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「お色直しに時間をかけすぎたな」

「脚部を何にするかで迷いすぎですよ、バードン」


 ハンガーを出ると基地周辺にいた機体の大半は戦場へと飛び出し、残りは引き続き遠距離攻撃などを行っていた。

 ハンガーから出てきたコットスの両腕には『5連レーザーハンド』がぶら下がっていた。

 標準的なマニュピレーターより二回りは大きい手、そしてそこには5本の太くて丸い指、先端にはレーザーの銃口たる穴が開いていた。前腕には連射性を高めるための放熱板があり、大きめの肩アーマー内には射撃回数を増やすためにエネルギータンクが装備されていた。これはバードンの度重なる改造によってたどり着いた形だった。

 足回りは、さっきまでの積載量重視の重量級四脚から、格闘戦を見越して機動力を備えた中量級二脚に変え、頭部はセンサーではなく、2連装の機関砲になり、機体側面にはスモークディスチャージャー等オプションパーツを付け、背面のハードポイントには大型の追加エネルギータンクを装備していた。

 ギアーズ・コンクエストでは、機体を立ち上げたら立っているだけでもエネルギーを消費する。歩こうが、ブースター全開にしようが、消費量の多い少ないはあっても使用するエネルギー元は同じだ。それは基地などで補給をしない限り回復することは無く、機体に積んだエネルギーを消費して空にしてしまうと機体は動かなくなり、ただの鉄の棺桶と化す。さらに、エネルギー兵器に至っては攻撃するたびにエネルギーを消費していくのだった。そのためバードンは『5連レーザーハンド』の改造で内蔵エネルギータンクを大型化させ、さらに背面に追加のエネルギータンクを背負う事で、機体の総エネルギー量を強化し、持久力を高めたのだった。全ては燃費の悪い『5連レーザーハンド』を使いまくる為に。


「ギル、混み具合はどうだ? やっぱ中央か?」

「中央の5~10ラインのMB密度が濃いめですが、その分プレイヤーも多くなるので、MBの奪い合いになると予想します」


 マップを映し出しているディスプレイを見ると、確かにギルの言うエリアにはMBが多く、大型が3機確認できた。そして、未だに隣のエリアからMBがあふれ出していた。そしてそれを迎え撃つかのようにプレイヤーの表示も多く、遠距離攻撃も継続しているようで、MB密集エリアに小さな空白が生まれては塗りつぶされを繰り返していた。


「東はー、なんか団体がいるな陣形組んでるし」

「クラン名『灰色の狼』の登録機体、36機を確認」


 東側の11~15のラインは中央程ではないが、そこそこの数のMBが居り、大型も1機確認できた。

 そこで目立つの3つの集団があった。『灰色の狼』の構成員で作られた3つの集団は、互いに連携し、かなりの勢いでMBを削っていた。『灰色の狼』以外のプレイヤーもいるが、東側は彼らの独壇場だった。


「東も無いな。残るは西か、って、なんか空いてるな」

「大型MBが西側には居ないのが大きいと思われます」

「消去法だ。西にしよう」


 バードンは、基地に設置されている電磁カタパルトと、使い捨てロケット(有料)を使い、一気に加速すると西側の戦闘エリアへ向けて飛び立った。そして周囲にMBの少ない位置を選び、バーニアを吹かし着地の勢いを削りながら着地をする。


「着地時の脚部損傷軽微、問題ありません」

「オッケー、まずは2時の方向に居るMBから片付けよう」

「了解、メインディスプレイにマーカーを出します」


 バードンは一番近くに居るMBに狙いをつけると、右腕の射撃に必要なエネルギーのチャージにしながらその方向に向かった。射程圏内に入ると一気に加速しそのまま飛び上がる。障害物の影響を受け難い上空からMBをカメラに捉えるとロックオン。指を開きコットスの右腕から放射状に放たれた5発のレーザーは2発が命中、易々と小型MBの装甲を貫き破壊した。


「小型MBを1機撃破、バードンこれはオーバーキルなのでは?」

「次はチャージ75%でいくか」


 そう言うとバードンは、今度は左腕のチャージに入りながら、次の敵を探す。


「……75%、チャージ停止、左腕射撃可能です」

「ここら辺に居るはずなんだが……いた。変なとこに隠れてやがって」


 そこには瓦礫に挟まって身動きが取れなくなていたMBが居た。バードンはすかさず左腕から5発のレーザーを放つ、抜き手の様に揃えた指から撃ち出されたレーザーは先程のより少し色が薄かった様に見えたが、全弾MBに刺さり破壊した。


