思い当たる節があるマリアベルはすこし反省した。

 しばらくすると追加装備の燃料も切れ、バードンとマリアベルは着地体勢に入る。バードンは追加ロケットを切り離すと、各部バーニアを噴かし減速をかけ地面を滑りながら着地した。一方、マリアベルはハングライダー型ロケットとの固定具を外すと離し、腰から伸びたスカート状のスラスターを器用に操ってふわりと着した。


「デーデン! さて問題です。ここはマップ上で言うと、どこでしょうか? チッチッチッチ……」

「え? え? 私が言うの?」

「後5秒。チッチ……」

「……C-10のぉぉ4!」


 突然のバードンのクイズ口調に焦るマリアベルだったが、意図を理解すると、現在地を答えた。


「はい正解! それはそうとスラスターの使い方が上手いな、もしかして空中戦とかいける?」

「小型の飛行型を真っ二つにするくらいならね」

「そりゃ凄いな、スラスター使いの奴が、それはかなり難しいと聞いていたからな」

「もっと褒めてもいいよ!」


 その返答にバードンは、声だけでもドヤ顔しているんだなと想像できた。


「スゴイスゴイ。さて大型MB御一行はB-9に入ったな」

「む~! で、どうするの? 真っすぐB-10まで行ってからB-9に向かうの?」

「いや、このまま西、C-9に入って他のプレイヤーの後を進む」

「そんなことしたらMBいなくない?」


 マリアベルは少しでもポイントを稼いでおいたい様だったが、バードンは違った。


「道中の小型中型はいなくていいさ、狙いは大型だ。無駄弾は使いたくない」

「へー、露払いってわけね、ワルいんだ」

「そんな事は無い、ポイントを譲っているだけさ」


 そのままC-9に入ると、大型MBの居るB-9へ向かい始めた。

 B-9に入ると小型中型MBの残骸が増え始め、その先に多数のプレイヤーと小型中型を引き連れた大型MBが見えてきた。


「見えてるか? アレが今回の獲物大型MBだ。見れば分かるが、脚を攻撃している奴が多だろ。そのうち脚が折れてバランスを崩すと倒れるから、それが上に乗る合図だ。分かんなかったら他の奴らが一斉に飛び乗り始めたら乗ればいい。俺は足を攻撃してくる。頑張れよ!」


 バードンは、大型MB攻めの知っていることを軽くマリアベルに伝えると、コックピット内の側面に付けられたレバー上部のスイッチを親指で押し込むと、カチカチと音を鳴らしながら一気に前にスライドさせた。

 コットスの背面に装備された追加ブースターが展開し最大出力で一気に火を噴くと、それに合わせ各スラスターも点火、一気に加速したコットスは大型MBに向かって突進した。

 大型MBが先に着いていたプレイヤー達に目が向けていたせいか、迎撃という程の迎撃を受けずに大型MBに肉薄すると、左列一番前の脚の関節へ向け上部に装備したロケット砲とグレネードで一斉射撃した。かなり接近して撃ち出された事もあり、24発のロケット弾とグレネード弾は全弾狙った関節一帯に命中した。


「お見事ですバードン。全弾命中です」

「あんだけ近けりゃな!」


 そのまま大型MBの胴の下へ潜り込み大型MBの後ろに飛び出す。周囲のMBへ向け、右腕のライフルと左手のグレネードで牽制しつつ着地、大型MBからの射撃を避ける様に大きく旋回をすると再びブースターを点火、先程攻撃した関節へ向けて飛び出した。

 バードンが派手にダメージを与えたのを見た周囲のプレイヤーは、その脚に攻撃を集中させた。その結果、バードンは流れ弾の関係で前回程は近づけなかったが、再びロケット砲とグレネードを一斉射撃。今回は狙った位置に当たったのは半数程でしかなかったが、周囲のプレイヤーの攻撃もあって、関節の装甲が剥がれてきていた。


「関節装甲の剥離を確認」

「グレネードまだ残ってるが仕方ない」


 大型MBの前に出ると、大型MBの各所にある砲台から狙われる。着地と同時にバーニアを噴かし、流れる様に左右へ回避しつつターン。左手のグレネードを腰のハードポイントにマウントすると。先程まで攻撃をしていた脚の関節へ向け、左腕を正拳突きの様に突き出した。

 それに合わせてバードンは、左レバーの上部にある誤作動防止の蓋を親指で弾き開くと中のスイッチ押し込む。

 突き出された左前腕の先の部分から激しい炎が出ると、そこから先の部分がロケットパンチとしてに飛び出した。しかも後部にはワイヤーが付いており、少し伸びると前腕がスリットの位地で剥がれ、円盤状のパーツとなってロケットパンチに繋がって飛んで行き、またそれにもワイヤーが付いていた。最終的に5枚の円盤状のパーツを連れ飛び出したロケットパンチは、迎撃される事無く関節にめり込むと手首を振った。その動きでワイヤーに繋がれた円盤状のパーツが巻き付く様に張り付いた。そして数秒後に円盤状のパーツは爆発を起こした。

 バードンの攻撃がダメだしとなり、関節が砕けバランスを崩した大型MBはバランスを保とうと、動きが止まる。動きが止まった事で狙いやすくなったのか、続いて右側の脚が破壊され、二本の脚を失ったことでバランスを崩した大型MBは轟音をあげ横に倒れるのだった。

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