「小型MBを1機撃破、もう少し威力を抑えれそうですがどうしますか?」

「全弾当たらない事もあるから威力はこれで良いさ」

「了解しました。以後指定が無い限りは、チャージは75%で停止します」


 その後もバードンは、1~2機で動いているMBを中心に狩り続け、気が付くと西の端、E-1の近くまで移動していた。


「バードン、E-1で救援要請信号を感知しました」

「救援? これか、MBは1機ねぇ。救援の範囲が狭いのも怪しいな。ギル周囲に機影は?」


 バードンはとりあえず、救援要請信号の方へ向かった。そして着いた先は破壊された無人の前哨基地だった。信号の発信源は前哨基地の倉庫と思われる建物からで、その入り口をMBがこじ開けようとしていた。

 救援要請信号は文字通りプレイヤーが助けが欲しい時に出される信号で、信号が届く距離はその装置は値段によって変わる。バードンは、周囲に敵影は小型MBが1機であること、そして信号の範囲が狭いと言う事からPK(プレイヤーキラー、他のプレイヤーを倒す事に喜びを感じるプレイヤー)の可能性を疑っていた。


「現状の装備での範囲ですが、確認できた機影は発信者とMB1機のみです」

「状況を確認したい、そいつと繋げられるか?」


 ギルは、信号元に対して通信を試みたが、呼び出しにすら移行せず無音のままだった。


「呼び出しに移行しませんでした。反応からの推測ですが、燃料切れの可能性があります」

「そこまで使い切るって、素人かよ。まぁいいい、ガス欠ならいきなり襲って来る事はなさそうだし、とりあえずMB排除してそいつの面を拝もう。エンブレムが判ればある程度は対処もできる」


 このゲームは、機体名の変更はもちろん、自キャラも、プレイヤーが死に自キャラを再生させている時に、課金アイテムを使えば見た目と名前の変更ができる。

 しかし、1つだけ変えることが出来ないものがあった。それが『エンブレム』だ。エンブレムの表示は義務化されており、プレイヤーのゲーム内での履歴はすべて『エンブレム』に紐づけられ、施設を利用するたびに更新されるのだった。内容に公開、非公開の項目はるが、ゲーム内の犯罪歴等は非公開に出来ない。そして罪を犯し、それを清算しないと、表示項目が赤色の文字で表示されるようになり、一目で犯罪者と判るようになり、ゲーム内で賞金首となるのだった。


「まずは釣ってレーザーで焼くか」

「報告します。アノマロカリスが1機軌道を変更、こちらへ向かっています」

「マジか、……クッソ!」


 バードンは一瞬考えてから悪態をつくと、ペダルを踏み込みブースターを噴かす。一気に加速したコットスはMBに肉薄すると、右手を握り、肘を大きく引き振りかぶると、勢いを乗せたまま右手を勢いよく振りぬいた。


「用意してて良かった格闘モーション! いくぜぇ!! 5連レーザーぁあ!!ナッコウゥ!!」


 バードンの掛け声とともに突き出した右手が、ひしゃげながらもMBの装甲を貫き吹き飛ばす。続けざまに頭部の機関砲が火を噴き追い打ちをかける。右手によって開けられた穴に弾丸が吸い込まれると、内部を破壊されMBは沈黙した。


「小型MBを1機撃破、右腕マニュピレーター破損、射撃不可能になりました。近接攻撃を行った理由を聞いても?」

「アノマロが来て時間が無いのと~、エネルギー残量と色々だ! ギル! 対象のエンブレムの解析!」


 左手をチャージしながら構え倉庫の中を覗くと、そこには黒い女性型タイタンが倒れていた。


「エンブレムを確認、照合開始します。……レッドネームではありません。続いてクランエンブレムを照合開始します。……レッドネームではありません」

「ならとっととずらがるか」


 バードンはチャージしていた左手で倉庫の天井を薙ぎ払うと、タイタンフレームを右腕で担ぎ前線基地へ向け撤退した。

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